(原発を抱えている日本の親の責任として知っておかなければならないことでもあります。)
日本には、原発の「安全」を守るために「原子力安全委員会」という組織があります。
その安全委員会が数年前(平成18年の9月ですが)に、いかめしい書類「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」というのを出しています。
簡単に言うと「原発は地震でどうなるのか、どうしたら良いのか」を解説しているのです.
そこに、驚くべきことが書かれています.
1)
大きい地震が起こったら「想定外」として良い。
2)
想定外の地震が起こると「大量の放射性物質」が放散される。
3)
公衆に対して放射線被ばくが起こる。
4)
地震で極めてまれに津波が発生する.
・・・・・・・・・
私もこの説明を専門委員会で受けて、ひっくり返るほど驚いたものです。そして冒頭に次のように質問しています(第2回専門部会速記録から).
「この地震指針は、
1.
原子炉を守るためですか?
2.
運転を継続するためですか?
3.
付近住民を守るためですか?
なにが目的ですか」
バカらしい質問と言えば、バカらしいとも言えます.地震や津波から原子炉を守るのですから、原子炉や運転を守ることができれば同時に付近住民を守ることにもなるからです。
しかし、私の目の前にある書類には、「原子炉は守るけれど、原発全体は守らないし、付近住民など視野に入っていない」という内容だったのです。
たとえば、「原子炉の耐震性はよくよく考えるけれど、冷却するために必要な電源などどうでもよい」という感じでした。
今回の大震災の余震の時に、「震度4」で東通原発の電源がすべて(通常、予備、非常ディーゼル)壊滅してしまいました。また2007年の中越沖地震では東電の柏崎刈葉原発で変電所が高い黒煙をあげて燃えました。
原発が「震度4」で全部の電源を失うということは到底、日本人の常識に反するのですが、「原子炉だけは守るけれど、後は知らない」という内容だったのです.
この私の質問に対して、内閣府の課長はピントの外れた答え(わざとですが)を延々としました。
そこで、仕方なく、
と聞きました(ダブルクリックすると大きくなると思います)。つまり、理屈は通っていても、地震が来ると付近住民が1万人死んでも関係がないということではないか?との質問でした。
これに対しても、ノラリクラリとやられたので、
と3回目の質問をしました。会議では多くの委員が均等に発言するために、一人が3回も連続して発言するのはややルール違反ですが、このままでは「地震で倒れる原発ができる」と思った私は食い下がったのです.
全ての質問は官僚と学者の連合軍にあしらわれ、議長は他の委員を指名しました。
ここで「電力会社が間違えて原発を作ると、その結果、何が起こるか判らない」という「地震指針」が通ってしまったのです.
悔やんでも悔やみきれない瞬間でした。
今になってみると、その時に机の上に駆け上がって「反対だっ!」と叫んだら良かったのか、そんなことをしたら守衛につまみ出されるだけだったか、そうはいってもあのときに追求の手をゆるめたのが今度の事故になったと思うと残念でたまりません。
(平成23年4月16日 午前9時 執筆)
武田邦彦
http://takedanet.com/2011/04/post_c063.html
私はかつて原子力エネルギーに夢を持っていました。
日本は資源が少ない国でしたが、技術は世界一ですから、何とかして技術力で日本人が豊かな生活ができるようにと思ったのです.
幸い、日本の原子炉(軽水炉)は水で中性子を減速するので、内部に自動停止装置を持っているようなものですから、「事故は起こらない」、つまり「原子炉は暴走しない」というタイプなのです.
原子炉ばかりではなく、耐震建築にしても、電気設備やコントロールにしても、日本の技術や運転は本当に世界一と言って良いと思います。
だから、原発のような危険なものは世界で日本ができなければ、どの国もできないはずだと考えていたのです.
私が書いたかつての文章の中に「原発は安全だ」というのがありますが、考えてみると「原発は安全だ」というのは正確ではなく、「安全な原発を作る事ができるので、安全に作れば安全だ」という事だったのです。
・・・・・・・・・
そんな私の夢が大きく崩れたのが平成18年でした。この年の9月、原子力安全委員会は次のような耐震設計の審査基準を出しました。
この指針は旧指針と呼ばれた昭和56年の指針を改定するのですから、全体としては優れたものだったのですが、一つ、大きな欠点がありました。
それは、それまで「原発は絶対に安全に作る」というのが基本だったのですが、どうも大きな地震が来ることもあって、「想定外」のことが起こる場合、それを「残余のリスク」という言葉で処理しようという事になりました。
「安全な原発を作る事ができるのに、不安全な原発を作れる言葉」を役人が発見したのです。
つまり、「残余のリスク」という聞き慣れない言葉の登場です。
そ
れまでの考え方=「絶対に安全」、というのもやや矛盾するところがあるのですが、かといって、電力会社が「災害の想定」を行って、それより大きな場合は、
「仕方が無い」ということで「大量の放射性物質が漏れ」、その結果「付近住民が著しい被ばくをする(説明書にある)」というのは到底、納得できません。
・・・・・・・・・
このことが日本の親として知らなければならないのは、「福島原発以外の原発も、耐震や津波、台風、大雨・・すべて「想定外なら被ばく」という考え方」で作られているという事だからです。
こんな奇妙な指針ができたのは、推定ですが経産省が原発の安全性の責任を持ち、安全院なるものを作ったからと思います.
1)
原発は推進したい、
2)
でも事故が起こったときには責任はとりたくない、
3)
自分の任期の間には地震は起こらないだろう、
というのが役人の考えだからです.
かくして私は2年ほど前、幻冬舎から「偽善エネルギー」という本を出し、そこで、次のように書いています.
福島原発の事故が起こってから、幻冬舎の編集者はこの文章を思い出して読み、背筋がゾッとしたそうです。
これは予言でも何でもないのです。「日本の原発は地震や津波で破壊されるようにできている.その時には電力会社のヘマを付近住民の被ばくという形で片付ける」という方針だからです.
福島原発は「方針どうりの結果」で、「想定外だから、大量の放射線がでて何が悪い」というのが保安院の態度に出ています.また、知事さんも市長さんもこのことはご存じです.
もし、電力会社の社長さん、知事さんが自ら「自分のところの原発は不安全だ」と宣言して、情報を出し、地元に説明をしたら、これからの日本は繁栄し、安全な社会になるでしょう。
その点で、今は正念場です.
(平成23年4月17日 午後2時 執筆)
武田邦彦