先日、甘酒にインスリンを混ぜて糖尿病を患う父親を殺害したというようなニュースが流れていました

 

https://mainichi.jp/articles/20181018/k00/00m/040/138000c

 

 

これは誤解を生む表現です

 

記者の勉強が足りません

 

 

医療従事者の間では、スターといえばプラチナというくらい、そしてコーラを飲んだらゲップが出るというくらい常識的な話なのですが、インスリンは飲んでもインスリンとして吸収されません

 

インスリンはペプチドホルモンなので、小腸にたどり着く前に消化されてしまうのです

 

もし小腸からインスリンを吸収させたければ、インスリンが消化分解されないように小腸に届けられるような何らかの方法を開発する必要があります

 

小腸までに消化されないような物質でコーティングし、かつそのコーティングが小腸だけで剥がれるか、インスリンを放出するかというシステムが必要です

 

こう言った薬剤がないことはないのですが、昨年臨床試験に成功したばかりで、もちろん製品化はされていないというのが現状です

 

 

インスリンを混ぜた甘酒を血中に投与したなら分からんでもないですが……経口摂取では血糖値が下がるどころか、ただのアミノ酸を吸収することになるので何も起こりません

 

報道する前に誰もチェックしなかったんでしょうかね

 

 

 

では、甘酒で糖尿病の人は死ぬのかということですが、これも難しいのではないかと思います

 

よほど大量のエタノールを摂取して呼吸抑制が起きたりすれば死に至るかもしれませんが、甘酒は「酒」とつくものの、アルコール含有は少なく、酒類として販売されることすらありません

 

これでエタノール中毒は無理があります

 

あとは、もともと糖尿病をお持ちであれば、大量摂取させることによりアルコール性ケトアシドーシスを誘発させることができるかもしれませんが、どれだけ大量に定期的に飲めばそんなことになるのやら……

 

 

この事件、一緒に甘酒を飲んだ母親まで意識消失していたということですので、何かが混入していたとは考えられますが、さすがにインスリンではなさそうかなと思います

 

 

一部報道にあるように、睡眠薬入りの甘酒を飲む→インスリン注射→低血糖という使い方をしたのではないかと考えるのが自然です

 

 

 

自然ですとか言っちゃいましたけど、インスリンを殺人の道具に使うなど、本当にやめてほしいというか、悲しいことだと思います

 

インスリンを生命線としている人も世の中たくさんいらっしゃるし、正しい知識を持って、しっかり正しく使っていきたい道具の一つだと思います

 

 

中毒学会に行くと、例年インスリンの大量投与による中毒症例の報告があります

 

中には1000単位投与した生存例というような報告もあり、よく死ななかったなと印象に残っています

 

何でそんなに投与してしまうのかというのは皆が抱く疑問と思いますが、一つは自損目的、もう一つは認知症です

 

インスリンの注射キットをきちんと管理できるかどうかというのは死活問題となります

 

このあたり、投与回数が減ったり、経口での治療法がでてくると少しは解決するのではないかと勝手に期待しています

 

 

 

あと、実は医療従事者もインスリンの過量投与に関わってしまうことがあります

 

インスリンのバイアル製剤は1mLあたり100単位入っています

 

 

僕はいつも100倍希釈して使っておりますが、これを知らない人が1mLあたり1単位と勘違いして原液のままシリンジポンプで使用するということもあるようです

 

研修医が知らずに1バイアルを全てGI療法に使用したという事故も報告があります

http://www.med-safe.jp/pdf/report_2011_4_T004.pdf

 

本当に要注意です

 

 

なんにせよ

 

正しい知識をもち、みんな正しくつかうのが理想的と思います

 

 

 

※GI療法

グルコースインスリン療法

高K血症のときに行われる治療法。インスリンが導入され、グルコースが細胞内に取り込まれる際に、カリウムも同時に細胞内に取り込まれることから、グルコースとインスリンを同時に投与し、血中K濃度を下げようという治療法

救急ではよくなされる

大量にインスリンを投与された中毒例の場合は、大量にブドウ糖を補って低血糖を防ぐことになるが、この時に大量のカリウムが細胞内に取り込まれて低K血症となるので注意が必要である

動脈ラインを確保して、ひたすら血液検査を繰り返しながらカリウム補正をしながら管理するのである

泣ける