デーモン閣下が構成員として参加している厚生労働省の

 

「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」

 

において、デーモン閣下に日本の救急医療が心配される一幕があったとのニュースを見て、ちょっと興味を惹かれました

 

(写真:Wikipediaより)

 

 

 

東京女子医大東医療センターの若手救急医が

 

週99時間労働

8人で救急対応から入院管理も行い

完全オフは月に2日

 

という窮状を訴えたところ、デーモン閣下にも響き

 

 

「相当日本の医療が危機に瀕している」

 

と現状に危機感を持ったようです

 

 

人を滅ぼす存在である悪魔ながら、日本の医療を心配してくれるあたり、いい悪魔です

 

人々にも何らかの影響があると思います

 

悪魔が心配するくらいだから人間も心配しないわけにはいかないでしょう!

 

 

当院もちょうど8人の救急科のレジデント+スタッフ、そして初期研修医で救急の初期対応と入院患者さんの管理を行っています

 

楽しいけど疲れますし、危機的状況を経験することもあります

 

完全に救急で完結するわけではなく、病院全体のサポートがあって成り立っている救急部とは自覚していますが、もう倍くらい医師も欲しいし、もう倍くらい看護師さんが欲しいと思う次第です

 

悪魔の手も借りたい状況です

 

何とかしなくては、このままだと悪魔の手によらずとも人間は自滅してしまいそうです

 

 

 

 

ところで悪魔ではないですが、魔女の一撃ってご存知ですか?

 

 いわゆるぎっくり腰のことです

 

ドイツでは突然発症の激烈な腰痛のことを魔女の一撃と呼ぶそうです

 

魔女がこれまでに見つかっていないのと同様に、ぎっくり腰のはっきりした原因も特定されていません

 

おそらくは背部の筋肉の断裂(程度の大小はあるでしょうけど)とか、筋膜や靭帯の損傷なのでしょうが、なにせX線画像を撮っても触診してもMRIを撮像しても断定することが困難なので、原因を探せば探すほど魔女狩りみたいな感じになってしまいます

 

圧痛点やストレッチに伴う疼痛誘発部位を参考に原因を推察するしかありません

 

 

このようになかなかにやっかいな魔女の一撃ですが、さらに厄介なことに、突然の背部痛を起こす疾患の中には、大動脈解離のように生命維持に関わるようなものも含まれます

 

病歴だけでは除外しきれないし、高齢になると身体所見も曖昧になってきたりするので、急性腰痛症の患者さんを前にすると、本当に大動脈解離じゃないのかと不安になることもしばしばあります

 

以前、社交ダンスの最中に突然の腰痛を訴えて救急搬送された人がいました

 

運動時に突然発症した腰痛なので、普通に考えれば筋肉や靭帯由来の疼痛かと考えたくなります

 

バイタルサインも安定しており、当初急性腰痛症であろうかと考えたのですが、特にポーズを決めたり無理な姿勢になったりしていない時に発症したというのがひっかかって造影CTを撮ったら、見事に大動脈が裂けておりました

 

まさに悪魔の一撃

 

 

 

我々としては、もちろん大動脈解離を見逃して翌日にCPAで搬送されるなどということは絶対に避けたいことです

 

しかし、急性腰痛症の全例に造影CTを撮るのかといえば、それは大変難しい話となります

 

金銭的にもマンパワー的にも、医療資源がいくらあってもたりません

 

僕は、問題の根幹はどこまでこの不安に折り合いをつけるのかというところなのではないかと考えています

 

 

医師はより的確に検査の必要性を判断できるよう、検査の特性を理解し、患者の病歴を伺い、身体診察をする能力が求められます

 

それはもちろんなのですが、ここをすり抜けてくる症例に対して、社会がどう思うかということが、今後の救急医療の未来を左右すると思います

 

すり抜けは絶対に許さんということであれば、より強固な医療体制が必要となるだけでなく、念のため検査みたいな過剰とも言える医療行為が横行するかもしれません

 

そして、すり抜けた症例を社会が執拗に責めるようなことがあれば、念のための検査ができない施設は急性腰痛症を診ることを拒むと思います。失敗しないためには何もしなければ良いので

 

 

 

 僕の好きなアニメ「攻殻機動隊」の中に

 

「万一に備えるってことは、残りの9999はスカってことだ」

 

という台詞があります

 

(写真:日テレHP)

 

 

 

まさにその通りで

 

「相当可能性は低いとは思うけど○○が心配だから○○しておこう」

というのは、スカに対してお金を払っている可能性がかなり高い状況です

 

 

 

いいんですよ、万が一のために9999のスカにお金を払おうという覚悟が国民全体にあれば

 

問題は、身銭を切ってそれをやっているという自覚がないことです

 

高福祉低負担などという夢みたいな話はないわけなのですが、医療になると高福祉高負担はそれこそ悪魔の選択かのごとく扱われているような気がします

 

医療従事者は、より少ない負担でできるだけ高いレベルの医療をハードル低く提供できるように日々努力しなくてはならないと思いますが、それを周囲から強要されたり、あたりまえのものだと思われたりされ始めたら、やっぱりみんなしんどくなっちゃいますよね

 

 

 

24時間365日、より適切な救急医療が提供できればという思いから、ER型救急のシステムに思い入れを持ち、なるべく医療資源を集中させて、極力必要十分な医療が提供できる環境が整備されていればという思いで救急医療に従事してきました

 

しかし、今はその集中すら困難

 

なんとかギリギリ一部地域ではそれが成り立っていても、日本全土にそれが行き渡るかといったら難しい話です

 

積極的な諦めという言い方はおかしいかもしれませんが、現実を直視して、これからどんな社会にしていきたいかということをもっと真剣に考えないと本当に崩壊しかねないなと、毎日のギリギリの状況をみて危惧しています

 

 

デーモン閣下は救急電話相談の利用を勧めるなど、きちんと代替案の提示もしてくれています

 

不安を受け止めてくれる先は、消防署や病院だけではありません

 

諦めようというわけではなく、賢くなろうと言っているわけです

 

 

救急電話相談の拡充など課題がないことはないです

 

デーモン閣下が今後の懇談会を契機に放つ悪魔の一撃が、良い影響をもたらしてくれることを切実に願っています