昨年から、近隣の看護専門学校で講義をしております

 

担当科目は

 

解剖総論

神経・筋骨格系の解剖

 

なんで僕が解剖なんだと思わないこともないですが

(解剖の研究を突っ込んでしたこともありませんし……)

 

まぁせっかくなら楽しい講義を提供したいと、毎回頑張っております

 

 

看護学校の学生さんのほとんどは、この間まで高校生だった人たちです

 

 

突然異世界に足を踏み入れてしまうので、戸惑いも多いことと思います

 

医学の常識にいかに馴染むかというのは、最初の講義を担当する自分にかかっているのではないかと勝手にプレッシャーを感じているのです

 

 

 

分かりきったことですが、解剖はとっても大切

 

物の名前を覚えるのも大事ですし、特に重要なのが位置関係です

 

上下、左右、深浅、頭尾、遠近、さまざまな指標があります

 

 

例えば肩の注射をしようとした時、どこに薬液を注入するかを言語で伝えようと思うと、位置関係を示す言葉の共通認識ができていないと会話が成り立ちません

 

僕が講義初日に上腕に注射をしようとしている写真を提示し

 

「どこに注射しようとしていますか?」

と尋ねます

 

すると、「肩の上」とか「肩の外」とか、様々な答えが返ってきます

 

 

肩の上には何もありませんし(ただの空間)

肩の外側だとやっぱり何もありません(ただの空間)

 

臨床で働いている人であれば、上腕の近位部後面と言われればどこのことか思い浮かぶと思いますが、高校生に「上腕の近位部後面」と言ってもちんぷんかんぷんだと思います

 

まさに、これが新世界への突入なわけです

 

知ってしまったら知らなかった自分には戻れませんし、知らなかった頃の自分を思い出すのも難しくなってしまいます

 

 

 

 

研修医が新しく入ってきて、話が伝わらない時というのは、解剖の理解が足りていない場合が多いのではないかと個人的に感じています

 

例えば、創処置をしているときなど

「上」という言葉はとてもやっかいです

 

「もうちょい上」と言った時に、どこを指し示しているのかが正確に伝わらないと、まったく別な場所を認識することになります

 

皮膚の浅部を指しているのか、頭側を指しているのか、自分から見て上なのか(患者にとっては左右だったりする)

 

お互いに同じものを思い描いていないと以下のようになります

指導医 もうちょい上や。
研修医 こうですね?
指導医 ちゃう、上やって。
研修医 え? もっとですか?
指導医 ちゃうちゃう、上や! うーえ!
研修医 え? 浅い方……ですか?
指導医 上や! 頭側や!
研修医 あぁ左の方ですね!?
指導医 そこが左なのはお前だけやないか!


 

うーん、悲しい

学生のみなさん、ぜひ位置関係はマスターしましょう

 

 

 

 

さて、位置の話も重要ですが、面の話も重要です

 

人体を分割する平面の話です

 

冠状面(前額面)という言葉って非常にややこしいですよね

 

前後に二分する面ですが、字をそのまま捉えると「冠の状態」なので、あたかも冠を被っているように切断した面か、と水平面と混同してしまいそうになります

なぜ冠状なのかというと、頭蓋骨の冠状縫合に沿っているからということなのですが、冠状縫合の走行は冠というよりカチューシャです

 

本当にイメージしにくい

 

矢状面についても、矢状縫合に沿っている断面なので矢状面と呼ばれますが、矢なんかどっちからでも刺さりますので、必ずしも前から後ろに抜けるわけではないし、本当にややこしいなと思いながら覚えたものです



講義では、正中矢状面を説明するためにメトロン星人を例に出したのですが、誰にも伝わりませんでした

 

メトロン星人はウルトラセブンに登場し、アイスラッガーにより正中矢状面で切断されてやられています

 

またメトロン星人Jr.というのもいるのですが、こちらはウルトラマンAに登場し、バーチカルギロチンにより同じく正中矢状面で切断されてやられています

 

 

かわいそうすぎる親子なので、これを機になんとか覚えていただきたいと思っています