先日、日本から面白い論文が出ました

 

ストレッチャーで移動中の胸骨圧迫は、歩きながらしたほうが良いのか、ストレッチャーの上に乗って患者に馬乗りになってやった方が良いのかということを調べたものです

 

Shinchi M, Kobayashi M, Soma K, Maeda A.

Comparison of chest compression quality in walking versus straddling cardiopulmonary resuscitation during stretcher transportation: A prospective randomised crossover study using manikins.

PLoS One. 2019 May 21;14(5):e0216739. 

 

 

 

移動中の馬乗り胸骨圧迫は研修医の頃に何度かやったことがあります

 

院内発症の心停止例で、一般病棟からHCUやICUに移動する際、多分上に乗った方が安定して胸骨圧迫できるんじゃないかと思ってやっていました

 

どこかで読んだこともないし、何で見たのか、そのようにしました

 

 

患者さんの上に馬乗りになって胸骨圧迫しつつ、神輿を曳くように何人かの医療スタッフがストレッチャーを運ぶ様は、入院患者さんやお見舞いに来た人たちから見たらとんでもない格好かもしれません

 

かなり驚かれると思います

 

横を歩きながら胸骨圧迫を頑張った方が見た目にはスマートだと思います

 

しかしどちらがやりやすいかと聞かれたら、感覚的には馬乗りです

 

 

 

この論文では、横について歩きながら胸骨圧迫をする(walking)のと、馬乗りになる(straddling)のではどちらが適切な胸骨圧迫(深さ、リコイル、テンポ、正しい手の位置)ができるかという事を、マネキンを用いて検討しています

 

本当に馬乗りに意味があるんだろうかという些細な疑問を、しっかり研究しているところがすごいです

 

 

 

被験者に2種類の胸骨圧迫を連続してやってもらいますが、2群に分けてwalking胸骨圧迫とstraddling胸骨圧迫のどちらを先にやるか割り当てて、全員終了後にデータ解析しています

 

2分間110bpmのメトロノームに沿って胸骨圧迫をして6分間休憩して、別な方法の胸骨圧迫を2分間行って実験終了です

 

20人の被験者に参加してもらい、2分間の胸骨圧迫を30秒間ごとに区切って、平均胸骨圧迫進度を比較

 

いずれの時間帯も

 

平均胸骨圧迫進度はstraddling群で有意に深かった

 

という事です

(2分間平均で中央値、51.3mm [四分位範囲 46.7-55.5] vs 40.9mm [34.6-50.1]、P = 0.003)

 

 

また、経時的な圧迫深度の悪化について検討したところ、男性では経時的な圧迫深度の悪化がなかった一方

 

女性ではwalking群で後半1分間の圧迫深度悪化が見られた

 

という事です

 

なお、straddling群では有意な圧迫深度悪化はなかったようです

 

リコイル、テンポ、手の位置には差がありませんでした

 

 

 

馬乗りになる事で、しっかりと自分の体重を患者さんの胸骨にかけることができることが示唆されました

 

Walkingだとどうしても腕力だけで胸骨圧迫することになるので、やっぱり不利になるのです

 

疲労が蓄積して胸骨圧迫の質が落ちたのだろうと考察で述べられており、納得のいくところです

 

 

もし、どうしても胸骨圧迫をしたまま移動をしなければならない時は、馬乗りになって胸骨圧迫をしながら移動したほうが安定的な血液還流を維持できそうですね

 

ただし皆様、転落にはくれぐれもご注意ください