緊急避妊薬(アフターピル)の処方で動き

アフターピルとは、避妊に失敗したり、望まぬ性交渉を持ってしまった場合に、事後72時間以内に服用すれば妊娠の可能性を下げられるというものです

 

72時間以内なので、超緊急で処方しなければならないことはないのですが、たまに救急に問い合わせが来たり、救急外来で処方をお願いされることがあります

 

もちろん早い方が成功率は高くなるため、早く処方するのが良いですし、翌日まで待てないという場合や、暴行を受けた後などで早く処方してあげたいなと思わせる場面はあり得ます

 

現在、このアフターピルをオンライン診療で処方できるようにしようという方向で、国が動いています

 

年間16万件以上の人工妊娠中絶が行われている日本では、望まぬ妊娠対策は喫緊の課題ではないかと思います

 

実は16万人って、救急車で搬送されてお亡くなりになってしまう人の倍程度の数です

 

参照⇨https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/items/kkkg_h30_01_kyukyu.pdf

 

 

救急医として無視できるものではありません

 

オンライン診療による処方

オンライン診療は、ビデオ通話などで、直接の対面診療を代替するものです

 

オンライン診療を行う場合も、初診は対面診療を行うことが原則となっています

 

アフターピルの処方も原則は対面診療とされているのですが、先日厚労省が行った「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」において、新たなオンライン診療の指針内に以下のような文言が示されました

 

「緊急避妊に係る診療については、例外として、地理的要因がある場合、女性の健康に関する相談窓口などに所属するまたはこうした相談窓口などと連携している医師が女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難であると判断した場合においては、産婦人科医又は厚生労働省が指定する研修を受講した医師が、初診からオンライン診療を行うことは許容され得る」
 

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei_513005_00001.html

 

つまり、アフターピルを処方してくれる医療機関が近くにない人や、性暴力を受けたばかりで人前に出たくない、近所の目などがあり婦人科受診に抵抗があるというような人にとって、福音となりそうな文言の追加です

 

通院と処方のハードルが下がることで、苦しむ人が少なくなるといいなと思います

 

 

ハードルは下がっていない

しかし、よく読むと意外とハードルが下がっていないという指摘が多くされる状況になっています

 

望まぬ妊娠を避けようという根本的な目標を達成するためには、様々な状況において処方のハードルが下げられなくてはならないと思います

 

では実際にどうなっているかというと、処方を受けるためには、対応可能な医療機関を調べたり、女性の健康に関する相談窓口などから医療機関を紹介してもらうなどして、直接の対面診療で受診するのが原則です

 

その上で、相談窓口の医師などが必要と認めた場合や、対象医療機関が遠いという地理的要因がある場合、「例外的に」オンライン診療による処方が可能になる方向のようです

もうちょっと手に入りやすくならないものかと思います

 

過去に、アフターピルをOTC化しようという動きもありましたが、達成できなかった歴史もあるので、「アフターピルへのアクセスをもっと簡便したい」派は、今、いろいろな場で意見表明をしています

 

反対派は?

同検討会では、この件について様々な見解が飛び交っています

 

今回、オンライン診療による処方で、そのハードルを下げることに反対しているのは産婦人科医師のようです

 

例えば、同検討会で産婦人科学会の前田津紀夫氏から次のような意見が出されていました

 

 

 

「緊急避妊ピルを出すときの責任というのは非常に重いものがあるわけです。付け焼刃の研修ではなかなかそれが会得できるものではございませんので、もし産婦人科の医師だけに委ねていただけないとするならば、かなりハードルの高いしっかりした研修をお願いしないと難しい。最終的に、非常に難しいハードルを課していただかないと、産婦人科の専門以外の人間にこの緊急避妊という診断を委ねるのはなかなか難しいと思います。」

 

 

当たり前ですが、そもそもどんな薬剤でも、処方することの責任や安全性の担保は重要です

 

アレルギーや副反応への対応、不適切な時期の投与を防ぐことは本当に大切なことです

 

ただ、処方されないことに対する社会の責任も考えたいところです

 

これは産婦人科だけで抱え込む問題ではないのではないかと個人的には考えています

 

深夜の不都合に広く対応できるように救急医がお手伝いすることでも、社会は変わっていけるような気がします



オンライン処方が可能な医師を限定すると、不適切利用は減るかもしれませんが、利用そのものも減るでしょう

 

処方できる医師を限定したところで、解決できる問題も限定的になりますから、ここは大勢の人を巻き込む方が大事なんじゃないかと提案しておきます

 

多くの医師がこの問題に向き合い、緊急避妊の問題であれば、処方を契機に産婦人科での診療につなげる事ができます

 

今後の避妊法を提示したり、その後のフォローアップをしていただいたりして、より多くの人が恩恵を受けられるのではないかと思います

 

パブコメ募集中

現在、この検討会の意見は公開で行われ、「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直し案」についてのパブリックコメントを募集しています

 

あくまでもオンライン診療を適切に実施することに関する意見募集です

 

オンライン診療そのものにハードルを設けることにはメリットもデメリットもあると思います

 

アフターピル問題と混ざって、非常に議論がしにくい感じになっておりますが、僕としてはアクセスをある程度確保しておきたいというのが正直な気持ちです

 

オンライン診療は、7月に新制度に移行するということですが、なるべく多くの人が幸せになる形になればいいなと思います