京都アニメーション
京都アニメーションにガソリンで放火された事件
僕はアニメが好きですし、京都アニメーションの作品の中にも思い入れの深いものがあります
特に、亡き弟が大好きだったフルメタル・パニック!
フルメタル・パニック! & フルメタル・パニック? ふもっふ & フルメタル・パニック! Th...
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途中、制作が京都アニメーションになり、クオリティの高い作品に僕も夢中になりました
本編小説が完結した時に、なんとも言えない切なさを感じたことを思い出します
亡くなられた方々、そしてその家族の皆様に想いを馳せつつ、助かった人たちや、京都アニメーションがなんとか再び立ち上がっていく事を願うばかりです
熱傷の話
熱傷は本当に恐ろしい病態です
手足に小範囲のやけどをした程度ではあまり実感が湧きませんが、広範囲の熱傷となると皮膚は一つの臓器であることを思い出させます
広範囲熱傷では、皮膚という臓器が失われた結果起こる全身性の変化の治療をしつつ、どう再建していくかを考えていくことになります
再建は皮膚科医や形成外科医が得意とするところかもしれませんが、全身管理については救急医、集中治療医の出番です
皮膚の温度管理機能
皮膚は様々な機能を持っています
例えば、温度管理
皮膚の表面には水分がたくさんあるわけではありませんし、血管が露出しているわけでもありません
水分があると蒸発するので、水分を奪われ、気化熱で体温も奪われます
本来的には熱中症にならないようにこれがうまく機能するのですが、制御を失うと低体温となります
蒸泄で水分が飛んで脱水になると余計に中心部から熱が運ばれて来なくなるので、低体温を助長します
そして熱傷では血管透過性が亢進してさらに血管内から水が出ていくので、脱水はさらに大きな問題となります
脱水の補正も難しいです
近年は過剰輸液の問題も指摘されており、闇雲に大量輸液することはオススメできません
せっかく入れた点滴も肺や皮下に漏れて、全身がパンパンになります
循環動態を評価しつつ、低体温にならないように室温管理に努めながら、必要十分な輸液を考える必要があります
というわけで、火傷をしたら冷やせば良いというのが一般的な理解と思いますが、冷やし過ぎもよくないのです
広範囲であれば特に、低体温を助長してしまいます
ちなみに小範囲の熱傷であっても、組織の局所的な損傷を助長するので、氷のようなキンキンに冷たい水を使うのも避けた方がいいです
15~20℃くらいの水で5分間程度というのがオススメです
やけどしたということで救急要請された方が、到着までに水道水で冷やしていたという情報があると、よかったなと思います
皮膚の感染制御機能
小学生のころ、「バーリア!」とか言って、うんこを踏んだ友人を遠ざけたことがありませんか?
僕はあります
ただ、素足でうんこを踏んでも、さらにはうんこが手についても、医学的には問題ありません
皮膚がありますから
皮膚がバリアの役割を果たしてくれているのです
熱傷ではこのバリアが破綻することになります
皮膚がない状態のところにうんこがつくと、細菌が遠慮なく体内に入ってきます
簡単に感染を起こすでしょう
広範囲熱傷では感染症との戦いにもなります
予防的抗菌薬の有用性については諸説ありますが、少なくとも盲目的にやっておけば何とかなるというようなものでもありません
菌トレだけして耐性菌を生み出すだけということにもなりかねないので、難しいところです
画一的な治療プロトコルを組めるだけのエビデンスもありません
抗菌薬の全身投与で死亡率が低下したというシステマティックレビューはありますので、患者背景や重症度を勘案しつつ予防投与を考え、都度最適な抗菌薬を選択していくしかない状況です
なお、熱傷そのもので炎症反応が起こりますし、侵襲でバイタルサインも変わります。感染症が発症したかどうかの判断はとても難しくなります
いつ抗菌薬投与をすればいいのか
救急集中治療医はいつも悩んでいます
全力で救命しているが
例の放火犯とみられる男性は、今救命のために、失われた皮膚という臓器をサポートする集中治療が行われています
大阪府の熱傷専門施設に転送されたということで、友人も診療に関わっているはずです
応援したいと思う一方、こんなひどいことをしたであろう男を助けてどうするんだという気持ちが芽生えかける嫌な自分もいます
実は京都アニメーションで搬送された人の多くは、熱傷ではなく、外傷という事です
恐らく、ビルから飛び降りた人が大勢いらっしゃったのだと思います
アメリカの貿易センタービルのテロの時も、伏せられていましたが、多くの人がビルから飛び降りたはずです
火災発生時の事を思うと、本当に胸が痛みます
本当にひどいことを・・・・
しかし、それはそれという事にしないと、医師として患者にどう向き合うかという根本を見失ってしまいます
今は、粛々と治療に当たっている皆さま、そして今も治療を必要としている皆さまに、ただただなんとか頑張ってほしいと思っています
【参考文献】
・Singer AJ, Dagum AB. Current management of acute cutaneous wounds. N Engl J Med. 2008;359:1037-46.
・Greenhalgh DG. Management of Burns. N Engl J Med. 2019;380:2349-59.
・Avni T, et al. Prophylactic antibiotics for burns patients: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2010;340:c241.