出張というのは嘘でした。ごめんなさい。
脳の手術をうけました。

動作特異性局所ジストニア

あまり知っている人はいないと思う。

最初は高校時代に遡る。。。
当時ピアノに取り付かれていた俺は狂ったように練習していた。
コンサートの予定があった。
進路を決めなくてはいけない時期に演奏家を目指すということがいつしか普通になっていた。

ある日を境に急に右手の動きがおかしくなった。
今まで当たり前のように引けていたスケール、アルペジオ、早いパッセージが全く弾けなくなった。
一時的なことか。。。
手を使いすぎたのかな?
腱鞘炎なんだろうか?
そのうち治るだろう。
などと思っていたけれど、練習すればするほど右手のこわばり、不具合はひどくなった。
困惑した。
行き先を見失った。
完全に途方に暮れてしまった。。。

当時整形外科や整体に通ったが全く正体不明、説明のしようもなく、自分に何が起きているのか全くわからずに進路を変更せざるをなかった。

ただしこの病気の特徴はある特定の動きをしようとする時にしかでないので、オクターブで早く弾いたりとかは全然平気なので「ある制限をもった」ピアノを何となく弾いて来たし、もうそれで仕方ないと思っていた。

普通の大学に行き、それでも音楽をやめられずに、もっと子供の時からやっていたバイオリンは弾けていたので、曲を作り、バイオリンを弾きということをやってきた。
どっちかといえばピアノよりバイオリンの方が需要があるというか面白がられたのでそれはそれでよかった。
そしてDur mollも始めた。

ところがそこで話は終わりじゃなかった。
右手の違和感を感じ始めたのが2003年頃かな?
丁度ファーストアルバムのBorderlessを出した頃にはすでにおかしかった。

バイオリンの右手はボーイングといってとても繊細なことが要求されるものです。
バイオリンは用意された音じゃなくて音そのものを作らなくてはいけないので、歌で言う声質や息使いと同じような部分というか。。

弾けば弾くほどおかしくなり、だましだまし、火事場の馬鹿力というかそんなふうに弾いてきました。
ある意味死にものぐるいだった。
ステージでバイオリンを「まともに」弾けているように見せるために。。
無理な力がかかって二次的に腱鞘炎もおこし、激痛と戦いながら、時には注射を打って。

医者も整形外科、神経内科とかかっていました。
とあるとき、ある整形外科にかかった時に動かなくなったのが先か痛くなったのが先かという問題提起をされました。
動きが悪くなったのなら、整形外科的な問題ではなく、中枢の問題ではと。

それからよくよく思い返してみました。
そして色々検索して行き着いたのが局所的ジストニア。
よく調べてみると自分と全く同じだと思った。

この病気、とても説明しづらいのだけど、所見はまったくありません。
強いて言うなら屈筋と伸筋が同時に緊張してしまうことを示す筋電図。
この病気の知識のある医師との会話だけで診断はされます。

メカニズムを簡単に言うと、同じ動作の反復(つまり練習とか)により不随意運動を起こす神経の回路が鍛えられてしまい、脳のある部分でそれがものすごい勢いでループしてしまうことによって起こるものだそうです。
今考えられる治療法は脳のその部分(大脳視床Vo核)というほんの米粒ほどの部分を熱凝固することにより、鍛えられた不随意運動の回路を制御することで、定位脳手術という方法。

まず手術前から点滴が始まります。
$Dur moll style

この手術の特徴ははじめにメモリのついたフレームを頭にしっかり取り付け、そのままMRIやCTを撮って焼く部分の位置を座標軸によって特定するものです。
このフレーム、頭の4カ所をねじで固定するのだけど麻酔の注射をしながらやらなくてはならないほどいたいです。
位置がずれないためにもしっかり固定します。
Dur moll style
Dur moll style

この手術のもう一つの特徴は局所麻酔で行うこと。
意識がある状態で頭蓋骨に穴をあけるなんて、なんてエグイ手術なんだろうとやっぱり思ってしまうけど、そこはやはり重要なことで手術の精度にかかわるので。
約2センチの切開と11ミリの穴を開け、ソフトによって計算されたポイントに、メモリに従って棒を進めます。
最終的に焼く前に微電流を流して手足がしびれないか、ろれつが回らなくなったりしないか、会話をして確かめながら手術をするので、やはり意識のはっきりした状態で行う必要がある。
ちなみにポイントのすぐ近くには損傷してはならない手足、口の運動神経があります。
さすがに緊張すると思い。持っていったバッハのCDを術中にかけてもらった。

手術直後
本当は手術の直後に確認のMRIとCTをとってフレームを外していんだけど、それまでの間にパシャリ。
Dur moll style

手術跡
Dur moll style
アップ!
$Dur moll style

この手術、やる前は相当悩んだ。
別に命に関わらない病気。
伴うリスク。

でも正直言えばあのまま弾いていても演奏家の良心に関わる状態をもうとっくにすぎて、でもバイオリン弾きますって顔をしていなくてはなんなかった自分。
思い通りに楽器を操れないもどかしさ。
そしてたとえ失敗しても自分の人生に一つの「決着」を付けたいためにも。。
そして決断したわけです。

結果。。
ピアノで弾けなかったアルペジオやスケールがほぼ弾けるように。。
バイオリンのボーイングもほぼ平気かな。
まだ弾けなくなってたときの、それにあわせた間違った「くせ」のためのぎこちなさがあると思う。
それと、ピアノの中指、薬指、小指の動きがおかしくなったのと、オクターブでの動きができなくなってしまった。
これらの問題がこれからのリハビリでよくなりますように。

とにかくいいたいのは、
この病気、大抵の医者でもわからないほど認知されてません。
音楽家を目指している人の5%がこの病気にかかっているのではないかといわれています。
なぜかというと反復的な練習を沢山やるのでおきやすいと。
この病気はそういう人からすれば夢を砕きます。
練習すればするほどおかしくなるんだから。
定位脳手術という手段は一つの賭けなのかもしれないけど、こういうことも有るんだということを知ってもらえたらと思う。

この手術にあたり、結果の善し悪しが色んなことに影響すると考え、また一人でチャレンジするという意味で今まで公表を控えました。
ごく一部の関係者にしか話をしてなかった。
この場を借りてお詫びします。

後はリハビリ有るのみ!
ということで俺は帰ってきました。

GEN