Archi-story 桂離宮 号外「宮元健次氏の主張の誤りについて」 | Dynablog!

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読んでふわっとあったかくなってね~♪

パーヨッ

今回は、前回の補足ですので、読み飛ばされて結構です。

前回の記事、まともに読み込んでくださり、密かなエールをくださった方も多く、

ヒデキ感激!!です。

 

あの後、桂離宮を魅力的に紹介した宮元健次氏の著作

『桂離宮 隠された三つの謎』で、氏が示した「4つの法則」を検証しました。

これは「第一章 月と桂の宴」の重要な骨格となる部分であり、

氏の桂離宮論の根幹となる部分です。

 

当初、非常に魅力的な内容に感じたのは事実です。

が、論拠となるバックデータに誤りが多く、残念ながら

検証の上、4つの法則とも成り立たない、と結論しました。

 

氏の本から桂離宮の魅力を感じた方も多いと思います。

論が魅力的だけに、誤った推測で、桂離宮の歴史を歪めてはいけないと思い、

ここに指摘させていただきます。

 


 

宮元健次氏の展開された「4つの法則」

 

1.敷地境界線上の一点に集まる法則

「敷地内の造園および建築的に重要な点を線でつなぎ合わせると、

 ある特別な関係を見付けることができます。すなわち、

 各茶亭や仏堂、門、船小屋、(中略)・・・等のおびただしい数の

 地点をつないで延長していくと、ある一点へ集中します。」

(『桂離宮 隠された三つの謎』p68~)

この一点が月見台の軸線と敷地境界線の交点である、と言われています。

ここでも「交点にぴったり重なるのです」「一点へ見事に集中するのです」という

表現をされ、読者側は、「ほー!そこまで緻密に計算されていたのか!!」と

感動してしまいます。

 

私の手元で最も緻密な図面が内藤昌先生の『KATSURA A Princely Retreat』に

添付されている詳細な実測図(≒1/500)です。これを使ってみました。

※実はわたくし、内藤先生がある大学にいたころ、その研究室にいたこともあり、

内藤先生の実測図に対する厳格さを知っていますので、十分信頼できる図面だと

思っています。

 

宮本氏が「代表例」としてあげている「建築的に重要な点」という、

・梅の馬場南辺

・古書院中心軸

・黒御門南辺

・園林堂中心軸

・松琴亭西辺

・表門北辺

・御船小屋中心軸

・紅葉の馬場南辺

・外腰掛中心軸

・卍字亭西辺

の10ヶ所の軸線をひいてみました。はたして「一点」に集中するのか。

 

ご覧の通り、バラバラでした。

氏が元にされた図面では、あるいは一致していたのかもしれませんが、

逆にいえば、元にする図面で異なる時点で、脆弱な論拠と言わざるを得ません。

 

少なくとも論拠にした一次資料を明確にすること、

また、軸線を引いた方法を明確にすることは必要だと思います。

 

そして、「建築的に重要な点」と言われていますが

列記したように、ある場所では「中心軸」、ある場所では「南辺」

また、「西辺」「北辺」など軸の元にする位置がコロコロ変わり、

氏が示した「集中する一点」からひけるような場所を

あえて探したような意図を感じます。

 

これらの「辺」も柱の外角なのか、芯なのか、内角なのか、

はたまた庇の先端なのか不明であり、

設計段階でこのようにブレのある思想を基本理念にしたとは

私には思えません。

例えば「門の北辺」、門の中心軸ならわかりますが、

軸をあわせるような「重要な点」が斜めにふれた「北辺」では

ないと思います。

 

よって、氏の主張は社会的にオーソライズできる論拠ではない、と言わせていただきます。

 

2.1615年の中秋の名月の月の出の方位と

   それに垂直な方位による法則

 

前回記事で明らかにしたように、

1615年の中秋の名月は、方位角79度であり、

氏の言われる「東南29度」(方位角119度)ではありません。

 

※1615年 中秋の名月・・・1615年10月7日(氏は日にちを明確にされていません)。

 北緯135度42分35.38秒

 東経34度59分2.261秒

 標高 24.98m、で計算(Google Mapより算出)。

 「暦のページ」 で計算。Astroartsの「ステラナビゲーター8」でも同じ結果。

 

3.1615年の春分の月の出の方位と

   それに垂直な方位による法則

 

2と同様、春分の月の出の方位は、方位角123度

氏の言われる「東南9度」(方位角99度)ではありません。

 

※1615年3月20日で計算。

 

4.1615年の冬至の月の出の方位と

   それに垂直な方位による法則

 

2と同様、冬至の月の出の方位は、方位角123度

氏の言われる「東南54度」(方位角144度)ではありません。

 

※1615年12月22日で計算。

 


以上、氏の主張の骨格となる「4つの法則」はいずれも

正しいとは思えず、ゆえに『桂離宮 隠された三つの謎』

第一章 p66~p84の主張は、全て、成り立たない、と考えます。

 

氏を批判する意図で書いたのではありません。

但し、著書内で氏が使う

「ぴったり一致するのです」「ぴったり重なることがわかりました」

「見事に集中するのです」「偶然とは考えられません」という表現に

読者は過度の影響を受けます。

 

さらに氏は自論を根拠として、

「これらの関係が偶然生まれたと考えるよりも、

 設計段階より計画されたものと考える方がより一般的であるといえましょう」

桂離宮の作者、八条宮智仁親王、智忠親王の設計理念まで言及しており、

桂離宮の形成の過程にまで、多くの人に誤解を与えかねないことを危惧し、

あえて記事にさせていただいた次第です。

 

Dynablogとしては、ブログポリシーに書いてある通り、

あらゆる作品の「批評」をしない方針ですが、

考えてる以上に重大な問題と考えて、記事に残すことに決めました。

 

Takio