真珠の価値 | 外資系 戦略コンサルタントの着眼点

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戦略コンサルでマネージャーを務める筆者が日々の出来事を独自の視座で書き綴る


世界的不況の影響を受けて、真珠の価格が暴落しています。

日本で最大の真珠養殖地は愛媛県の宇和島市ですが、2009年度の生産取扱高は、2008年度の半分となりました。

これまでも生産コストの上昇やイメージの悪化などの影響を受けて市場は縮小してきましたが、2008年からの落ち込みはそれをさらに加速する動きです。


もともとこうした装飾品の価格というのは、あってないようなものです。

例えば、現在では世界市場の3割を占める黒真珠(生産のほとんどがタヒチです。)ですが、1980年ごろは価値がないものとみなされており、販売額も市場の1%もありませんでした。

黒真珠の魅力に気付いた一人の男が、ハリー・ウィンストン氏を尋ね、ショーウィンドウに価値のあるもののように黒真珠を飾ってもらい、ものすごい高い値段をつけて、豪華な雑誌にも全面広告を出したといいます。

(ちなみに銀座のハリー・ウィンストン本店。確かにここで売っているものは、価値のあるもののように見えます。)
外資系 戦略コンサルタントの着眼点-ハリーウィンストン

まもなく、ニューヨークを中心に黒真珠はブームとなり、ハリー・ウィストンが狙った価値で市場が形成されることとなりました。
1990年代の前半には、世界の黒真珠市場の10%まで浸透しています。

利用者側の価値の受け入れ方次第で、商品の価値が変わるといういい例で、生前に1枚しか売れなかったというゴッホの絵画にも似た面が見てとれます。


装飾品や高級な家具や車などは、その人の自己表現や自己実現に深くかかわるものであるだけに、社会通念上素晴らしいという土壌が醸成されることによって、その通念との対比で、価値が生まれてきます
(自己表現と自己実現欲とサービスについて以前書いた記事はこちら 。)

黒真珠も多くの人が素晴らしいし価値のあるものだと認めるに至り、初めて市場での価値が上がったわけです。


以前もプレミアムマーケティングの難しさは何度か書いていますが、不況で影響を受けている装飾業界を見たり、黒真珠のエピソードを考えたりするにつけ、こうした人の感情を喚起する商品というのは水物だと感じます。
(ちなみに、以前プレミアムマーケティングについて書いた記事はこちら 。)