以前住んでいたのどかな町とは違い

 

今私が住んでいる場所は

 

そこそこ大きな街の郊外である。

 

大きな街に摩訶不思議が詰まっているのは

 

きっと万国共通だろうと思うのだが、

 

それでもここに越して来て以来

 

ずっと気になって夜しか眠れない事案がある。

 

それはなぜか街のそこかしこに

 

スーパーのカートが放置されていることである。

 

 

 

 

モダンアートか。

 

 

 

 

不思議に思ってエリック氏に尋ねると

 

「勝手に持ち出すアホが一定数いるから」

 

ということである。

 

このドアホが道のド真ん中やら

 

人ん家の前やらに

 

カートを平気で放置するせいで、

 

街に野生のカートがどんどん増えて行く。

 

それを捕獲するために

 

スコットランドのスーパーでは

 

カート回収専門のバイトを雇っている

 

くらいなので

 

まぁまぁ深刻な社会問題である。

 

 

 

さて、実は我が家の周りにも

 

この野生のカートは生息しており、

 

時折マンションの陰で

 

雨にそぼ濡れているのを見たりする。

 

と言っても常にそこにある訳ではなく

 

忽然と消えては

 

また全然別の場所に出現したりするので

 

近所のスーパーが時々回収しているのだろう。

 

我が家から最寄りのスーパーまでは

 

そこそこ距離がある上に

 

大きな道路を横切らねばならないのだが、

 

スーパーからカートを盗むようなアホにとっては

 

こんなのは障害とは言えないらしい。

 

大した情熱である。

 

 

 

さてつい30分ほど前のことだが、

 

ふと窓の外を見ていると

 

向かいのマンションの前で

 

女性がスーパーのカートから荷物を下ろしていた。

 

特に隠れる訳でもなくあまりに堂々としているので

 

一瞬

 

「え?ひょっとして私物のカート?」

 

とすら思ったが、

 

荷物を下ろした女性は

 

無造作にカートを脇の路地に放置して

 

そのまま自宅へと上がって行き

 

その後戻って来る様子もない。

 

立派なはぐれカート誕生の瞬間に

 

私は立ち会ってしまったのである。

 

 

 

モラルよ。

 

 

 

青空の下にきらきら輝くカートが悲しい。