これまでのお話 → 

 

 

 

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スコットランドでは

 

妊娠中に全員バースプランを提出する。

 

正直私は、

 

元気な息子を生きてこの腕に抱ければ

 

あとは何でも良いです

 

くらいのざっくりしたビジョンしかなく

 

スッカスカのバースプランだったが、

 

そんな私が唯一明記したことがある。

 

 

『よほどの用がない限り、私に話しかけないでください。』

 

 

である。

 

 

 

我ながら酷い内容やな。

 

 

 

とは言えこれには一応理由がある。

 

ただでさえ出産という

 

カオスが予想されるイベント、

 

この生きるか死ぬかの戦いの最中に

 

私はまともに英語で対応できる自信がなかった。

 

集中したい時に英文法で悩まされるくらいなら

 

始めからコミュニケーションを放棄する方がマシである。

 

実際私は一晩分娩室にいる間

 

ひたすら胡坐をかいて目をつむり

 

誰に話しかけられても無視だったのだが、

 

これが助産師達の間で何故か噂になった。

 

エリック曰く

 

 

「あなたの奥さん、ものすごい集中力ね。

あんなにお産に集中できる妊婦さん珍しいわよ。」

 

 

と褒められていたらしい。

 

 

 

 

ただのコミュニケーション放棄です。

 

 

 

 

さて陣痛室で一晩過ごし

 

朝11時に登場したエリックからの差し入れを食べ、

 

若干精神的に持ち直した私。

 

ちなみにこの日の昼食は

 

確かミネストローネで

 

親切な食堂の人が部屋に持ってきてくれたのだが、

 

これがもう

 

無料と言うことを差し引いても

 

文字通り匙を投げたくなる味だった。

 

あまりの不味さに陣痛と戦いながら

 

スマホで写真を撮るレベルの不味さである。

 

エリックは

 

疲れて味覚がおかしくなっているのでは?

 

と言っていたが絶対に違う。

 

税金で賄われている物にケチをつけたくないが、

 

衝撃の英国味だった。

 

 

 

まさか昼食でHPを減らしに来るとは。

 

 

 

この後はお産を進めるため

 

陣痛に耐えつつお風呂に入ってみたり、

 

病院の周りを散歩してみたり、

 

部屋の中をぐるぐる回ってみたり、

 

ひたすら夜までエリックと粘る。

 

ちなみにお風呂は快適だったのだが、

 

浴室の壁に

 

 

『使用後は自分で掃除してください』

 

 

と貼られていることに気付き

 

壁を殴りそうになったことも追記しておく。

(※エリックが掃除してくれた)

 

 

 

 

出来るか!!!

 

 

 

 

風呂の後は夕食だったのだが、

 

残念ながら部屋まで持ってきてくれる

 

優しいスタッフはもう帰宅してしまったらしい。

 

「食堂まで取りに来て」

 

と言われ

 

エリックにお願いしようとしたところ、

 

食堂は男子禁制らしい。

 

仕方なく一人で壁にもたれかかりつつ

 

無駄に遠い食堂まで馳せ参じてみれば

 

食堂には陣痛中の半裸の妊婦が数名いた。

 

 

 

そりゃ男子禁制にもなるわ・・・・。

 

 

 

こうして陣痛に耐えながら

 

食堂の列に良い子で並ぶ私。

 

私は日本で出産した経験がないが

 

一つ確信を持って言えることがある。

 

日本の妊婦は

 

どう考えても陣痛中に食堂の列に並ばない

 

ということである。

 

この日のメニューは

 

カレー or ベジタリアンだったので

 

私は迷わずカレーをチョイス。

 

ちょうど私の番になった時に陣痛が来てしまい

 

壁にもたれて泣きながら

 

「チ、チキンカレー・・・ください・・・。」

 

と言ったあの経験は

 

確実に私を強くしたと思う。

 

 

 

もう何も怖くない。

 

 

 

さて食堂まで行くのも一苦労だったが

 

帰りはさらに

 

トレイを部屋まで運ぶという

 

ミッションインポッシブルである。

 

陣痛のたびにガタガタ震えながら

 

それでも夕食をひっくり返してなるものかと

 

震える足を前に進めたあの経験は

 

私を屈強な戦士のメンタルへと成長させた。

 

 

 

 

もうほんと何も怖くない。

 

 

 

 

〈続く〉