これまでのお話 → 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

さて、スコットランドの公立病院と言えば

 

なんと言っても名物は

 

やたらごり押しされるトーストと紅茶

 

である。

 

トーストと紅茶で大抵の病は治る

 

と言わんばかりの勢いで

 

患者に提供されるこの2点セットは

 

在英日本人なら

 

きっと誰しも聞いたことがあると思うのだが、

 

私の帝王切開後も

 

即座に運ばれて来たのはこの二つであった。

 

出産祝い御前とでも言うべきか

 

皿には実に6枚ものトーストが

 

天を目指して積まれていたが、

 

この時の私は

 

半裸でぽんたを抱えてカンガルーケア中で

 

自力では体を動かせない状態である。

 

 

 

食べたいと言う気持ちが一ミリも湧かない。

 

 

 

喉は乾いていたが、

 

やって来たのは地獄のように熱々の紅茶で

 

ぽんたにこぼしでもしたらと思うと

 

恐ろしくて飲めない。

 

というかそもそも横になっているので

 

物理的に飲めない。

 

仕方なく荷物に入っていたストローを使い、

 

熱々の紅茶を半裸ですする変質者の完成である。

 

 

 

これなんの罰ゲームなん。

 

 

 

さて、基本的にスコットランドの病院には

 

新生児室などというお洒落な物はないため

 

帝王切開だろうがなんだろうが

 

初日から母子同室待ったなしである。

 

家族の泊まり込みも不可なので

 

徹夜3日目だろうが、

 

下半身がピクリとも動かなかろうが、

 

着替えも出来てなくて全身血みどろだろうが、

 

世話は全て自分でやるしかない。

 

おむつや液体ミルクなど必要な物は

 

全て病院から無料で支給されるのだが、

 

私の出産した病院では

 

これらの備品が

 

全てベッドの後ろの棚に入っていたため

 

それに下半身麻痺状態で手を伸ばす私は

 

曲芸師並みの動きを見せていたと思う。

 

 

 

入院鞄に高枝切り鋏を入れておくんだった。

 

 

 

と後悔しても後の祭り。

 

ちなみにナースコールは各ベッドにあるのだが、

 

ナースステーションでは

 

どの大部屋で鳴ったかしか分からないらしく

 

自分が呼んだ看護師さんを

 

同室の他の人にしれっと掠め取られる

 

という事件がそこらで勃発しまくっていたので

 

もはや呼ぶのも面倒くさい。

 

明け方にぽんたが粗相をしてしまい

 

新しいシーツを持ってきてもらおうと思ったが

 

なかなか看護師が捕まらず、

 

仕方なく自分の枕カバーを外して

 

ベビーベッドに敷いた時には

 

私はすでに悟りを開いていた。

 

 

 

育児歴10時間でこの落ち着きよう・・・

 

誰か私を全力で褒めて。

 

 

 

そんな私を待ち受けていたのは

 

 

 

 

 

 

情けも容赦もない朝食だった。

 

 

 

〈続く〉