今年の正月は

 

久々にローストビーフを作った。

 

といっても元祖英国の

 

パサパサのローストビーフではなく

 

日本風のしっとりしたやつである。

 

スコットランド人としては

 

やっぱり母国の味が一番かと思いきや、

 

「日本風の方が美味しいのでこっちが良いです」

 

とあっさり寝返ったエリック。

 

そのエリックとローストビーフを食べつつ

 

ひたすら英国料理について議論し、

 

私たちは1つの仮説にたどり着いた。

 

それは、

 

「英国料理の"不味さ"には2種類ある」

 

という説である。

 

 

 

二種類のうち一つは、

 

「外国人の口に合わないことに起因する”不味さ”」。

 

料理としては完成形に到達しているが

 

味付けや食材に親しみがない、

 

ハギス(内臓料理)や羊肉などの料理が

 

こちらに分類される。

 

とはいえこれは完全に

 

文化的な違いによる拒否反応なので

 

一概に不味いと断じるのは公平とは言えない。

 

現に欧州で諸悪の根源のように語られるハギスは

 

意外と日本人の口には合う。

 

反対に義母は寿司を食べる日本人を

 

完全にゲテモノ食いだと思っているが、

 

これはスコットランドに

 

生魚を食べる習慣がないからである。

 

 

 

問題は2つ目の

 

「客観的に見て改良の余地がある”不味さ”」

 

である。

 

私は昔スコットランドのホテルのレストランで

 

アシスタントとして働いていたことがあるが、

 

このレストランのローストビーフの作り方は

 

非常に単純で、

 

 

① 解凍肉をオーブンに入れガンガン焼く

 

② しっかり火が通ったら切り分ける

 

 

以上たった2ステップであった。

 

レシピによってはハーブを入れたりするが

 

基本的に英国における由緒正しきローストビーフとは

 

汁気も塩気もなくぱっさぱさで

 

なんかボソボソとした茶色い食べ物である。

 

 

 

牛肉は高品質なのに。

 

 

 

スコットランド人が

 

「ボソボソとした味のない硬い肉万歳」

 

と言う民族ならまだ理解できる。

 

しかし不思議なことに彼らにも

 

「肉はしっとりして柔らかい方が美味しい」

 

という常識はあり、

 

現に義母も

 

以前私の作った唐揚げを食べた時

 

「この鶏肉どこで買ったの!?

うちで買ってるのと全然違うわ!!!」

 

と仰天していた。

 

ならばスコットランドの釘が打てそうな肉料理も

 

いろいろと改良の余地がある気がするが、

 

残念ながらスコットランドには

 

「下拵え」 「火加減」

 

という概念がほぼ存在しない。

 

彼らにとって

 

肉とはすべからく

 

地獄の業火で焼かれるべきなのである。

 

この豪快過ぎる調理法を何とかすれば

 

絶対に英国料理は改良し放題なのだが、

 

悲しいことに現状スコットランド人にはその気がない。

(そして多分イングランド人にもない)

 

ちなみに義母は常々

 

「日本で食べたフィッシュアンドチップスが

今までの人生で一番美味しかった」

 

と言っているが、

 

日本人とスコットランド人では

 

揚げ物に対する細やかな工夫がまるで違うので、

(スコットランド人は文字通り放り込むだけ)

 

ほんの一手間さえかければ

 

ここにも伸びしろがあるように思う。

 

 

 

というような話をエリックとしたのだが

 

最終的にエリックの出した結論は

 

 

「つまり英国料理が必ずしも不味いのではなく、

英国人に英国料理を作れる技術がないのですね。」

 

 

だった。

 

 

 

 

ひどい結論である。