エリック両親は

 

家とマンションの部屋をいくつか所有しており、

 

それを人に貸して不動産収入を得ている。

 

と聞くとそれはもう誰もが羨ましがるが、

 

実際に義両親を見て思うことはただ一つ。

 

少なくともスコットランドにおいて

 

大家とは恐ろしくブラックな職業だ

 

ということである。

 

実際義両親の生活は

 

家賃収入で優雅な暮らしとは程遠く、

 

夜明け前に

 

「水道管が爆発した」

 

と呼び出されては家を飛び出し、

 

やっと帰宅したと思ったら

 

「食洗器が動かない」

 

と別の人から呼び出しがかかる。

 

それで行ってみたら

 

単にコンセントが抜けていたなどザラ。

 

スコットランドの賃貸は家電付きの場合が多く、

 

家電の不具合は大家の管轄になるので

 

義父は常にあらゆる道具を持ち歩き、

 

数百種類のネジをバンに完備。

 

西で窓が割れれば自分で取り換え、

 

東で冷蔵庫が壊れれば分解して修理する。

 

ちなみに我が家のリフォームも義両親にお願いしたが

 

古い暖炉の埋め立て工事も、

 

シャワーブースを浴室に改装するのも、

 

床板の張り替えも、

 

電気の配線工事も、

 

全て義両親がさくさくやってくれたので

 

業者にお願いしたのは天井だけだった。

 

大家をしていれば自然と身に付くスキルだ

 

と義父は言っていたが、

 

だとしたら

 

ものすごいマルチタスクの技術職である。

 

 

 

そんな超絶ブラックな大家業だが、

 

なかでも一番困るのが

 

賃貸人が夜逃げした時である。

 

そんなこと現実に起こるのかと思っていたが、

 

なんせここ1か月で義両親管理のマンションから

 

二人も夜逃げしているので

 

人間案外気軽に夜逃げできるものらしい。

 

まぁ厳密には夜逃げではなく

 

①鍵を返さず家賃も払わず勝手に退去したケース

 

 

②連絡はあったが私物を全て放置していったケース

 

なのだが、

 

とにかくモラルがゆるいこの国では

 

退去時の揉め事はお約束と言っても良い。

 

今回①の人は一応連絡が付き

 

鍵の返却には応じたが、

 

滞納分の家賃を払う気はゼロ。

 

②の人はとんでもない汚部屋だったらしく、

 

残された私物を全て処分するのに

 

義両親はかなりの労力を要した上、

 

あまりに部屋が汚すぎて

 

カーペットの張り替えと壁の塗り替えを要した。

 

義母曰くキッチンは特に惨状だったらしい。

 

どちらのケースでも退去した側は

 

「敷金払ってるでしょ」

 

とデカい態度を取っているが、

 

敷金でカバーできるレベルはとうに超えており

 

義両親にとっては赤字である。

 

昨今英国は空前のストライキブームだが

 

今一番ストライキしたいのは義両親だろう。

 

 

 

この国で大家にだけはなってはならない。

 

 

 

私は心のメモ帳に書き留めた。