年齢が上がっていくと認知症を心配される方が増えていく。心配しても防ぐ手立ては医療にはなく、進行停止を期待できる薬剤もないに等しい。

まあ、予防する方法は簡単で、「好奇心を失わないこと」なのでございます。

使わなければ退化するのが人体ですから、数日でも寝たきりになってみれば、すぐにちゃんと歩けなくなるのでございます。脳も心も遣わなければ退化します。

使い続けること。

継続させるには好奇心が原動力となります。努力が好きならそれでもいいですけど、楽しい方が続けられますもの。簡単でしたね。

物忘れで認知症を心配する人は多いが、物忘れと認知症は別物です。見分けの付かない部分はあるけど、基本としては別物です。

物忘れの防止は集中力を高めることです。長年の慣習で行動が反射になっていきます。脳の記憶回路を経由しない行動を取れば、何処に何を置いたか分からなくなるのは当然。

電車の車掌さんのように、「はい!家の鍵を玄関の鍵かけにかけました!」と声を発して指さし確認をします。メモを貼るときも同じです。読み上げながら貼ります。

で、

長年、脳外科の仕事をしていて、認知症の方にはたくさん会いました。軽いのから重いのまで。一夜でなる人もいました。いろいろです。

それなりに見分けが付くと自負していました。

甘かったのです。


それは或る日のこと。認知症の傾向が出てきたというので状況を確認すると、同じことを何度も質問するというもの。数分しか持たないようだ。覚える練習をしても答えられない。会話をしていても、なにやらとんでもない勘違いもする感じ。しかし、日常生活は特に問題はない。う~む、まだらの認知症かな?

まあ、初期の認知症だろうと確信しました。

で、

確認のために受診してもらい、MMSEという認知症のテストを行ってもらいました。精度はかなり高いのです。

すると、


正常範囲内でした!!



たまげました。

なんで?

演技?

なに?

どうゆうこと?



よくよく話を聞いてみますとですね、覚えるのが面倒くさい、答えるのが面倒くさい、探すのが面倒くさい、考えるのも面倒くさい。

要は、面倒くさいんです。


だから日常生活は問題ないんだ。面倒くさいのがバレないように、認知症のふりをして誤魔化していたのだ。惚けたと想われる前に、惚けた振りをしておく。どうやら、それが身を守る方法だったのだ。認知症なら仕方がないと思わせているのだ。わたしは認知症だから覚えが悪いのだと思わせているのだ。

認知症の擬態。

毒を持つ生物に見た目を似せる擬態のように、認知症だと思わせて周囲の人の本音をこっそり聞く。

その時も耳が遠い振りは欠かせない耳