ちょっと前、コンビニでコーヒーのRサイズ100円を買って、実際にはLサイズ180円分のコーヒーを注ぐ不正行為をしたとして小学校の校長が懲戒解雇、退職金ももらえなかったという話がありました。

 

 コーヒーの「不正購入」(冒頭の例の他、レギュラーコーヒーの値段で高額のカフェラテを頼むなども含みます)は少額でも確かに立派な詐欺罪あるいは窃盗罪ですが、処分がちょっと重すぎないかという気もします。が、くだんの校長は数回はこの行為をやった常習性のある確信犯で、何より校長という立場上子供の教育に与える影響も考えてのことなのかもしれません。また、このことが大きく報じられ人の記憶に残ったことで、これまで何の気なしにやっていた人にも多少の抑止効果になることもあるでしょう。

(店舗の例。カウンターの端、出口すぐ横にコーヒーマシンを設置しています。ちなみにこの店ではセルフレジではコーヒーが買えず、店員から直接カップを貰う仕組み。また店員は恐らくコーヒーマシンの裏側でお客が何のボタンを押したかわかるようになっていると思われます。)

 

 正直に言うと、自分もコンビニでコーヒーを買うときには心の葛藤があります。

 自分の家の近くにあるコンビニは、支払いはセルフレジで出来、コーヒーを買うときはレジ横に置いてあるパネルのバーコードを読み取る形式です。支払い終了後はコーヒーマシンまで行って横に置いてある紙コップを自分で取り、自分でマシンのボタンを押してコーヒーを落とす流れになります。その間、誰にもレシートを見られることなくどのサイズのカップも取れ、何より店員と話すことも目線をあわすこともなく買うことが可能です。天井には半球状の監視カメラが数台あり、セルフレジはその1台の真下にあるのですが、コーヒーマシンはそこから数メートル離れていて、おまけにマシンの正面はカメラからは影になる位置に備えられています。店員は普段から外国人が多く、いつも作業に忙しいのかレジ付近にはおらず、時には店内にいるのかもわからないこともあります。とにかく、監視が薄いなかコーヒー買いが自己完結する仕組み、コーヒーのサイズ不正だけでなく、中身をカフェラテ等に変える不正も簡単にできそうな環境だと思います(すくなくとも自分にはそう見えます)。

 そこからちょっと離れたところにある別の店は、カウンターでまずカップを買って(他の多くの店もこのスタイルですね)、そのあとコーヒーマシンの場所に行き、自分でボタンを押して買います。これも買うときにカップそのものはごまかせませんが中身のサイズをごまかしたり、コーヒーでなく価格の高いラテ等をいれたりすることは十分可能に思えます(最近ではカップに色がついたり、マシンの方で種類を自動判別するものも増えてきましたが)。

 たかが80円くらいのことですが、不正は不正。そこにはいろいろな心理が働きます。不正と関連づけていえば「動機」「機会」「正当性」という要素が関連します。

 ・「動機」とは、例えば朝に飲む時、Rサイズのコーヒーではやや量的に物足りず「もう少し飲みたいな」と思うことはあるでしょう。これが不正を働く動機の一つになります。また、コーヒーよりラテの方が好きな人は同じ値段なら自然とラテが飲みたいと思うでしょう。逆にコンビニコーヒー1杯にLサイズ180円という値段を高く感じ、110円で同じ量を安く買いたいということも動機になると思います。とにかくそれが欲しい、という主観的心理が背景にあります。多くの人は我慢するか、妥協します。

 ・「機会」とは、そこに冒頭に書いたような不正が容易にできる環境があり、しかもそれをしたとしても罰せられる可能性がない思う状況があることです。そこに「不正を誘発する隙がある」と言い換えても良いかもしれません。これは多分にそのような状況を作る店の側に責任があります。

 ・「正当化」とは、悪いことと分かっていながら、その行為をしても許されると自分に思わせるような心理状況です。たとえば「自分は毎日このコンビニに来て多額の金を落としているのだから、80円くらいのごまかしたって大したことはない」とか、「そもそも原価は50円以下のコーヒーのLサイズ180円という値段が不当に高いのであって、少しくらい安く払ってもこちらは悪くないだろう」と自分に言い聞かせることです。

 

 上に書いた要素がすべて揃ったところで初めてごまかしを実行することになります。逆にこの要素のうち一つでも欠ければ。思いとどまる公算が高いということです。

 もちろん一義的にはごまかしをする人が悪いに決まっているのですが、一方で店の側に問題はないのでしょうか。客の「動機」と「正当化」を店側がコントロールすることは不可能ですが、店の側で「機会」を減らして「隙を作らない」システムを作ることは(100%は無理でも)可能なのではないかと思います。ごまかしが出来ないような売り方や動線の監視、マシンの位置、マシンそのものの仕組みなどは考えればかなりの対策は打てるでしょう。それが無理でも、警告の紙を客の目につくように貼っておくだけでも(より完璧度は落ちますが)少しは抑止になるでしょう。バイトの店員に目を光らせるよう注意を「徹底」するのもありですが、これは四六時中監視ができないこと、またバイトさん自身が注意することで逆切れの暴力にあうリスクがあるなど別の問題もあり難しいかもしれません。結局、店の仕組みを工夫して客の側にその気を起こさせないようにするのが一番だと思うのですが…

 

 と、ここまで考えて世の中にはこのほかにも少額をごまかす誘惑があるかもしれないと思いました。自分の経験でぱっと思い付いたのは、通勤・通学の電車で座るためにまず反対方向2駅先の終点に行き、折り返しで座って目的地に行くこと(いったん降りて、、と注意アナウンスはありますが、追加料金は請求されません)、区間のキセルや特急不正乗車もそうですね。料金あと払いの整理券方式のバスでわざと小銭をたくさん入れて金額をごまかすのもそう(ベルトコンベアで流れるだけで金額をチェックできないからこれができてしまいます)、田舎の道沿いにある野菜直売所の料金箱、山小屋のチップトイレ(100円と書いてあるのに10円しかいれないことはままあるかもしれません)。自分に身近なところでは通っているフィットネスクラブのレンタルタオル(レンタル料400円もする一方、タオル置き場はスタッフから見えないところに無造作に配置されている)。こういったものは結構世の中にあふれているのかもしれません。まだ日本が安全でのどかな国であることの一つの表れかもしれないなと感じた次第です。

 

ではでは。