太陽光パネルを町の非常用電源スポットに・千葉県袖ケ浦市/エコロジア②(vol.131) | 全国ご当地エネルギーリポート!

全国ご当地エネルギーリポート!

-エネ経会議・特派員:ノンフィクションライター高橋真樹が行くー

千葉県袖ケ浦市に住む林 彰一さんは、千葉県で大停電が起きた際に、高額な蓄電池がないにもかかわらず昼も夜も電気に困ることはありませんでした。さらに、所有する事業用の太陽光発電を活かして、地域の人々に携帯電話の充電のために電気を開放しています。

 

「停電救援隊」としても各地を駆け回った林さんは現在、停電に強いまちづくりに動き始めています。今回は、必ずしもうまくいかなかった取り組みも含めて、災害時の太陽光発電の可能性について考えます。

 

林彰一さんとエコロジア第一発電所

 

前回の記事 家庭でできる停電対策・千葉県袖ケ浦市/エコロジア① はこちら

 

◆トピックス

・太陽光パネルを1枚でも増やしたい

・機能しなかった「電源の地域貢献」

・停電救援活動の難しさ

・隣近所で支え合う「共助」の仕組みを

・災害時に地域の太陽光をどこまで活かせる?

 

◆太陽光パネルを1枚でも増やしたい

 

前回お伝えしたように、林さんは自宅に太陽光発電のちょっとした実験室のようなシステムをつくるほど研究熱心です。しかし、かつては電気についてほとんど関心がなかったとのこと。林さんの意識が変わったきっかけは、2011年の福島第一原発事故でした。エネルギー問題と真剣に向き合うようになる中、ドイツの自然エネルギーを学ぶツアーにも参加しました。

 

そこで日本よりずっと自然エネルギー導入が進んでいると思っていたドイツの専門家から「日本はドイツより緯度が低く、日射量が豊富にあって太陽光発電のポテンシャルが高くていいですね」と羨ましがられたことで、驚きました。そして、日本の原発依存のエネルギー政策がなかなか変わらない中「パネル1枚からでいいから、世の中に自然エネルギーを増やすための行動をしたい」と考えるようになったと言います。

 

林さんはまず、同じような志を抱いて活動する人たちが集まる太陽光発電所ネットワーク(PV-Net )の会員になり交流を始めます。また、太陽光発電の設置を手掛ける会社で1年半ほど働き、企画営業、設計、施工などの現場を学びました。そうした取り組みから得た経験と知識を活かしてエコロジアという会社を設立、2013年にはその会社で千葉県袖ケ浦市と木更津市に2つの太陽光発電所(いずれも出力およそ50キロワット)を設置します。

 

設備を設置する際、地域の人たちにとても親切にしてもらったことが縁で第一発電所の近くに空き家を紹介してもらい、現在は家族の住む東京との2拠点生活になっています。前回の記事で紹介した停電でも電気が使えた家は、この時紹介してもらった住宅です。

 

地域の人たちに定期的に配布している「発電所だより」

 

エコロジアの2つの発電所で生まれた電気はいま、電力小売会社のみんな電力に売電しています。また、発電所近隣の家庭には、自ら「発電所だより」を発行して、エネルギーと暮らしについて理解を深めてもらう機会をつくっています。

 

◆機能しなかった「電源の地域貢献」

 

2つの発電所はお金儲けのためではなく、地域貢献を掲げて設置されました。当初の計画では、停電時に自立運転に切り替え、地域の非常用電源として使う構想でした。

 

袖ケ浦市の第一発電所(提供:林彰一)

 

袖ケ浦市の第一発電所では、避難所となる近隣の公民館に電気を供給できるように必要機材を揃えていました。発電所を建てた当時、林さんはまだ東京に住んでいたため、停電が起きても交通が麻痺すると操作しに行くことができません。そこで、停電が起きたときの対処法をまとめたマニュアルと発電所のゲートのカギを自治会長さんに預け、地域で動かして欲しいと依頼していました。

 

ところが今回の台風15号による停電では、その構想を実現することができませんでした。まず、避難所になると想定していた公民館自体が台風により雨漏りして、使用できなくなりました。また、発電所から公民館にケーブルをひく場合、車に踏まれたり人が引っかかるなどのトラブルにつながるリスクがありました。そもそも、このような特殊な使い方は、電気事業法的に問題が指摘される可能性もあったのです。

 

コンセントボックスから携帯電話を充電する(提供:林彰一)

 

とはいえ、まったく役に立たなかったわけではありません。発電所のパネルの中には、もともと一枚だけ送電網につなげていない独立した電源がありました。そこでつくった電気は小さな蓄電池を通して、フェンスの外に設置されたコンセントボックスに交流100Vで常時給電できるようになっています。そこには「バッテリー切れのスマートフォン、ノートPCなど、小型機器の緊急時の充電にご自由にお使いください」と掲示をして、日頃からご近所にもPRしていました。今回の停電が起きた際に、近所の方々がそれを覚えていて使ってくれたそうです。

 

◆停電救援活動の難しさ

 

袖ケ浦市の林さんの自宅周辺の停電は3日間で収束しましたが、房総半島の南部ではもっと長期間の停電が予測されていました。そこで、まだ電気が復旧していないエリアに電源を届ける救援活動を行うことになりました。

 

9月17日には、静岡から駆けつけたPV-Netのメンバーが太陽光パネルと蓄電池の独立電源セットを持参。「9月27日まで電気が復旧しない可能性がある」と発表されていた南房総市に、林さんを含めて5名で届けに行きます。南房総市の災害対策本部から紹介され大井区の青年館で、独立電源を日があるうちに組み立てました。そして多数の携帯電話の充電や扇風機、照明への電気の供給ができるようになりました。

 

PV-Netのメンバーとして、停電救援隊の活動に参加

 

ところが、予想外の事態が起こりました。

 

「設置が完了して大変喜んでいただいたものの、日没後しばらくすると電気が復旧しました。そうなると非常用電源はもう不要です。もちろん予想より大幅に早く復旧したのは良かったのですが、停電支援の難しさを感じました」(林さん)。

 

とは言え、自然エネルギーに関心のある地域のリーダーとの出会いがあったり、その場にいた高校生たちに独立電源の仕組みを説明できたりといった収穫もあったとのことです。

 

◆隣近所で支え合う「共助」の仕組みを

 

大規模停電時に行った試行錯誤を通して、林さんが実感したことがあります。

 

「当初想定していた形の地域貢献は実践的でないことがわかりました。そして、広域で長期間の停電となると、私が持っている2つの発電所だけで貢献しようとしても限界がある。いろいろ取り組んだ中で、結局多くの人に一番喜ばれたのが、携帯電話やスマホの充電です。だったら、そんなにパワーのある電源でなくても良い。それに、各地にすでにある住宅用太陽光パネルを活用できたら、わざわざ救援用の独立電源を持ち込む必要はないと思ったんです」。

 

携帯電話については、自治体の設ける避難所でも充電できるケースが増えています。しかし、充電に時間がかかるため長い行列ができ、避難者のストレスにもつながっていました。いま林さんが構想しているのは、すでに住宅の屋根に太陽光パネルを設置している家庭から有志を募り、停電時に電源をシェアする「町の非常用電源スポット」を増やそうというものです。

 

手始めに、林さんはGoogle Earthを利用して、手作業で袖ケ浦市の太陽光パネル設置済みの住宅に黄色いピンを付けていきました。作業を終えて数えると約1,900ヶ所ありました(袖ケ浦市の世帯数はおよそ27,000)。林さんはこの一部でも、非常用電源スポットになってもいいと言ってくれれば、深刻な停電被害を軽減できる社会に近づくのではないかと考えています。

 

林さんが目視で数えた太陽光発電所マップ(提供:林彰一)

 

「1,900件の1割でも190ヶ所です。太陽光発電の自立運転モードは、所有者にはだいぶ知られ、いざという時に使われるようになってきましたが、所有していない世帯の方はほとんどご存じないはずです。この機能を地域でシェアすることで、せめて携帯電話の充電ぐらいは不自由なくできる地域にできればいいですね。これからの大規模災害の時代は、公助と自助だけで乗り切るのは難しい。近隣の人たちで支え合う共助が大切になってくると考えています」

 

◆災害時に地域の太陽光をどこまで活かせる?

 

構想を実現するため、林さんは現在、袖ケ浦市の関係部署と協議中です。とは言え、実際に有志を募る際は高いハードルもあります。林さん自身は誰にでも電源を解放して、市が非常用電源マップをつくるならそこに載せても良いと考えています。しかしほとんどの人は、近所の顔見知りならともかく、マップに掲載されるのは嫌だと感じるでしょう。そのような場合は、近所に限定して周知するなど、レベルに応じて広げ方を検討する必要があります。

 

個人の財産を非常時に地域でシェアすることは、あまり馴染みがないかもしれません。しかし類似の事例はあるようです。例えば、井戸については自治体が「災害時協力井戸」として、個人の所有物も含めて利用できる仕組みになっています。林さんの考えは、「災害時協力電源」を作り出そうという試みと言えます。

 

林さん宅の倉庫も、台風で大きな損害を受けた(提供:林彰一)

 

2019年12月のCOP25では、2018年中に気象災害でもっとも影響の受けた国は日本で、その被害総額は少なくとも約358億ドル(約3兆8920億円)にのぼると指摘されました(※)。気候変動の対策には、社会のさまざまなセクターで抜本的な対策が求められています。

 

それと同時に、いま起きている災害の被害を減らすために手を打つことも必要です。林さんの提言がこれからどのような形で実現するかについては未定ですが、彼の構想を聞きながら、これだけ一般に広まってきた太陽光発電の活用が重要になってきていることは確かだと感じました。

 

※ドイツの環境シンクタンク「ジャーマンウォッチ」の試算

 

前回の記事 家庭でできる停電対策・千葉県袖ケ浦市/エコロジア① はこちら

 

◆お知らせ:エネ経会議の新刊が出版されました!

 

エネ経会議が新しい書籍「エネルギーから経済を考える②実践編」を出版しました。ご当地エネルギーリポートでも取り上げている数々の取り組みも登場しています。詳しい内容はこちらをご覧ください