去年
おじさんが亡くなったのです。



暗い話ではないのですが
とある団地でひとりで亡くなりました。



子供の頃から
可愛がってくれて
伊東のハトヤとか連れてってくれた
優しいおじさん。



カメラマンで
世界飛び回って写真撮ってた。
生涯ひとり。



毎年正月の森家の集まりの集合写真は
必ずおじさんが撮ってた。




おじさんが死んで
いろいろ話を聞くと
毎週金曜日のスナックが楽しみだった。



なぜ?毎週金曜日?



足が悪く
少し認知症の症状が出た
おじさんが
団地から電車に乗って
とあるスナックに通っていた?



僕は
そこで飲みたかった。



いろいろ話を聞くと
そこのママさんは
おじさんの面倒を見てくれた?



僕は
親戚に情報を頼り
電話番号を教えていただきました。



中国の方のお名前でした。


勇気を振り絞って電話。


『もしもし』
少し中国語なまりだ。


突然すいません
生前お世話になりました
森◯◯の甥
一弥と申します。


『え?エネルギー?』


は、はい。


おじさんは
そのスナックで僕の自慢をしていたのです。



僕は
お礼と
おじさんが飲んでいたそのスナックで飲みたくて
お店の場所と名前を聞きお店に行く約束をしました。



いつか行こう。


いつか。


そんな中
悲しい出来事があり


いつか
なんてない。
今、行かなきゃ。



少し怖い
ひとりでスナック。
知らない街のスナック。



でも、行かなきゃ。
その方は毎週金曜日しかお店にいません。



スナック◯◯◯



すいません
◯さん居ますか?


ん?
誰だ?
みたいな空気。


まだ来てなかった。


僕は◯さんに電話
すいません、来ちゃいました。


『来たの?ごめんね、すぐ行くよ』


僕は適当な席で座って
とりあえず瓶ビール。


隣の席には
仕事帰りのサラリーマンさん。



・・・・・・


沈黙のスナック


カランコロン


お店に入ってきた
◯さん


『一弥くん?テレビと変わらないね』


その
一弥くんの座ってる席
おじさんの指定席よ。



偶然にもおじさんが座っていた席に座っていた。






おじさん
ここで飲んでいたんだね。



隣のサラリーマンさんは
おじさんとの常連の飲み仲間だった。



そういえば
どこなく森さんに似てるな。



ひとり
また
ひとりと
続々とおじさんが来て


え?森さんの甥。


ここはスナックだけど
毎週金曜日は俺たちの飲み会なのよ。



ママの◯さんが毎週金曜日だけの出勤で
その時集まるというのだ。



続々と来たおじさん達
おじさんは毎週金曜日飲んでいたのだ。
亡くなる2週間まで。



まさか死ぬなんて思ってなかったな。
しかしおじさんはね、頑固だったんだよ。
カラオケ入れるけどオンチだったよ。
ショートケーキが好きでね。



知らないおじさんの世界がそこにありました。



頑固なんて知らないし
え?ショートケーキ好きだったの?



毎年正月の集合写真を
みんなに見せてさっ。



一弥くん
去年の正月の集まり来たでしょ?
一昨年は来なかったよね?



そんな事まで話していたのか?



ママは弱っていったおじさんの面倒を見てくれました。
たぶん全部はお話ししなかったけど
おじさんも◯さんを信用していたんですね。


わかった事があった。
ママが中国から来た時
今から28年前からおじさんは優しくしてくれた
そう、森家は戦時中
満州はハルピンにいましてね。
中国とはすごく関わりがあります。
そのルーツかな?



おじさん
一弥くんのお父さんの事感謝してたよ。
戦後、靴磨きで森家を支えてて



オヤジ、そんな事してたの?



なんて
話をしながら
思った



おじさんここ楽しかったんだな
足が弱っても
記憶が少しわからなくなっても



毎週金曜日
だけは覚えていて
楽しみで
来て


一弥くん
ここはね
年齢も仕事もみんな違う人達が集まってね
ただの飲み会なんだよ。



人生の先輩達との飲み。



3時間飲んで
お店を出たら
小雨


ママが
一弥くん
傘持って行きなさい。


この位は大丈夫です。



いいから
そして
いつか傘持って来て。



はじめてのひとりスナック
スナックって
暖かくて
優しいんだな。



これから
たまに
おじさんの代わりでここで飲もうと思いました。