~ユノside~
「はぁ─────っ、…ねぇ、ユノ?」
「…………………。」
「ちょっ、…!!!…ユノ!!!」
「…………………。」
「おいっ!!!……ユノ。聞いてる?」
「……………聞いてない。」
「…なんだよっ!!!聞こえてんじゃん!!!」
大音量のハウスミュージック。
楽しそうに踊る若者たち。
俺のもうひとつの店。
ちょっと奥まったカウンター内で俺の真ん前のスツールに座るチャンミン。
「俺、今、仕事中。」
「なんだよっ!!!客と喋るのも仕事だろ?」
────なんなの?コイツ。
あれだけキツく言ったつもりなのに、まるで効いてないな。
俺のこと、いつでも受け入れOKの男だと思ってねぇか?
「……ユノォ~~~!」
って、グラスを拭いてる俺の手の上から両手を重ねてくるし。
「触んな!…落とすだろ?ってか、おまえ、酔ってるだろ?」
「ふふ~ん!酔ってませ~ん。話を聞いてほしいだけで~す!」
──────酔ってるな。
デッカい目をさらにクリクリっとさせて、………なんだよ、もう。
そんな顔で笑いかけてくんな!
「ほら!───水飲め?」
水の入ったグラスを乱暴に置いたら、波打った水がチャンミンのこぶしを濡らして。
「わぉ。冷て~~!ユノ、ひどい~!」
って、ひとりでケラケラ笑ってる。
ダスターをパサッと投げおいて。
「チャンミン、…帰るぞ?送るから。」
グイッと腕を引けば、思いっきり振り払われて。
「…酔ってない、って!!!離せよっ!!!」
──チッ、…舌打ちしながら、有無を言わせず強引に連れ出した。
どんなに暴れようが、酔っ払いに俺が負けるとでも思ってんの?
こんなに酔ってたら、いつお持ち帰りされるか心配で見てらんないし、…おまえもそれを承知でいつも俺の店に来るんだろ?
店長のシウォンに、すぐ戻る、とだけ告げて、足元も覚束ないほど酔ったチャンミンの身体を支えて駐車場へ。
ドサッと乱暴に助手席に放りこむ。
「もっと、優しく扱えっ!!!バカユノ~!!!」
ほんと、口の減らないやつ。
チャンミンのマンションはもちろん入ったことないけど、場所だけは知っていた。
いつだったか、近くを通ったときに、──あれ、僕んち、って教えてくれたっけ。
隣でウトウトし始めたチャンミンの前髪を、そうっと撫でる。
んん…、と、くすぐったいのか、口元を緩めて頭を捩る姿に、温かい何かが胸に灯って、───やっぱり憎めない。
そんなことの繰り返し。
ふと、…俺に話したかった事って、なんだろ?
そう思ったけど、…まぁ、いいか。
おまえのいい話も、嫌な話も、聞きたくないから。
「──んっ、…ん、…ユノ、……。」
ただの寝言でよばれたなまえが、こんなにくすぐったい、とか。
信号待ち、…左手で、チャンミンの頬をフワッと包んだら、寝たままなのに、…ふにゃ、と崩れる顔。
親指で唇を何度さすっても、一向に目を開く気配がなくて、───チュッ、…軽く触れるだけのキス。
内緒のキスがもうひとつ増えた夜、───。