~チャンミンside~
「───失礼します。」
パタン、…と渉外担当室のドアを閉め、営業室へとおりる階段へ向かう廊下。
「チャンミナ。──ムキになるなよ?」
そっと僕の頭を撫でようとする手を押し戻して。
「こんな所で、触らないでください。」
どうしても表情が強張るのを隠せない僕。
─────2人がそれぞれ、本社と支社の担保価値の試算と業績や将来性の分析を資料としてまとめてくれるか?
本部への稟議書へは、どちらかを選んで使わせてもらうから。────
副長の言葉が僕の気持ちを沈める。
───渉外としてまだ一年もたってない僕が、本店営業部で企業融資専門の融資渉外をしているユノヒョンに適うわけないじゃないか!!
教えてもらうといい、とか、…話が全然違う。
でも、やる前から負けを認めるのは嫌なんだ。
とりあえず、この会社の業界を知ることから始めよう。
しばらくは自分の部屋に籠もらなくちゃ。
ユノヒョンのいた、この支店に配属されたのが2年半まえ。
なぜかユノヒョンのマンションにシェアさせてもらう事になって。
そして、まったくもって不思議なんだけど、…ユノヒョンと恋人の関係になった。
初めてお互いの気持ちを確認してから2年。
相変わらずユノヒョンは僕の側にいてくれて。
前のユノからは考えられねぇな!!って、ヒョンの幼なじみのジオさんなんかはいつも笑うけど。
ヒョンの側にいることが僕にとっては呼吸をするくらい自然になってしまって。
今、ヒョンを失ったら、きっと僕は窒息してしまう、…なんて思ってること、絶対ヒョンになんて言ってやらないけど。
営業室へ入ったら営業時間は過ぎていて、計算も合ったようで穏やかな空気がながれていた。
「───ユノさん!!!!!」
ジュンギを筆頭にヒョンの周りに駆けよってきた人達。
「よぉ、久しぶり!!」
口角をあげ爽やかに笑うヒョンを、頬を上気させて遠巻きに眺める女の子たち。
「ユノさん。お久しぶりです!!」
こんなに嬉しそうに笑うジュンギは初めて見た。
ヒョンの背中越しにそんなジュンギを微笑ましく眺めていたら、…チラッと僕に視線を重ねて、フイッ、と逸らす。
「あ、あの、…みんなで話してたんですけど。せっかく金曜日だし、…たまには元いた支店で飲みに行きませんか?」
「あー、…一度、本店営業部に帰んなきゃいけないけど。」
「大丈夫です。そちらの近くの店で飲むので、ユノさんは仕事を片付け次第来てもらえませんか?」
必死なジュンギに助け舟を出すように。
「いいじゃん~!!…たまにはこっちにも付き合いなよ?」
って、ジュリさんも大乗り気で誘いにきてる。
ヒョンがくいっと顔だけをこちらに向けて。
───ああ。
チャンミナが行くなら行くよ。って、ヒョンの顔に書いてあるけど。
僕としては、もう事情を知ってるジオさん達、──ヒョンの学生時代の友達と飲みに行くのはいいのだけれど。
絶対僕たちの関係を知られたくない銀行仲間の飲み会にユノヒョンと行くのは嫌なんだよな。
なんか、…漏らしてる気がする。
現に僕と同期のリナなんかは薄々気づいてる、って何かとアピールしてくるし。
「……あ、あの、…僕は、…。」
断ろうと、気まずそうに口を開いたら、──ムギュッ、…痛っ、…ジュリさんに思いきり腕を抓られた。
「…い、行きます、……僕も。」
とっさに出た言葉に。
「…ん。じゃあ、久しぶりに行くか!!!」
満足そうに笑うユノヒョン。
その横で、唇をギュッと噛んで僕を睨むジュンギに、……僕はまったく気づかなかった。