~チャンミンside~
もし僕の予想が当たっていたら、・・ユノと父親との確執の原因が僕の父にあったという事実。
この事実はいずれ僕とユノの関係を壊してしまうだろう。
───それならいっそ、今、完全に離れた方がいい。
そう思ったのは嘘じゃない。
それが正解だ、と今でも冷静な僕が頭のすみで言っている。
「チャンミナ、・・愛してる。」
低く絞りだすような声、────。
何を思ってこんなに思いつめた表情なのか、・・・それを読みとることは出来ないけど。
簡単にだした答えじゃないことだけは、その真剣な瞳から理解できたから。
「─────ユノ。」
僕がユノの手をとることは必然だった、────。
「もう、泣くな。」
親指の腹で何度も僕の頬をさする。
「泣くな、チャンミン。」
ユノの唇が幾度となく頬を往復し、すべての雫を受けとめる。
震えているのは僕の身体なのか、・・・心なのか、・・・
紅潮した頬に腫れぼったくなった目は、けして見た目のいいものでもないだろうに。
僕の顔を両手で包みこんで、
「──────かわいいな、・・。」
と言っては、くしゃっと笑う貴方がいた。
「──────っん、・・ユ、ノ、」
チュッと軽く触れただけ。
目と目を合わせて、ふっ、と笑った。
今度は少しだけ長く、──。
唇の柔らかさに蕩けそうになった。
「深呼吸、して?」
「へ?」
間抜け面な僕に、ニッとイタズラな笑み。
角度をつけて与えられたキスは気が遠くなるほどに長く、柔軟な唇が離れそうになっては深く挟みこんでを繰り返すから、・・・
ガクッとくだけた腰を片手で支えられて、促されるままベッドへ2人沈みこんだ。
重なり合ったままいつまでも続く口づけに、そっと目をあけてみる。
───関係ない、とか、冷たく言い放ったその人が、たった今鼻先が触れ合うほどの近さで繋がっているなんて。
微かに揺れる長い睫毛。
興奮気味に紅潮した頬。
悩ましく寄せた眉。
地に足がついてないような、夢をみているような感覚に、意識までどこかに飛んでいってしまいそうで、ギュッとユノのシャツを掴んだ。
ピクッと反応したユノがさらに強く抱き寄せる。
今、目の前にいるユノは無表情の能面のようなユノではなく、内側から込みあげる興奮を露わにした、ただの男で。
────それがこんなにも嬉しい。
このままずっとユノの重みを感じていたい。
ユノの匂いに包まれてどこまでも堕ちていきたい。
有り得ないことを考えながら、そんな自分にふっと笑えた。
こんなにもユノに夢中だったのかと、おかしかった。
「なに?・・チャンミン?」
気づけばキスはもう解かれていて、僕の輪郭を指で愛おしそうになぞる人。
「何を笑ってる?」
何も答えず、ユノの頬に手を伸ばした。
初めて触れるそれは、思いのほか柔らかくて、───氷でも能面でもなかった、と。
「・・明日になったら、・・また能面のようになってる、かも。」
そう呟いたら、・・何のこと?って顔したユノ。
でも意味は通じたみたい。
「これが偽りのない本当の気持ち。────もう戻れないから。」
「───おまえも覚悟しろよ?」
そう言って照れ臭そうに笑った。
それでもやはり明日はまた冷たくなるかも、・・と、不安を拭えない僕がいて。
離れがたくてもう一度ユノの首に腕を回したら、嬉しそうに微笑むユノ。
「大丈夫、・・嫌がることはしないし、・・もう不安にもさせねぇよ。」
もう数えきれないくらい何度目かのキスの始まりは、
────トントンッ、
「・・チャンミンさん?ジヒョンです。・・もしかしてユンホ坊ちゃまもご一緒ですか?」
なんて、空腹を知らせる音とともに夕飯の知らせがきて邪魔されてしまったのだった。