~チャンミンside~
「・・・どうして、・・スーツ?」
大切な話があるから部屋で待ってて、と約束した人がなぜかスーツ姿で現れた。
両手で持ちきれないほどのファイルを手に。
「悪い、・・ちょっと手伝って?」と少しだけ渡されたファイルを持って促されるまま廊下を歩いていく。
隣を歩く端正な横顔。
少しだけ緊張の色が見て取れるのを、そのわけを聞きたいのに有無を言わせない雰囲気。
「ユノ?」
ふと立ち止まった先、ユノの目線は小窓から微かに望む裏庭。
ゆっくりと見渡したあと、スッと僕へ向き合う。
「な、明日の午後から休みが取れた。
───行かないか?ホタルを見に。」
「え?明日って、・・平日ですよ?」
「分かってる。週末は出張だし、・・おまえの出発まであとひと月もないだろ?
明日は大学も英会話も、・・休んで欲しい。」
いつになく真剣な面もちで、
「───駄目か?」
なんて聞かれたら、僕が断れないことなんて分かってるはずなのに。
「わ、・・かりました。」
しれっとした顔して僕を振りまわすユノにはもう慣れた。
きっと明日の午後もユノなりに一生懸命調整して空けたのだろう。
それを断るなんて出来なかった。
────僕もいつかした約束が果たされる日をずっと待っていたから。
そんな僕を見て、固く結んだ口元がゆるり綻び嬉しそうに口角があがる。
「・・ありがと、チャンミナ。勇気がでた。」
その言葉にハテナマークが浮かぶけど、スッと向けた背中には言葉にし難いオーラが漂い、これ以上声をかけることは出来なかった。
「───ユ、ノ。・・どうして・・?」
立ち止まった先はヨンジンおじさんの書斎で。
ファイルでふさがった両手を駆使してノックする姿をどこか遠くで眺めている僕。
「────ユンホか?入りなさい。」
久しぶりに聞くその声に胸がざわつく。
何のために2人してここへ来たのか、・・不安だけが先立って足が震えそう。
「チャンミナ、・・愛してるよ。」
囁くような声で、そして掠めるような口づけ。
驚いて固まる僕の背中をぽんっと叩いて。
「何も言わなくていいから。」
そう言ってドアを開けるように目で促され、ゆっくりと足を踏み入れる背中。
僕も少しだけ遅れて後を追う。
僕を見て少しばかりの動揺を見せたその人の前にドサッと山のようにファイルを置くユノ。
「・・・仕事の話だと思ったが?」
そう呟く人に向かって、「そうですよ。」としたたかに微笑む。
固唾をのむほどの緊張感に立っているのがやっとで、
「・・チャンミンを同席させてか?ユンホ。」
「そうです。・・当事者ですから。」
どうして先に何も教えてくれなかったのか、と恨み言のひとつやふたつでは済まないくらい心臓はバクバクしてるし、指先が震えて冷たくなってきた。
大量のファイルが積まれたテーブルを挟んで対峙する父と息子。
生まれながらに大勢の人々をかしずかせるその存在感。
───やはり親子だ、と妙に納得した。
「チャンミナ。」
なまえを呼ばれてハッとする。
ドアの前から一歩も動けないでいる僕に目線だけでソファの隣に座るよう合図するユノ。
「ユンホ。もう一度聞くが、仕事の話にチャンミンを同席させる意味はあるのか?」
口調は静かだけど、明らかにぼくを歓迎してない雰囲気で、その迫力に怯んで歩を進めるどころかじりじりと後退する僕に、
「将来的に、・・彼を僕の右腕にする心づもりだと伺ってますが?」
ニコッと笑ったまま僕に目線をむけて、
「チャンミナ、・・おいで?」
─────わざとなのか?その言い方に甘さが含まれていて、僕を真っ正面に見据えたその人がピクリと反応したのが見て取れた。
でも、───僕は。
ユノの揺るぎない言葉を信じると決めたから。
途切れない途を信じて、ついていくと決めたから。
ゆっくりとユノの隣へ腰をおろす。
そして真っ直ぐにその大きな存在を見つめ返した。
「父さん、・・・いえ、社長。
これは、───交渉です。」
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両手に持ちきれないほどのファイルって・・・σ(^_^;
今どきPCとUSBさえあれば、・・なんて後から気づきました(‥;)
なんてアナログな私。←でもそのまま。
明日のお話はなんとな~くな雰囲気で読んでくださいね^^;
よろしくです♪