今日はPC-8801FH/MH以降のバックアップ電池をCR2032に変更する実験をしてみました。

電源周りの改造は装置に致命的なダメージを与えかねない行為です。どうしてその値でいいのか、どうしてその値になるのか、そういった根拠を自身で導けない方はこの手の改造に手を出さないことをお勧めします。これは電源周りに限った話ではありませんが。
もちろん、手を出す場合は自己責任で、ですョ d(^^


これまでの記事でも何度か触れたとおり、PC-8801FH/MH以降ではNi-Cd充電池がカレンダ時計のバックアップ電源として使われています。(88SR以前の機種は中身を見たことないので、知りません:p)
この電池が液漏れを起こすと周囲の基板のパターンを侵食して再起不能にしてしまうという問題がありました。

対策としてはより液漏れしにくいNi-MH充電池に交換する方法があるのですが、Ni-MH充電池にしても液漏れの危険性はあります。また、あまり一般的な部品ではないため、気軽に秋葉などに行ける人でないと入手が面倒という問題もあります。
そこで、容易に入手できるコイン型リチウム一次電池(CR2032)にできないかな、と常々考えていました。

しかし元々充電することを前提に回路が組まれているPC-88のバックアップ電源に、充電など論外なリチウム一次電池を繋ぐには一工夫必要です。

まず、充電時の電流はリチウム電池に通さずにバックアップ時の電流をカレンダICに通す、整流が必要です。これはダイオード一本で事足ります。
次に電圧の違いです。リチウム一次電池の電圧は3Vありますが、PC-88のバックアップ充電池は2.4Vです。0.6Vの差がありますが、これも整流ダイオードの順方向降下電圧で何とかなりそうです。
ここまではすぐに考え付きましたが、問題は整流ダイオードの逆電圧漏れ電流です。

現在手に入る整流用ダイオードの逆電圧漏れ電流は、物によって違いますが数百μA~10mA程度あります。
充電は厳禁とされているリチウム電池に果たしてどのくらいの充電電流が許されるのかわからず、ずっと二の足を踏んでいました。

しかし最近ふと、「そもそも整流用ダイオードを使う必要ないんじゃね?」と思い至りました。
元々公称値50mAhの充電池なのですから、バックアップ中にそれほど大きな電流が流れるはずがありません。

仮に1ヶ月保たせるための最大電流を試算してみると、50mAh/30(日)/24(h)≒0.07mA=70μAです。
これならわざわざ整流用ダイオードを使わなくてもスイッチングダイオードで充分事足ります。しかも、スイッチングダイオードなら逆電圧切り替え時間も短いので、放電->充電の切り替えタイムロスによって充電電流がリチウム電池に流れ込む時間も短くなります。
いけそうです:-」

手持ちのスイッチングダイオードが確かあったよな~、とパーツ箱をあさったところ1S1588が出てきました。

○1S1588ストック品
1S1588ストック品

確か20年位前に買い置きしておいたものです。(20年経った今でも未開封というのがなんとも…苦笑)
既に細かい諸元は憶えていないのでググって確認したところ、次のようなものでした。
順方向降下電圧:0.6V(順方向電流1mA時)
順方向許容電流:120mA
逆方向耐圧:30V
逆方向漏れ電流:0.5μA(30V印加時)

今回の目的にはぴったりです。特に漏れ電流が非常に少ないのがうれしい。これを使ってチャレンジすることにしました。

話は逸れますが、この1S1588って既に生産終了してしまっているんですね…。諸元を調べていて知りました。

互換品として1N4148とかがあるんですが、逆方向漏れ電流が1.2μAくらいに増えてしまっていました。

が、データシートをよく見てみると、1S1588と違って逆電圧によってだいぶ逆方向漏れ電流が変わりますね。

逆方法電圧20Vのときの漏れ電流は25nAだそうなので、逆電圧5V以下になる今回のケースではそれ以下になります。今回のケースでは1N4188のほうが1S1588より合ってますね。

さて、リチウム一次電池への充電電流をカットするだけなら電池からカレンダICに電流が流れるようにダイオードを繋げば良いわけですが、これだともし万が一ダイオードが故障してショートしてしまったときに大電流がリチウム一次電池に流れ込んでしまいます。そこで流れ込む電流を制限するために抵抗をはさむことにします。が、適切な抵抗値がわかりません(^^;;

そこでちょっと調べてみたところ、Maxellさんのサイトに「電池に流れ込んでも 破裂を起こさないと見込まれる最大電流値」というのが公開されていました。CR2032の場合10mAだそうです。他のいくつかのメーカーの公開情報でも10mAになっていたので、この値で計算して問題なさそうです。
複数のメーカーでこのような情報が公開されているということは、やはり必要な作業ということなんでしょうね。

PC-88通電時のカレンダICから充電池の+極につながっている端子には4.55Vが出ていましたので、そこから電流制限抵抗の適切な抵抗値を計算します。(これはオームの法則から簡単に導き出せます)

ただしこれはあくまでも、ダイオードが故障した場合に電池が耐えられる電流の最大値であって、ダイオードが正常なときに流れ込む累積充電電流量および瞬間電流の許容値(つまりダイオードの逆電圧漏れ電流の許容値)には別の基準があります。電池のメーカーごとにその値は異なりますし、PC-88の使用条件によっても異なりますので、適切な漏れ電流許容値は使用者が各々の条件から電池メーカーの公開情報を基に個々に算出することになります。
Framの場合は1S1588の0.5μA(30V印加時)で問題ないことを確認しています。

さて、前置きが長くなりましたが実際に組んでみましょう。

○CR2032を用いたPC88のバックアップ電池
PC-88バックアップ電池(上面) PC-88バックアップ電池(下面)

以前廃棄する白サターンから回収した電池ホルダがあったのでこれも再利用して、Ni-Cd充電池の脚の幅に合わせた物を作りました。電池ホルダの下には充分な空き空間があったので、抵抗やダイオードはそこに収めています。

配線にミスがないか一通りチェックした後で、マザーに取り付けます。

○実装後
PC-88バックアップ電池実装後
(註:これはMHのマザーですので、CMT関連の部品が載っていません。)

まずは電池を装着しない状態で本体の電源を入れ、電池ホルダの+端子に電圧が来ていないことを確認します。もし3Vを超える電圧が来ていたりしたら電池を装着したときに大変なことになりますからね、ここは慎重に、です。

問題なかったので、今度は本体の電源を切った状態で電池を装着し、カレンダICのバックアップ電源が繋がっている端子の電圧を測ります。ここは2.4Vになるのを期待していたのですが、実際には2.8Vがかかっていました。
まあ充電時には4.55V出ていた端子ですから2.8Vでも大丈夫のはずですが、1S1588の順方向降下電圧が思いのほか低かったようです。やはりバックアップ中は1mAには程遠い電流値のようです。

最後に電池を装着した状態で本体の電源を入れて、電池に異常が起きないか観察しますが、……問題なさそうです。元通り組み立てて、BASICを立ち上げます。

DATE$とTIME$に現在の日時を入れていったん電源を切り、しばらくしてから再度電源を投入して、
print DATE$
print TIME$
を実行してみると、無事前回設定した日時から経過した時間分進んだ日時が表示されました。成功です。
【12/10追記】
さらに電源を切った状態で放置し翌日にも確認したところ、無事日付も更新されていました。
【12/10追記終わり】

もう少し運用してみて、大丈夫かどうか確認してみます。

なお、今回は実験ですので直接マザー上に取り付けていますが、このパーツは運用上の構造的な問題は考慮していませんので、
・電池交換の際にはマザーに辿り着くまで本体を分解しないといけない
・電池を交換する際にマザーのスルーホールに負担がかかる
という問題があります。
運用に耐えるようにするには構造的な考慮と工夫が必要です。参考にする際には気をつけてください。

最も簡単なのはマザーからコードを引き回してきて、天板を開けただけで触ることができる拡張ボード用の空間の適当な隙間に電池ホルダを設置することでしょう。


【12/27追記】
こちらの記事の最後 に電池ホルダ設置の一例を載せました。
【12/27追記終わり】

さて、次はFS5500に載っていた大きなリチウム一次電池をCR2032に載せ変えようと思います。
電池ホルダの手持ちがないので昨夜千石電商に注文し、現在到着待ちです。

【12/15追記】
FS5500の電池換装は こちら にあります。
【12/15追記終わり】

【'15/12/10追記】
およそ1年経ったので確認してみましたが、まだカレンダはバックアップされてました。
結構もちますねぇ。
【'15/12/10追記終わり】