少し前に書いた韓国の演歌/トロットについての記事(散歩話 第688回 「韓国といえば演歌」)と関連した話です。





韓国MBNで『韓日/日韓歌王戦』という番組が放送されて人気になっていました(日本での配信はAbema TV)。

日本で開催された『トロット・ガールズ・ジャパン』での上位7名が韓国に渡り、韓国のトロット番組『現役歌王』の人気女性歌手たちと対決する日韓歌合戦番組です。
色々と韓国人の番組に対するコメントやステージで披露された楽曲についてのコメントを探して読んでいましたが、思っていた以上に韓国では日本の演歌や歌謡曲の需要があるのだと新たな発見。番組ではもっと日本側出場者に演歌を歌って欲しかったという意見もあり、本職の演歌歌手が韓国の音楽番組に出ればそれなりに人気を得ることができそうです。

歌詞の翻訳を読んで知った韓国人が「日本人にも感情があるんだ」なんて話をしているのは日本人として一見ギョッとするのだけど、日本人との交流が無い韓国人には「日本人は冷酷で感情が無い」という思い込みがあるからなのだろうな。日本人の側にも今の韓国にはK-POPしかないと思い込んでいる人が少なくないのですから知識の偏りはどこにでもあるものです。
だからこそ、お互いに認識のギャップが歌によって埋まるのは悪い話ではない。
「日本人は冷酷で感情が無い」とイメージしている韓国人には昭和のフォークソング辺りも「発見」して欲しいところ。中国では吉田拓郎の音楽で日本人への解像度を上げる手法が「発見」されていますが、吉田拓郎は韓国の386世代と呼ばれた世代にも刺さるんじゃないかな。韓国でも人気のあるあいみょんをブリッジにして紹介すれば。

で、この番組で日本チームの妹キャラとして登場した住田愛子が「健康的でいい!」と韓国のおじさんおばさんの間でバズっています。

『韓日/日韓歌王戦』放送終了後もすぐに次の番組出演が決まるほどの人気でした。
……眺めていると、韓国にもおじさん構文おばさん構文があるんだな。日本の若手演歌歌手のコメント欄と同じ絵文字だらけの文章に日本語と韓国語の境が溶けていく。

『韓日/日韓歌王戦』を見ていたら住田愛子をチアリーダーと紹介していました。日本で書かれた記事には地方アイドルと書いてあるのも見かけましたが、彼女は正確にはアクターズスクール広島(略称:ASH)という広島にある芸能スクールの生徒です。チアリーダーや地方アイドルではなく、ASH生徒のステージ経験を積むための実習チーム〈SPL∞ASH〉メンバーであって、あくまでも芸能スクール受講生の一人でアイドルではありません。ここからどこかのグループに合格してアイドルと呼ばれるようになります。
日本のアイドルを「学芸会レベル」なんて言う人もいますが、これが本当の意味での学芸会レベルです。

その上で、『韓日/日韓歌王戦』に対するコメントでは「日本のアイドルは歌も踊りも下手だと思っていたけど、歌って踊れるタイプもいるんだ」なんて感想をよく見ます。特にHYBE社のお家騒動でK-POPアイドルの加工修正無しでの歌唱力の低さが韓国で問題視されたすぐ後でしたから。
でも現在の日本の女性アイドルの出身校としてのASHは最大学閥の一つですよね。ASH出身の国民的アイドルならば〈Perfume〉の三人、国際的アイドルなら〈BABYMETAL〉のSU-METALこと中元すず香がすぐに思いつくはずです。
そして、「下手」の象徴として〈AKB48〉の名前が出されているのも見かけますが、48グループにもASH出身者は少なくありません。特に、広島を中心に瀬戸内エリアをフランチャイズとする〈STU48〉はASH生徒の受け入れ先として機能しており、STUの初代キャプテンこそ東京のAKBから派遣されましたが、二代目の今村美月と三代目の岡田あずみは両者ともASH出身で〈SPL∞ASH〉からのSTU入団なので、住田愛子にとっては直の先輩、三代目の副官ポジションの久留島優果はASH入学同期、岡村梨央は同世代の学内ライバルでした。さらにSTU歌唱担当の池田裕楽清水沙良もASH出身ですからSTUの三代目体制はASHのほぼ延長線上にあるチームです。(こっそり張ったリンクはしばらくしたら外します)
アイドルではない一受講生が韓国で「ウチの国のアイドルとは違って口パクせずに歌って踊れるなんてすごい」と評価されるのならば正規にアイドルしている彼女たちがもっと評価されていてもいいのに。

ついでに紹介しておくと、この世代のASH出身者の序列トップはSU-METALの後継者として〈METALVERSE〉を任されている戸高美湖になるのでしょう。

そして、テレビ地上波の人たちには〈櫻坂46〉の谷口愛季になるのかな。

ASH出身者でエリートとされるのは中学生くらいまでの間に「卒業」して東京の大手芸能事務所に入った層。戸高美湖も谷口愛季も13歳の時にASHを「卒業」し、それぞれアミューズ社とSMA(Sony Music Artist)社に所属しています。
そして、上京せず/できずに地元に残ったうちの上位層がSTUに入団、というのが日本のアイドル界隈におけるASH出身者の一般的なキャリア認識のはず。
なので、韓国でいきなり評価された高校生の彼女は学内の優等生の一人ではあるものの特別にエリートというわけではありません。

『韓日/日韓歌王戦』に日本側主将として参加した福田未来も2018年に解散した〈THE HOOPERS〉のメンバーで彼女も元アイドルですが、韓国のトロット歌謡番組に出場した日本人への反響を観察していると、日本のアイドルが比較対象されるべきなのはK-POPアイドルではなくトロット歌手なのか、と新しい気付きを得ました。K-POPアイドルと日本のアイドルは音楽ジャンルが違うのですね。
例えば、ASHからハロプロに入団した〈Juice=Juice〉の段原瑠々(実姉がASH実習部門チーフスタッフ)と〈OCHA NORMA〉の広本瑠璃(STU48の清水、METALVERSEの戸高と同じ実習チーム出身)の二人で歌って踊る姿は韓国では「アイドル」ではなくトロット枠に見えるでしょう。ハロプロの〈アンジュルム〉から日本人K-POP枠に転向した笠原桃奈がリーダーとなった〈ME:I〉と比べると違いは明白です。
……K-POPアイドルと日本のアイドルを続けて見ると、日本のアイドルの身体的負荷の高さに対してのリターン(金銭的な話でなく大衆的な知名度とか評価という意味で)の低さに悲哀を感じます。〈ME:I〉の事例で言えば笠原桃奈だけでなく副リーダーの石井蘭もLDHグループの〈Girls²〉からの転向組ですが、それまでの活動では大衆的人気を得るためのメディアの門戸は閉ざされ無視されていたのに、所属チームをK-POP枠に替えるだけで、テレビの音楽番組に呼ばれ雑誌の表紙を飾れるようになり、「さすがのキャリアとスキル。ビジュもいい」と急に褒めて評価されるようになるのですから。


『韓日/日韓歌王戦』の韓国での反応を眺めつつ思ったのは、テレビ地上波に代表される日本の大衆向けメディアでK-POPアイドルではないがゆえに門戸が閉ざされている日本のアイドルたち…例えば、ハロプロや〈STU48〉から演歌ではない歌謡曲寄りの対トロット選抜を作って逆に韓国に送り込んだら意外と人気が出るんじゃない? と。
『韓日/日韓歌王戦』の平均視聴率は10%越えで韓国国内の音楽番組としては大ヒット。K-POPアイドル主体の音楽番組の韓国国内視聴率は1%に満たない0.何%程度であることを考えればはるかに大衆的です。
STUメンバーと48グループ内歌唱コンクールで競っていた元NMBの李始燕も韓国でK-POPアイドルではなく日本式のバンド・カルチャーを背景とするアイドルのスタイルを採る〈QWER〉のヴォーカルとしてK-POPアイドルに占拠された韓国国内各種音楽チャートで上位に食い込んでいます。
川の流れのように』に感動した韓国人が作詞が秋元康だと知って「え、あの(悪名高い)秋元康?」となっているのも面白いけど、もちろん目ざとい秋元康はすでに昭和歌謡曲チームも稼働させてもいますし、ハロプロを運営するアップフロント社も元々はフォークソング系で演歌歌手も扱う会社なのだからハロプロOGをプールしているM-Lineを昭和歌謡チームとして送り込んでも良さそうに思う。
ただし、その場合は、元AKBの竹内美宥市川美織とは違うもっと大衆的なアプローチで。



韓国から離れて米国や中国での話に移ると、
世界的に話題になった作品『SHOGUN』でヒロイン役を演じたのが澤井杏奈。日本では2018年12月まで〈FAKY〉として活動していました。

澤井杏奈のキャリアは12歳でのミュージカル『アニー』の子役から始まり、ついにハリウッドに到達しましたが、その間にあるのが〈FAKY〉のAnnaとして歌って踊る彼女の姿。
よく「K-POPアイドルのように日本のアイドルも英語が話せるようになるべきだ」なんて言う人もいますが、英語が話せて後にハリウッドに進出するような人材を抱えていてもまず日本で大衆に知られるようになるのは容易ではないし、また、「日本には幼稚じゃない大人なコンセプトのグループはないの?」なんて言う人もいますが、そういう人たちは存在を知ろうともしないのですよね。

今年24年1月をもって〈FAKY〉は力尽き解散。
澤井杏奈が世界的スターになろうとする『SHOGUN』放映期間の今年春、〈FAKY〉のエース格だったAkinaはタイで開催されていた中国WeTVで配信されるオーディション番組『創造営』シリーズにデビュー前の若手に交じって参加していました。しかも明らかにキャリアの長い彼女ゆえに、番組上「当て馬」として扱われているのは何というか…ここにも悲哀を。

『創造営』といえば、

中国における日本型アイドル出身者として、23年4月に解散した〈INTERSECTION〉メンバーで前回2022年の『創造営』に合格し〈INTO1〉メンバーとなって活動の場を中国に移した橋爪ミカ(中国語表記は米卡)と、まだ48グループだった時期の〈SNH48〉に入団しエースだった鞠婧祎のステージを。


私、「韓国のアイドルと比べて日本のアイドルは歌も踊りも下手だ」とは全く思わないんですよ。K-POPアイドルとはステージパフォーマンスのフォーマットが違うのであって、個々のスキルの優劣ではなく、加工修正含めて「完成された」K-POPアイドル(これは否定的な意図はありません。加工修正も含めた一つの作品として完成させているという意味です)と生の素材に近い形で出す(がゆえに「未完成」視される)日本の「ライヴ」なアイドルの見せ方/見え方は違うだけで。
その違いは、基本リップシンクで視覚効果優先のK-POPだけの話じゃなく、歌を聴かせるトロット番組としての『トロット・ガールズ・ジャパン』と『韓日/日韓歌王戦』でも日本と韓国それぞれにおける映像や音声の処理を同じ歌手の同じ歌で比較すれば分かりやすいはず。韓国では歌の不安定な部分は修正し、映像にもフィルターをかけて加工しています。
人には好みがありますし、別に「生」の「日本」を高評価して加工修正ありきの「韓国」を下げろと言いたいわけでもないんですよ。逆に日本、特にテレビ地上波はもう少し見栄えを上手く整えてあげればいいのに、と私は思っていますから。
言いたいのは、そもそも上手だ下手だという以前に日本では多くの活動が知られず、評価の土俵にすら上がらせてもらえない状況がある、ということです。


金成玟の『日韓ポピュラー音楽史 歌謡曲からK-POPの時代まで』第9章より。
二〇一〇年代は、JーPOPの音楽的・社会的メカニズムが大きく変容した時代である。音楽評論家の柴那典が指摘しているように、テレビを中心に国民的ヒット曲を量産していた「ヒットの方程式」が成立しえなくなり、社会に対して音楽が保っていた従来の影響力も低下していった。そのなかで、JーPOPが世界の潮流とかけ離れ、孤立しているという「ガラパゴス論」が広がっていった。とはいえ、「ガラパゴス」そのものに関しては、賛否両論に分かれる。これまで日本の音楽界が生み出してきた独自のポップスに焦点を合わせれば、これも柴がいうように「相変わらず日本はガラパゴスで面白い」のも事実である。しかし、「アメリカとの同時代性」を保ちながら巨大な音楽市場を構築した一九七〇年~八〇年代と、その遺産を受け継いだ「JーPOP」がアジア市場に影響を与えた一九九〇~二〇〇〇年代の文脈のうえで考えると、二〇一〇年代のガラパゴス論は、「世界とつながっていない感覚」をめぐる不安と危機感の表れであるといえよう。
今の日本では「洋楽が聴かれなくなった」とよく言われます。これは音楽における「洋楽」だけでなく、「洋画」や翻訳書(洋書と言うと意味が変わっちゃうので)などでもそうですよね。"世界の潮流とかけ離れ、孤立している"感覚はJ-POPだけでなく文化的にも社会的にもあるはずです。

過去には「世界第二の経済大国」と呼ばれた「日本」の没落が誰の目にも明らかになった2010年代、それまでの日本のビジネスモデルは変化せざるを得ない状況になります。しかし、その危機感の向かう先は、外に開く改革ではなく、内向きに作用したわけです。
二〇一〇年代の「日本ゴールドディスク大賞」の受賞リストからは、「アイドルの時代」にもかかわらず、アイドル間の激しい競争や音楽業界の権力闘争、世界の音楽的トレンドの接点など、アメリカや韓国の音楽界から伝わるダイナミズムを読み取ることはほぼ不可能である。その意味で二〇一〇年代後半アーティスト別売上トップ10のリストは、不安と危機感の表れとしてガラパゴス論を強化させるものであるといえよう。
2010年代という時代を考えるに、日本ゴールドディスク大賞の受賞者は象徴的です。2010年と11年は二年続けて〈嵐〉、12年13年14年は三年続けて〈AKB48〉、15年16年17年は三年続けて〈嵐〉、18年と19年は引退を発表した安室奈美恵、20年と21年は活動休止を発表した〈嵐〉と、ほぼ十年の間〈嵐〉で受賞リストは占拠されているのですね。ついでに書いておくと、22年23年24年は〈Snow Man〉で旧ジャニーズ勢がそのままスライドしています。
オリコンリサーチに基づくアーティスト別売上も、(全部を書くのは長くなるので)トップ3で並べると2015年は〈嵐〉・〈AKB48〉・〈三代目 J Soul Brothers〉、16年は〈嵐〉・〈SMAP〉・〈AKB48〉、17年は〈嵐〉・安室奈美恵・〈乃木坂46〉、18年は安室奈美恵・〈乃木坂46〉・〈AKB48〉、19年は〈嵐〉・〈乃木坂46〉・〈King & Prince〉。
イレギュラーな引退特需の安室奈美恵を除けばジャニーズと秋元康プロデュースのAKBと乃木坂で売上上位はほぼ寡占状態にありました。

新しいものを受け容れて冒険するよりは、内向きにこれまでを前例踏襲し、内部の利害調整が全てに優先するガラパゴス的面白さというよりは「官僚主義」的で「大企業病」罹患の象徴がジャニーズと秋元康プロデュースのアイドルによるチャートの寡占状況だった、と言ってしまっても反発する人はそうはいないと思います。
そして、でありながら、肯定的であろうと否定的であろうと、ジャニーズと秋元康プロデュースのアイドルしか知ろうとしない大衆の側もまた、その構造に加担してきたとも言えます。
嵐やAKB/乃木坂といった「個」の問題ではなく構造の問題です。

この状態が止まるのは2020年代に入ってから。
オリコンのアーティスト別売上は20年も1位は〈嵐〉でしたが2位に〈BTS〉が入り、21年と22年にはついに〈BTS〉が1位となりました。
K-POPという「外圧」によって日本の構造改革を期待する層が現われるのも妥当と言えば妥当です。
TWICEに憧れた日本の若者たちが次つぎとソウルに渡っていく二〇一〇年代後半の動きは、BTSが開いたアメリカ音楽市場への欲望とあいまって、さらに活発化する。
~(中略)~
ビルボードのみならず世界一〇〇以上の国と地域の音楽チャートと連動するKーPOPの影響力は、グルーバルな音楽産業の構造にも変化を与えている。二〇二一年、BTSの所属事務所HYBE(旧BigHit)が、ジャスティン・ビーバーらが所属するメディア企業イサカ・ホールディングスを一〇億五〇〇〇万米ドルで買収したのはその一例である。韓国のエンターテインメント企業による史上初の海外M&Aと言われるこうした出来事においてみられるのは、K-POP企業のアメリカ進出だけではない。HYBEが試みているのは、むしろこうした産業的連携を通じて、自分たちが構築した「プラットフォーム」にアメリカのアーティストたちを吸収し、K-POPを中心としたグローバル化を展開させることのようにみえる。
〈BTS〉の世界的成功を梃子にBigHit社は次々と他社を買収し、単なる一芸能事務所の枠を越えた総合プラットフォーム企業を目指してHYBE社へと進化。
こうしたK-POPのダイナミックな動きを見てしまえば、若者じゃなくても日本での動きはどうしたって鈍く見えます。
2010年代後半、男性ならジャニーズ、女性なら坂道に入らなければ閉じた門戸で排除され、たとえジャニーズと坂道に入れたとしても内向きな活動ばかりで硬直化した日本ではなく、日本人メンバー三人を抱える〈TWICE〉の成功に憧れ韓国に渡るアイドル志望者が拡大したのも当然です。閉じた日本を出て、K-POPというプラットフォームを使って「グローバルな」存在になろう、と。
日韓の文脈のなかで考えるならば、二〇世紀を通して東アジアのプラットフォームの機能を果たしてきたのは、いうまでもなく日本であった。日本が東アジアに及ぼしてきた音楽的・産業的影響力は、東アジアにおける日本の音楽の受容・融合の側面だけでなく、日本における東アジア音楽の受容・融合の側面と照らし合わせることで、その全体像がみえてくる。一九七〇年代以降の、韓国の音楽(家)が次つぎと「日本進出」を図りつづけた過程も、「プラットフォームとしての日本」に向けられた欲望抜きでは把握しきれない。
二〇一〇年代を通して起こったのは、まさにプラットフォームの「移行」である。
~(中略)~
日本のK-POP市場の拡大と同時に進行した、プラットフォームとしてのK-POPの影響力の拡大である。
二〇一〇年代後半に日本のメディアが投げかけた「史上最悪の日韓関係にもかかわらず、なぜK-POPは日本で受容されつづけるのか」という問いに対しても、「プラットフォームが移動したから」と答えることができるであろう。つまり、二〇一〇年代の日本におけるK-POPの受容は、単なる消費ではなく、むしろK-POPというプラットフォームへの参加であったのである。
東アジアにおける文化的プラットフォームは日本から韓国へ移ったのです。
この前提に立った上で現在の日本を認識すれば、聴かれなくなった洋楽の代わりにK-POPが扱われ、洋画の代わりに韓国ドラマ、本屋に行けば韓国の翻訳エッセイや小説が並びます。若い子たちが電車のなかでスマホで読んでいるのも日本の漫画ではなく韓国のWebtoonなのもよく見かけます。テレビ地上波や雑誌も「韓国で流行している〇〇は」みたいな特集をよくやっていますよね。
もう好き嫌いの問題ではありません。
だからといって「日本にあったプラットフォームが韓国に奪われた」と逆恨みするのもスジ違いです。日本人は内向きになることで東アジアのプラットフォームであることを維持するよりも放棄することを自ら選んだのですから。


リンクしてあるのはXGの『WOKE UP』。

『日韓ポピュラー音楽史』の最終章の最後部分で扱われているのはこの〈XG〉。
その欲望を体現しているのは、二〇二二年にデビューした七人組ガールズグループXGである。メンバー全員が日本人で構成されながらも、歌とラップはすべて英語であり、ヒップホップを前面に出したパフォーマンスで目指す「グローバル進出」は、トレーニングとデビュー、活動の拠点を韓国にしていることからも明らかである。
メンバー全員が日本人で日本のavex社傘下で結成された〈XG〉はK-POPのプラットフォームを利用して"グローバル進出"を目指し、実際、それなりの存在感を持つようになっています。
〈FAKY〉にしても〈INTERSECTION〉にしても数々のavexの自社プロジェクトは失敗ばかりですが、〈XG〉はK-POPプラットフォームに乗っかることでついに成功事例に到達しました。
「KーPOPかJーPOPか」もしくは「KーPOPvsJーPOP」のような二項対立的構図だけで捉えると、あまりに多くのことを見逃してしまう。XGの所属先が日本のエイベックス傘下のXGALX(エックスギャラックス)であることは、日韓の相互作用と融合の歴史を想起させる。
2020年代という時代におけるK-POPは、HYBE社が主導権を握るものと思われていました。ところがHYBE傘下のレーベル間は内戦状態。
K-POPプラットフォーム上にありながら韓国国内の権力闘争とは無関係な〈XG〉の存在感が目立ち始めたのが面白いところ。
K-POPアイドルと日本のアイドルの融合という話に注目しつつ、この〈XG〉の新曲『WOKE UP』MVを見ると、avexとレーベル契約していた第一期〈BiS〉以来のWACKグループのアートワークを桁違いの予算規模でブラッシュアップした印象を持ちます。
また、HYBE社の内戦で〈New Jeans〉と〈ILLIT〉が潰し合いをしている隙を衝いて浮上してきた〈tripleS〉の新曲『Girls Never Die』MVは〈欅坂46〉/〈櫻坂46〉だよな。日本でのレーベルはSony Musicだし。
……と同時に、今現在も収まっていない閔熙珍ミンヒジン の告発に始まるHYBE社のお家騒動は、本来は機密で表に出すべきではないK-POPビジネスの絡繰りの暴露合戦になっていて興味深い。「外圧」を期待して過剰にK-POPを理想化してきた人たちには面白くないでしょうが。
欧米における日本のポップ・カルチャーに対する論評などを読んでいると、J-POP=アニメソング、さらにはJapanese Pop Music全体=アニメソングかのように誤解して認識している文章に当たることがあります。
実際、今現在、日本のミュージシャンが日本国外で知られるようになるのはアニメとのタイアップが少なくないのでそう誤解する人が出てもおかしくはないのでしょうが。

日本のポップ・カルチャーと昔から密接な韓国や中国語圏の人たちはもう少し解像度が高く、日本のポップ・ミュージック=アニメソングと認識しているような誤解はないけれど、それでも、K-POPアイドルと日本のアイドルを比較する時に「日本のアイドル」と「声優アイドル」の区別がついていない人が少なくないことが気になる…というよりライブアイドルの概念が理解できていない人も多い。
でも、改めて考えると日本人でもライブアイドルと声優アイドルの区別がついていない人は少なくないのかもしれない。

23年12月、二日にわたる「異次元フェス アイドルマスター♡ラブライブ!歌合戦」と題したイベントが東京ドームで開催されていました。

2005年発表のゲームを起点にメディアミックスでシリーズが続く『THE IDOLM@STER』と、2010年の雑誌連載から始まりメディアミックスでシリーズが続く『ラブライブ!』に参加した声優たちによる合同コンサート。
シリーズの枠を越えた「異次元」を冠したフェスでした。
声優アイドルというジャンルは、少なくとも東京ドームを二日にわたって埋めるだけの動員力を持っています。ただ、現在の日本ではカルチャーが分断され、「テレビ」に映らなければ、何が「大きい」のかすら分からなくなっていますよね。
とはいえ、テレビ界最大のお祭りであるNHK『紅白歌合戦』にも2015年の〈μ's〉、18年には〈Aqours〉が『ラブライブ!』シリーズから出場していますので、テレビに映っていないわけではありません。

よくある「韓国のアイドル比べて日本のアイドルは〇〇だ」という言い回しでイメージされる「日本のアイドル」とは、ライブアイドルではなく声優アイドルのイメージなのではないだろうか? とは以前から書いてきました。
……私自身はルッキズム的な話には加担しないように書いています。でも、例えば『THE IDOLM@STER』の女性向け男性版『SideM』などには、同性の目から見た際の共感性羞恥的な感覚から来るルッキズム的皮肉を言いたくなる気分も分かると言えば分かりますよ。言うべきではないから言いませんが。


2023年に発表されたたかみゆきひさの『アイドル声優の何が悪いのか? アイドル声優マネジメント』のまず「はじめに」から。
みなさんは声優という職業にどんなイメージを持ってますか。まずアニメや洋画のアフレコや、テレビ番組のナレーションをする人たちという声優像が、世代を問わず一般的なイメージとしてあると思います。それは間違いありません。しかし近年はそれだけではなく、アーティスト(歌手)活動やラジオ番組のパーソナリティーやライブ活動など広範に及ぶ、いわゆる一般的な芸能人とそう大きく変わらないタレント業となっていることもご存じかと思います。
~(中略)~
いまや声優が雑誌の表紙を飾ったり、アニメキャラクターではなく声優自身がテレビ番組に出演することも珍しくありません。若い方は信じられないことかもしれませんが、一時期は声優が「声」のみの裏方仕事に専念せず、露出して活動しアイドル/タレント化していくことが批判される風潮もありました(現在でもありますが)。ですが、そんな声優像はもはや過去のもので、タレント化した声優がいまではかなり台頭してきています。
たかみゆきひさはスタイルキューブ社の創業者。

「声優」という言葉の持つイメージは、"アニメや洋画のアフレコや、テレビ番組のナレーションをする人たち"ですよね。
昔の声優は「顔」を出さずに「声」のみで仕事をする人たち、といったイメージだったでしょうが、今現在の声優は「声」だけの仕事にとどまらず自らステージに立って活動しています。


この本の帯にはスタイルキューブ社(前身も含め)が発掘した声優として小倉唯、石原夏織伊藤美来豊田萌絵の名前が挙げられていますが、彼女たちを見れば、昭和の人たちがイメージするような「アイドル」の世界観は声優の世界で継承されていると思えませんか?
「今のアイドルはグループばかりで顔の区別がつかない」とか「今の若い歌手の歌は歌詞が聴き取れない」、そして「昔のようなソロのアイドルはいないのか」などとお嘆きの方は声優アイドルのジャンルに目を向けてみれば安心できるのではないでしょうか。

アニメや漫画原作ドラマなどで描かれるアイドルのステージや音楽が、ファンも含めた実際のライブアイドルのシーンとはかけ離れた描かれ方になるのは、モデルがライブアイドルではなく声優アイドルだからなのでしょうし、大衆の持つ「日本のアイドル」イメージにしても、「正統派アイドル」とか「王道アイドル」という言葉でイメージしているであろうものも、ライブアイドルよりは声優アイドルのステージが近いように思います。
なので例えば、「韓国と比べて日本のアイドルが~」と始める時などは、イメージしている「日本のアイドル」とは何か明確にしておいたほうが良いと思いますよ。


ここからは、『アイドル声優の何が悪いのか?』第1章「アイドル化/タレント化した声優業界の現在地」から引用していきます。
まず前提条件として、「役者業=アニメに声をあてる声優業だけでは声優は食べていけない」ということを確認しておきましょう。
アイドル化/タレント化する声優像については、声優ファンからは(ときには業界人からも)度々疑問や批判が投げかけられてきました。「声優は声優の仕事だけしてればいい」そういった意見はSNSなどでもよく見ます。
~(中略)~
最初に「食べていける」というのはいったいどのくらい稼ぐことなのか、決めておきましょう。各個人の感覚で「食べていける」レベルというのは違ってくるかと思うので、ここでは世間のスタンダードとして大卒初任給を参考にしてみましょう。令和元年の大卒の初任給は、厚生労働省によると約20万円程とされています。
~(中略)~
声優は個人事業主として事務所と契約し、受けた仕事からギャランティーを配分される歩合制がほとんどです。ある程度の固定給が設定され、仕事量によって報酬が上乗せされるケースもありますが、ここでは完全歩合制を想定しましょう。
さて、新人声優が20万円を稼ぐには所属事務所にいくら入れればよいでしょうか?
声優/声優事務所のギャランティーの配分比率は、事務所によって違いますが声優が8割、事務所が2割というのがかつてよく言われてきたスタンダードです(最近は変わってきています)。
~(中略)~
声優が8割、事務所が2割と設定して声優が月20万円もらう場合、声優事務所には25万円の収入がなければいけません(税金などで引かれる部分は複雑になるのでいまは考えないようにします)。25万円に到達するには、声優はどのくらい働けばよいのでしょうか。
声優と声優事務所のギャランティーの利益配分が8:2だと数字だけ見ると驚きます。ただ、昔ながらの声優事務所は他のジャンルの一般的な芸能事務所と違い、実質的には「個人事業主としての声優」向け事務代行サービス業で、プロダクション機能やマネージメント機能をほぼ持っていなかったがゆえの配分なんですね。
声優のギャランティーには、ランク制というものが採用されています。声優として仕事を始めてから数年間は「ジュニアランク」。30分枠のテレビアニメ1話あたりのギャランティーは1万5千円です。以降は経験年数とともに自動的にランクが上がり、最終的に「Aランク」になると1本あたりの出演料は4万5千円になります。
~(中略)~
一方で、単純にランクが上がる=ギャラが上がるということではなく、出演料が上がってしまったことで起用される機会が減少する可能性があります。結果としてベテランになるほど仕事が減り、総収入も減ってしまう……といったことも発生しうるのです。このため、ずっと1万5千円を通す人もいます。
~(中略)~
つまり、テレビアニメだけだと、週4本のレギュラーをこなしても月収20万円には満たない。
アニメ声優の出演料はランク制が採られており金額はランクによって固定されています。
新人はまず一話一律15000円で二次使用料なども付かないジュニア契約(期間三年)から始め、二次使用料など追加報酬ありの15000円を下限としてステップランク、ランカーとキャリアを積むにつれ金額は上限45000円まで上昇し、金額制限の無くなるノーランクと呼ばれる声優が最高位になります。この金額は主人公であろうと一言しかセリフがない配役であろうと同じです。
ランク制は声優にとって収入を保証すると同時に足枷にもなります。

2018年に発表された福原慶匡の『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作」の仕組み』第3章「アニメ製作の流れ」より。
音響制作費の相場は作品によりますが1話100万円~150万円です。そこから音響制作会社が、キャストや音響監督などスタッフへの支払い、スタジオ代などを負担します。
~(中略)~
スタジオ経費、音響監督や音響効果の報酬などを引くと「声優のギャラに使えるお金はこれくらいだな」と決まってきます。こういう観点もキャスティングに影響します。
~(中略)~
原作者からの強い指名等で確実に入れないといけない場合、その人だけで1話につき10万円のキャスティング費がかかりますから、他の声優は低いランクにしよう、といった計算をして調整していきます。
実際、ジュニアランクだとギャラが安いということもありよく起用されます。でもジュニアの声優にランクが付くとギャラが上がり、予算に対してギャラが合わなくなってしまうので、ランクが付くと場合によって起用されなくなる
「高い」ベテランのスター声優を使うとそれだけで制作予算を圧迫し、脇を固めるのは全員新人、なんて状況も発生するわけです。
クールジャパンだなんだとアニメが注目されても、アニメ制作の現場で働くアニメーターにはカネが回ってこない、という話はよく目にしますが、声優も若くて「安い」声優の間には仕事があっても、キャリアを積んでランクが上がってギャラが高くなると仕事が回ってこなくなる状況があります。
一週間に四本もテレビ放映されるアニメのレギュラーをこなせば相当の売れっ子ですが、若手の間はアニメだけで月に20万円を稼ぐのは大変だし、一本当たりのギャラの単価を上げれば仕事が減るので、アニメの声優業だけで年単位で生計を維持し続けるのは、ごくごく一部のスター声優を除いてかなり困難だという話です。
だから、若い声優がインターネットなどで「有名税だ」とバッシングされているのを見かけると、そんなに高い税金を払わなきゃいけないほどではないだろうに、と可哀そうに私は思ってしまう。

そして、さらに思うところは、『アイドル声優の何が悪い』第1章より。
声優業界ではフリーや個人事務所の人以外は基本的に声優事務所に「所属」という形をとっているので一見するとマネジメント契約のように見えます。しかし、芸能界と比較すると、先にお話ししたように事務所の取り分が少ないことに起因して、声優業界では事務所側が《タレント=声優》に割くことのできる労力は限定されてしまいます。
~(中略)~
僕が二〇〇〇年代に声優業界で本格的に仕事をするようになって衝撃だったのは、原稿チェックや雑誌やCDジャケットの写真セレクトをマネージャーではなく声優本人がしていたことです。芸能界ではこれらはマネージャーの仕事です。マネージャーはプロなので、それらを即日作業して返すこともよくありますが、声優業界では声優本人がするので一週間待たされることも普通でした。また、とある人気女性声優とお仕事をしたとき、所属事務所からその女性声優の電話番号やメールアドレスを伝えられ、「直接やりとりしてください」と言われたことがあるのですが、芸能界のマネジメントに慣れていた僕は「どういうこと?」とびっくりしました。しかもほかの事務所の声優さんもそうだったので、「そういう業界なんだ」と認識するようになりました。「芸能界とはまったく違うんだ」と。
これ、要するに《実質》エージェント契約みたいなものなんです。決めごとは基本的に声優が行う。
声優業界は声優と事務所のギャラ配分が慣行上8:2で、一般的な芸能事務所の契約と比べて演者側の取り分が多く設定されていますが、その代わりに声優事務所は一般的な芸能事務所のようなマネージメントは行なわず実質的なエージェント契約制となっています。事務所ではなく声優自身が仕事を獲得し、契約し、メディア対応や制作上の決断も下さなければならないわけです。

ここ数年、芸能界で何かトラブルが起きるたびに、マネージメント契約からエージェント契約への移行を正しいかのように論じる言説もありますが、これはこれで大変です。マネージャーがいないということは、バッシングがあれば直に本人に届きますし、素行の悪いクライアントが直に近づくことも発生します。
なので、今の若い声優には声優事務所ではなく一般的な芸能事務所の声優部門に所属するタイプも増えています。ギャラ配分が減少したとしても芸能事務所のマネージメントを受けられるほうが安心できる、というのも一面の事実であり、個人商店的な規模で運営されてきた声優業界がアキバ・ブームでビジネス規模が急拡大した移行期の2000年代には若い女性声優(志望者も含め)がトラブルに巻き込まれるケースは少なくなかったようですから。


そして、アニメ以外の仕事のギャランティーがどの程度のものなのかは、アニメ業界への就職を謳う専門学校の代々木アニメーション学院の進路案内「業界ナビ:声優の年収は?給料の仕組みや仕事別の収入相場を解説」から見てみます。
ゲームは、
事務所ごとに報酬体系の考えに違いがありますが、セリフ100ワード(100文章)につき、新人声優で1万円から、ベテラン声優だと10万円以上からが相場とされています。
ナレーションは、
相場は1回の出演につき5,000円~100,000円となっています。
映画の吹き替えは
ランク制に基づいた報酬決定が一般的となっています。なお、アニメと同様に1本ごとの報酬発生となっているため、2時間の作品のうち、出演時間が5分であっても1時間であっても、あらかじめランクに定めた報酬額から変動が生じない
ラジオは
ナレーション同様に固定の出演料が支払われる体系となっており、相場は1回の出演につき1,000円~50,000円
となっています。これがアニメ業界を希望する学生やその保護者に専門学校が提示する「声のお仕事」の相場。
当然ながら個人差はありますが、ごくごく少数の声優界の大スター以外は仕事の数を増やそうと思えば最低金額寄りの安い金額で契約しているだろうし、デビューから数年以内のジュニアランク契約の若い声優ともなれば収入は逆算してほぼ推測できますよね。

……しかし、思うのは、
タレント活動で代表的なものとしては、テレビ出演が挙げられます。
プロダクション所属の声優がタレント活動をする場合、出演料から手数料を引いた額が収入となっており、深夜番組では30,000円~150,000円、ゴールデンタイム番組だと100,000円〜1,000,000円が相場となっています。
本業で頑張るよりも全然稼げます。たまに「テレビ芸能界」のよそ者のお客さん扱いで出演する声優でもこれだけ貰えるのなら、ゴールデンタイムのテレビ番組を占拠するお笑い芸人たちはどれだけ稼いでいるのやら。
現在の日本のエンタメ業界はテレビも含めどこも「カネがない」と呟くけれど、カネがないわけじゃないのだよな。お笑い芸人とその事務所に吸い上げられる膨大なカネの一部でも他に回せば助かる人はたくさんいるはずなのに。テレビ局のミュージシャンに対する扱いとか本当にひどい。
もし仮に百歩譲って「有名税」とやらがあるのならば、支払うべきはお笑い芸人たちなのだろうけれど、庶民感情ってやつは弱い者いじめ、できれば「若い女」をいじめて楽しみたいものなのでそちらには向かないのですよね。


『アイドル声優の何が悪いのか?』第1章から続けます。
声優/声優事務所は、テレビアニメのアフレコによる収入だけでは食っていけないことはこの章の始めで確認しましたよね。そこで声優業界では「アニメのアフレコ」以外で、より高額な収入が発生する仕事が必要となってきました……キャスティングなどの制作業務や養成所などもそうですが、声優業界は大きくなっていった声優人気という需要もあり、声優のアイドル/タレント化を受け入れる方向に進行してきたわけです。いまや声優が歌ったり踊ったりすることは当たり前の時代になり、10代の若い世代の声優も増えました。
これはなるべくしてなった進化であったと思います。これまで裏方であった声優というタレントに付加価値をつけて展開したほうがマーケット/ビジネスは広がります。アニメやゲームを中心とする日本のサブカルチャーが台頭した時代が望んだ流れでもあるでしょう。「付加価値のついた声優」=「アイドル化/タレント化した声優」というものが生まれ、世の中に認知されたおかげで「アイドル化/タレント化した声優」は通常より多くのギャランティーを手にすることができました。これは喜ばしいことだと思います。アニメ業界でも様々なビジネスチャンスが生まれました。なりたい職業ランキングの上位に声優が入るようになりましたし、業界の活性化に繋がったことは間違いありません。
アニメの声優業だけでは業界は食べていけません。そこで業界内中堅以上の声優事務所や芸能事務所の声優部門は制作に直接関わることのできるプロダクション機能を強化したり、新人養成を兼ねつつ学費収入を得るためのスクールビジネスを始めるなどし、声優自身は顔を出さない"裏方"な声の仕事だけではなく表舞台で歌って踊り、業界全体が業務の多角化で収入を確保するよう変化しました。

『アニメプロデューサーになろう!』第4章「知っておきたい関連業界のビジネスモデル」より。
朝10時から15時ころまでの5時間のアフレコで2万円稼ぐとすると、額面上の売上は時給4000円です。しかし、所属事務所にマネージメント手数料として2割から3割引かれ、最終的に税金も納めることを考えると、実質的な手取りは1話出て1万円くらいです。ある声優が1クール12話に毎回出演するレギュラーを勝ち取ったとしたら、それだけで狭き門を勝ち上がってきた存在のはずですが、それでも1か月の手取りが4万円。3本レギュラーがあっても12万円。これだけで食べていくのはなかなか困難です。
メインクラスのキャラを担当していれば、キャラクターソングを歌い、そこからの収入も入ります。キャラソンは「歌唱買い取り」と言って権利を買い切ることが多いです。アーティストの場合は歌唱印税となることが多いですが、声優の場合は作品に紐付いている歌唱しかないため買い切りの取り回しのほうが良いからです。これは声優の格によって5万円から10万円(一部の人気声優はそれ以上)が支払われます。
さらに、メイン級のキャストは月に数本イベント出演があり、こちらも1回5万円から10万円(一部の人気声優はそれ以上)ほど出ます。
するとレギュラー4万円、キャラソン1本5万円、イベント月2本として10万円となり、20万円くらいになります。キャラソンを出せている時点で声優としてだいぶ成功していますが、それでも大卒の初任給と同じくらいなのです。
これがアニメに付随して発生する周辺ビジネスの相場。
アニメのメインキャストのレギュラー一つで大卒初任給くらいは稼げるようになりました。これが単発ではまだ不安定ですが、アニメ放映終了後もファンがついていくようなヒット作に出れればその後もイベントや二次使用料などが入り、それが複数積み上がれば生活はかなり安定します。
さらにそこからアニメ制作側買い切りのキャラクタービジネスにとどまらず、自身のオリジナル楽曲を出せる声優になれれば歌唱印税、コンサートが開けるようになればグッズ収入なども発生し、声優の生活と声優事務所の経営は安定します。


『ラブライブ!』の現行シリーズの声優で組まれたチーム〈Liella!〉の「現場」を見てもらえば分かるよう、現在の声優アイドルは人気作品ともなればスタジアム級の動員力を持っています。

声優業のアイドル化により若い声優でも生計を立てるに足る収入を得ることが出来るようになりました。
ただ、その代わりに、今から若手としてやっていくにはある程度以上の美人で歌舞音曲の素養があるところから始めないとオーディションを勝ち抜けず、「美人じゃないしステージで歌って踊ることも出来ないけど、声には自信があります」というようなタイプが声優として生き残るのはかなり困難。要求される基準は高度化しています。
「最近のアイドル声優は実力もないのに云々」と言う人がときどきいますが、
~(中略)~
声優界は駆け出しからベテランまで「個人としてスキルを高めなければならない」という意識が高い方が多いのです。さらに、昔と比べると声だけのお芝居だけではなく、容姿も良く歌も歌えてダンスもできて、イベントやラジオでおもしろくしゃべれることが求められますから、相当に芸達者でないと一線級の声優にはなれません。
芸能の仕事をずっとやってきた私から見ても声優に求められるスキルは少し高すぎるのではないかと思うくらい様々な能力を求められています。
……こうした状況へのアンチテーゼがVtuberなんだろうな。声優アイドルのファン層とVtuberのファン層が重ならないどころか対立関係にあると言うと驚く人もいますが、両者にはイデオロギーの違いがあるのだから当然です。
冒頭で紹介した「異次元フェス」でも招待されたVtuberがステージに登場した途端に現場のオーディエンスは静まり返ったと聞きます。
ステージパフォーマーとしてアーティスト化したリアルな声優アイドルとそのファンに対し、緩い素人芸を親しみやすいと感じ、生まれながらの顔の美醜や育ちから来る文化資本の蓄積を無効化したヴァーチャルな世界に安心を感じる層がVtuberのファンとなっているのでしょうから相容れないわけです。


リンクしてあるのは、East Of Edenの『Evolve』。
元〈predia〉の湊あかねと、『BanG Dream!』シリーズの〈Morfonica〉でヴァイオリンを担当していたAyasaをフロントに、最近、海外人気の高いJapanese Female Bandを結成するプロジェクト。

Ayasaは声優ではなくヴァイオリニストとして『BanG Dream!』に参加しキャラクターの声も担当したタイプですが、
『アイドル声優の何が悪いのか?』第3章でも
近年で増えた業務でいうと、楽器の練習とSNS運用とネット配信があるでしょうか。
スタイルキューブでは楽器を無理にやらせることはありませんが、業界的には事務所が主導したり、もしくは個人の意思で、戦略的にひとつくらいは楽器をこなせるようにするケースは増えていると感じます。楽器を使った作品も多くなりましたし、そうすることで、請けられる仕事の幅を広げられる。そういったところを意識することも、業務の一環になっている印象はあります。音楽に関係したことだと、ダンスが得意な方もかなり増えました。
とあり、今の若い声優はミュージシャンとしての素養も必要になっているのですから大変な仕事です。
――2023年の振り返り――


2023年のNHK『紅白歌合戦』の提示した「テレビにおけるアイドル観」は〈YOASOBI〉の『アイドル』に日本と韓国のアイドルを次々と登場させたシーンに象徴されました。
『America's Got Talent』で披露された〈アヴァンギャルディ〉のダンスから始まり、〈Rev.from DVL〉と〈ゆるめるモ!〉所属だった2010年代半ば頃にネット上のミームで「天使と悪魔」と対比されていた地方アイドルのアイコンだった橋本環奈と地下アイドルのアイコンだったあのの二人が当時話題となったポーズを再現するステージでした。


そして、この二人の前にステージに登場したアイドルたちがテレビ「地上」波において認識される「アイドル」ということになるのでしょう。
日本人K-POP枠が〈NiZiU〉〈JO1〉に、48グループ出身の宮脇咲良のいる〈LE SSERAFIM〉と〈twice〉の日本人メンバーを抽出した〈MISAMO〉の4組で、韓国枠が〈SEVENTEEN〉〈Stray Kids〉に特別枠をわざわざ設けた〈NewJeans〉の3組。秋元康枠は〈乃木坂46〉と〈櫻坂46〉の2組。国産ボーイバンドとして〈BE:FIRST〉。懐古枠として元〈キャンディーズ〉の伊藤蘭とアミューズ社三人組アイドルの後継である〈Perfume〉。
ここに23年の「紅白」には呼ばれていない旧ジャニーズ勢と、それぞれ十年前と二十年前に一時代を築いていた〈AKB48〉と〈モーニング娘。〉ぐらいが「テレビの人たち」(作る側も見る側も)がイメージする「アイドル」の全てと言ってしまっても言い過ぎではないはずです。

ここから分かるのは、今現在の日本における「テレビの人たち」にとっての「アイドル」のメインストリームはK-POPアイドルであって、非K-POPな日本のライブアイドルは得体のしれないアングラな存在でしかなく、色物として『紅白歌合戦』では20年の〈BABYMETAL〉、21年の〈BiSH〉、23年は〈新しい学校のリーダーズ〉とたまに1枠与えておけばいいや、ぐらいの扱いなのでしょう。

そもそも大衆マス 向けメディアである「テレビ」が歌って踊る日本人アイドルを好まないところがあって、橋本環奈あのもそうですが、他にも王林ファーストサマーウイカ生見愛瑠などアイドル色を抜いてからテレビが扱うようになりますよね。
また、男性アイドルでも〈BE:FIRST〉を成功させたSKY-HIが〈AAA〉での同僚Nissyと『SUPER IDOL』と歌い、ジャニーズを離脱した平野紫耀ら〈Number_i〉が『GOAT』と歌っても大衆にはブロードキャスト(伝播)されないのが現実です。
「なんで紅白にK-POPばかりを呼んで日本のアイドルを出さないんだ!」って怒っている人たちもいるけど、彼らだって実際のところ、具体的に呼ぶべき「日本のアイドル」をイメージできていない人がほとんどでしょ。

中森明夫の『推す力 人生をかけたアイドル論』から一般論として……中森明夫に対しては色々と思うところあるので、あくまでも一般論として引用します。
かつてアイドルはテレビがメインステージだった。テレビに出ないとアイドルとして認められない。テレビから姿を消して"アイドル冬の時代"となった。
しかし、新たなアイドルブームは、テレビがメインステージではない。ライブ+インターネットだ。
~(中略)~
テレビのキー局はすべて東京にある。大手芸能プロダクションも同様だ。つまり、かつてアイドルになろうとすれば、東京在住が必須条件――上京するしかなかった。今は違う。地元でライブをやって、地元から発信できる。インターネットの普及によって、全国各地がアイドルの活動できる場になったのだ。
たとえば地方に住む、芸能プロダクションに所属しない1人の少女がいるとしよう。路上でライブをやって、スマホで動画を撮り、YouTubeにアップする。なんと、たった一人でアイドル活動が展開できるのだ。いつでも、どこでも、誰でもアイドルになれる。24時間、世界中に発信できる。これは大変なことだ。アイドルをめぐるメディア環境は一変してしまった。
アイドルに限らず「芸能」全体が「テレビ」に映るかどうかで判断されています。
コンサートで何万人も動員しているミュージシャンであってもテレビに映らなければ無名の「地下」的な存在として扱われるし、テレビに映っていた俳優が劇場に活動の場を移せば「終わコン(終わったコンテンツ)」扱いされる。テレビに映る芸能人は映らない芸能人に比べて「高級」扱いされるのも現実です。
でも、多くの人たちがあまりに「テレビ」に価値判断を委ねているようにも思えませんか?
口の悪い人の言う「マスゴミ」なんて表現も情報依存の裏返しでしかなく、大衆マス 向けメディアなんてそんなもんでしょ、としか私は思えません。みんな「テレビ」の悪口は言うわりに情報を依存し過ぎているように見えます。

それでいて、「テレビ」の権益は、ジャニーズ社問題が象徴的ですが、東京のテレビ局と大手芸能プロダクションのインナーサークルで独占され、大企業病に侵されたまま、革新的な商品開発も野心的な人材育成もされず閉塞感のみが高まっていく。
これはテレビを中心とする芸能界やマスメディア各社だけじゃなく、日本社会全体にある閉塞感ではないでしょうか。
テレビの音楽番組がK-POPアイドルに占められつつあるのだって、ネット上で流布する陰謀論者が言うような「韓国の陰謀」でもなんでもなく、ただ単に、既得権益の配分ばかりにかまけて自前で何も作れなくなりつつある「日本」がアウトソーシングに頼り切りになった、というありふれた話でしかないわけで。
アイドルは本来、歌手としてデビューするが、その後、女優に転ずるケースがある。「転ずる」というより「成長する」と捉えるむきもあった。長く芸能界で活動を続けるには、それがある種の必然だったのかもしれない。
昭和から平成になって、アイドルの形も変わった。分業化したのだ。バラエティー番組に出るバラドル、グラビアアイドル略してグラドル、声優アイドル=声ドル等である。
「アイドル女優」もその中にあった。女優の肩書きだけれど、アイドル的な受容をされている女子タレントたちだ。90年代後半からゼロ年代にかけて("アイドル冬の時代"とも相まって)、アイドル女優たちが輩出した。
上戸彩がその代表格だろう。さらには広末涼子や田中麗奈ら、映画やドラマよりも前にまずテレビコマーシャル=CMで顔を知られた、いわば「CMアイドル」発の女優たちだ。長澤まさみや沢尻エリカ、宮﨑あおい、蒼井優、井上真央、堀北真希、上野樹里、新垣結衣、石原さとみ、綾瀬はるか……といった顔ぶれが思い浮かぶ。
ところで、この「アイドル女優」という呼称は、当人はもとより所属する芸能事務所サイドからひどく嫌がられる。「ウチの〇〇はアイドルなんかじゃありません! 立派な女優です!!」というわけだ。明らかにどこかアイドルは女優よりもはるかに位が低いといった印象なのである。
「テレビの人たち」にとって歌って踊る日本のアイドルは80年代で終わっているのですよね。80年代末頃からバラエティ番組の賑やかしを担当するバラドル、(あえて古臭い表現で)お色気を担当するグラビアアイドル、オタク層向けの声優アイドルなどに分業細分化され、90年代になるとアイドルという呼称自体が忌避されるようになります。
90年代を代表する「アイドル」は広末涼子と安室奈美恵になるでしょうが、彼女たちは当時アイドルと表立っては呼ばれていませんでしたし、アイドル呼びする場合にはどこか"位が低い"と卑しむ感覚がありました。
そして、この90年代の"「ウチの〇〇はアイドルなんかじゃありません! 立派な女優です!!」"という表現は三十年経った今でも普通に見かけます。普段は「アイドルなんか」とバカにしていた人がアイドルにハマると口を揃えて言い出す「〇〇はアイドルじゃない。アーティストだ」はこの感覚を引きずった表現ですよね。

K-POPアイドルが90年代を起点に歴史を語るのとは逆に、日本では90年代に大衆マス 文化としての歴史が断絶されてしまっています。だから大衆はテレビに映るバラドルやグラドルは知っていても、歌って踊る(本来の)日本のアイドルがどのような音楽をやっているのかに興味を持たないし知らない。音楽をやっているのは韓国アイドルだけだと思い込んでいるのでしょう。

私自身は音楽をやっていないアイドルに興味は全くありません。
その上で、「プロフェッショナルな韓国アイドルに比べて日本のアイドルはアマチュアだ」という価値観のみが肯定されて、例えば、田舎の高校生がバンドを組んで地元の小さなライブハウスから始めて大きくなる、そんなストーリーを完全否定し、大手芸能プロダクションが養成したミュージシャンだけが認められる、そんな社会も私は望みません。


〈カイジューバイミー〉のカヴァーした〈フラワーカンパニーズ〉の『深夜高速』。
機材を載せたクルマに乗り込みライブハウスからライブハウスへ旅を続けるバンドマンとライブアイドルの生活を重ねたもの。

そういえば、ここ最近、韓国で〈緑黄色社会〉の人気が出始めていますね。「会社がメンバーを集めて作ったのではない、地方都市の高校の同級生で組んだバンドが大きくなった」とストーリーが語られながら。
もちろん、〈NEMOPHILA〉のように「会社」主導で結成されたバンドもあっていいのですよ。どちらか片方だけが全肯定され、そうじゃない方は全否定されるのは楽しくない、という話です。


米国の音楽チャート「Billboard」に掲載された23年の振り返り記事「U.S. Music Consumption Saw Double-Digit Growth in 2023 as Streaming Surged, Sales Rebounded」(24年1月10日付)がちょっと面白かったので紹介しておきます。
Rock led album sales with a 41.5% share, more than triple No. 2 hip-hop’s 12.9% share and No. 3 pop’s 12.7% share. Country was No. 4 with a 7.8% share and World — mainly K-pop — was No. 5 with a 6.9% share.
In terms of growth rate, World music — which also includes J-pop, or Japanese pop, and Afrobeats — topped all other genres with a 26.2% increase in U.S. on-demand audio streams to 5.7 billion. No. 2 Latin was close behind with 24.1% growth but was far larger with 19.4 billion on-demand audio streams. Country was No. 3 in terms of growth, up 23.7% and with a total of 20.4 billion on-demand audio streams.
~(中略)~
J-pop totaled 1.67 billion on-demand audio streams (of J-pop tracks ranked in the top 10,000 world music songs). J-pop's success comes from a youth movement: Fans are 95% more likely than the general population to be Generation Z and 94% more likely to identify as LGBTQ+, according to Luminate.
なんだかんだ言っても米国では今もロックの売上が一番でアルバムセールだと41.5%のシェアを持ち、二位がヒップホップで12.9%、三位がポップで12.7%、四位がカントリーで7.8%、五位が米国人にとっての海外音楽であるワールドミュージックで6.9%。
ワールドミュージックの売上を主導するのがK-popなのは前提として、注目すべきジャンルとしてアフロビーツと並び、J-popおよびJapanese popの急成長が記されています。そしてJ-popの米国におけるリスナー層として、Z世代の若者層とLGBTQ+なアイデンティティを持つ層が一般層に対し有意に多い、と。
最近は、米国のヒップホップはじめとする黒人カルチャーと日本のポップ・カルチャーの文化交差に注目する研究が目立つようになってきていますが、日本のポップ・カルチャーはカウンター・カルチャーとして受容されていることが改めて分かりますね。日本には「LGBT陰謀論」みたいなものもありますが、この層は「日本」にとって重要なお客さんです。

そして、24年始まって最初の日本発の世界的バズは〈Creepy Nuts〉の『Bling-Bang-Bang-Born』。アニメが日本国外に日本の音楽を広げる重要なポータルになっています。
日本のラップミュージック/ヒップホップ界隈における23年の大きな話題は〈BAD HOP〉と〈舐達麻〉の抗争でしたが、喧嘩騒ぎには良くも悪くも界隈の持つ若さとエネルギーを感じます。


テレビ「地上」波の基準とは違う「地下」の一つの「アイドル」評価として、12月末に発表される「アイドル楽曲大賞」のランキングを毎年紹介しているので今年もここから始めます。

メジャーアイドル楽曲部門
1位.『楽の上塗り』CYNHN 2位.『コズミック・フロート』ukka 3位.『ar』Devil ANTHEM. 4位.『kyo-do?』私立恵比寿中学 5位.『ジンテーゼ』CYNHN 6位.『Summer Glitter』私立恵比寿中学 7位.『この空がトリガー』=LOVE 8位.『Start over!』櫻坂46 9位.『リサイズ』CYNHN 10位.『天使は何処へ』≠ME
11位.『メロメロ!ラヴロック』わーすた 12位.『シュークリーム・ファンク』フィロソフィーのダンス 13位.『MONONOFU NIPPON』ももいろクローバーZ 14位.『NEW WORLD』lyrical school 15位.『GAV RICH』ミームトーキョー 16位.『かわいいメモリアル』超ときめき♡宣伝部 16位.『ボイジャー』私立恵比寿中学 18位.『青春を切り裂く波動』新しい学校のリーダーズ 19位.『熱風は流転する』フィロソフィーのダンス 20位.『青いペディキュア』JamsCollection 20位.『どうしても君が好きだ』AKB48

とりあえず20位まで紹介しましたが、メジャーアイドル部門の中で、23年の『紅白歌合戦』にもエントリーしているのは〈櫻坂46〉と〈新しい学校のリーダーズ〉の2組。〈新しい学校のリーダーズ〉は「地下」からテレビ「地上」波に乗るようになったチームですが、逆に〈櫻坂46〉と〈AKB48〉はテレビに頼らず「地下」でもちゃんと戦えるようになったとも言えます。

アイドル界隈で俗に「楽曲派」と呼ばれる層に今現在人気があるのはDEARSTAGEグループ(以下、ディアステ)の〈CYNHN〉なのか。
私個人がメジャー契約しているアイドル楽曲で23年に気に入ったのは中野雅之が楽曲プロデュースしたWACKグループ所属の〈BiS〉『僕の目を見つめて 君の世界になりたい』と『イーアーティエイチスィーナーエイチキューカーエイチケームビーネーズィーウーオム』だったけど、「楽曲派」には全く反応がなかったよう。


中野雅之といえば私たち世代にとっては〈BOOM BOOM SATELLITES〉ですが、(大枠としての)90年代デジタルロックでは〈THE MAD CAPSULE MARKETS〉の上田剛士が楽曲プロデュースした〈Devil ANTHEM.〉の『GOD BLESS YOU!!』はアイドルの実写と概念をAIに読み込ませて作らせたMVが興味深い。ここからどう表現は発展するのだろう、と。
そして、テレビ「地上」波ではない「地下」のアイドルがバンド・カルチャーに属しているのが分かりますよね。
現在の〈BiS〉のバンド・アプローチが〈BOOM BOOM SATELLITES〉に続いて〈DOPING PANDA〉の古川裕の『LAZY DANCE』で、次に用意されているのが〈スーパーカー〉の中村弘二に、〈Age Factory〉で、姉妹チームの〈ASP〉も次に用意されている曲は〈WARGASM〉。こうしたWACKの方針は面白い。

WACKだとステージを観たら意外に良かったのが〈KiSS KiSS〉でした。
23年にあったWACK周辺状況だと〈BiSH〉の解散は「地上」でも報じられるほど大きな出来事でしたが、「地下」においては、毎年恒例だったWACKグループの合同オーディション合宿の中止発表が大きな影響を女性アイドル界隈に与えています。
WACKの拡大路線が止まったことで、これまでWACK第一志望だった浪人生たちが一斉に進路変更を迫られました。例えば〈PIGGS〉と〈MAPA〉のそれぞれ二人の新人や、AqubiRecグループの〈MIGMA SHELTER〉〈BELLRING少女ハート〉〈Finger Runs〉では各チームに一人ずつ新人採用し、秋元康プロデュースを冠したチームでも〈WHITE SCORPION〉がWACKの元練習生を二名採用するなど、次々と他グループに採用されています。WACKでのブートキャンプ体験は評価されます。
ただ、「アイドル楽曲大賞」は本当にWACK嫌いが多いのだろうな。WACKから離れた松隈ケンタの『青春を切り裂く波動』は18位だけど、WACKとしては〈BiSH〉最後の曲で〈THE YELLOW MONKEY〉の『Bye-Bye Show』が45位で最高位。

その一方で、「アイドル楽曲大賞」で常に上位に評価されるSTARDUST PLANETグループ(以下、スタプラ)所属のチームだと、23年の象徴的な歌詞として「共同戦線」を訴える〈私立恵比寿中学〉の『kyo-do?』に以前触れましたが、スタプラ旗艦チームの〈ももいろクローバーZ〉になると『MONONOFU NIPPON』MVで逆襲を訴えています。
20年公開の〈BiSH〉の『スーパーヒーローミュージック』MVと『MONONOFU NIPPON』MVを続けて見ると面白いし、さらに24年冒頭にスターダスト社は元〈BiSH〉からセントチヒロ・チッチの獲得を発表。
〈BiSH〉解散後、ももクロが旗手を再び担おうという表明に見えます。

……芸能人の事務所移籍というと、昔はヤクザを使った抗争が始まるくらいタブーとされていたけれど、例えば、WACKには逆にスタプラや〈HKT48〉から移籍してきたメンバーがいます。今のアイドルはプロスポーツ選手がチームを変わるように移籍するので、「芸能界」とは違うカルチャー。
メンバー編成が変わるのを嫌がるファンもいるけれど、風通しを良くする意味でも悪い話ではないと私は思うのだけどな。プロスポーツのチームのように毎年のチーム編成を楽しむように見ればいいのに。


インディーズ/地方アイドル楽曲部門も20位まで紹介すると、
1位.『八月』fishbowl 2位.『Lily』Ringwanderung 3位.『』タイトル未定 4位.『』タイトル未定 5位.『わざとあざとエキスパート』いぎなり東北産 6位.『あんたがたどこさ ~甘口しょうゆ仕立て~』ばってん少女隊 7位.『Vibes』Task have Fun 8位.『真夏のユーレイ!!』Merry BAD TUNE. 9位.『九天』fishbowl 10位.『Flyways』jubilee jubilee
11位.『ぴゅあいんざわーるど』FRUITS ZIPPER 11位.『Adam』Ringwanderung 13位.『神話級ハッピーエンド』さとりモンスター 14位.『夏へのとびら』クマリデパート 14位.『Sparkle』SANDAL TELEPHONE 16位.『主人公 』Layn 17位.『夏が来れば』タイトル未定 18位.『シリウスにマフラー』開歌-かいか- 19位.『尻尾』fishbowl 20位.『フロンティア』RAY

現在の地方アイドルの旗手は、静岡を拠点とする〈fishbowl〉と北海道を拠点とする〈タイトル未定〉。そこにスタプラの地方拠点チーム〈いぎなり東北産〉〈ばってん少女隊〉を軸とする上位層。

とはいえ、地方アイドルの動員はどこも減少傾向にあると〈fishbowl〉〈タイトル未定〉らと「地方アイドル界隈」を構成する京都拠点の〈きのホ。〉プロデューサーは語っていました。「楽曲派」が好むチームも全体としてあまり調子が好さそうには見えず、「アイドルブーム」の終了で新規ファンの流入がほぼなくなって既存ファンが界隈を回遊するばかりになっている印象は拭えません。


インディーズだと〈RAY〉の『火曜日の雨』が私のティーンエイジ心を刺激します。

アイドル楽曲大賞の会場でも「楽曲派」好みの曲とTikTokでバズった曲のバランスをどうとるのかが話題になっていました。
音楽の好みは別にして、女性アイドルで2023年に一番注目された存在だったのは〈iLIFE!〉になるのだろうな。
そして、もしプロスポーツのように「新人王」があるとすれば〈iLIFE!〉兼〈i-COL〉メンバーのあいすが選ばれると私は思います。


23年の女性アイドル事情を、単純な言葉で表現するならば「原宿系」の躍進が特徴的だったと言えるでしょう。
ブームの終了で新規ファンを獲得できなくなった「楽曲派」とは逆に、〈iLIFE!〉らのHEROINESグループは「独り勝ち」と言われるくらいに好調でした。
女性アイドルの本拠地というと〈AKB48〉や〈でんぱ組.inc〉に代表される秋葉原が2010年代前半まで。10年代後半からは〈BiSH〉や〈ZOC〉に代表される渋谷でしたが、20年代に入るとパンデミックの影響でライブハウスでよりもインターネットに強いチームが勢力を伸ばし、23年にはNHK『紅白歌合戦』出演の〈新しい学校のリーダーズ〉とTBS『輝け!日本レコード大賞』新人賞を獲得の〈FRUITS ZIPPER〉を送り出し「地上」でも無視できない存在となったASOBISYSTEMグループ(アイドル部門はKAWAII LAB.)に、「地下」で独り勝ちしたと言われるHEROINESグループらの本拠地である原宿のアイドルたちがTikTokを活用したプロモーションで女性や子どものファンを多く獲得し既存の客層の外から人を呼び込むことに成功。
主戦場はTikTokとなり、ここで強いかどうかが今現在の勢いの差になっています。
……スタプラ好きな「アイドル楽曲大賞」なら〈AMEFURASSHI〉とエースの愛来を評価しても良さそうだけどそうでもないのかな。


23年のアイドル界最大の事件は「ジャニーズ帝国」の崩壊でしたが、「地上」が解放されたことで男性アイドルも様々な形式で人気を得るチームが24年には出て来るかもしれませんね。
12月に開催されたSKY-HI主宰のショーケース「D.U.N.K.」には、ジャニーズ改めSTARTO社所属の〈Travis Japan〉と、ジャニーズを離脱しチームごとTOBEに移籍した〈IMP.〉が参加していました。「ジャニーズ帝国」が支配していた時代には考えられない話です。ジャニーズを離脱したSKY-HIと〈IMP.〉のいる場に旧ジャニーズ所属のチームが出て来るなんて。
なんだかこれまでの足枷となっていた旧弊が解除されたような感覚があります。

24年に入ると、韓国企業と組んで男性アイドルの〈JO1〉と〈INI〉、女性アイドルでは新たに結成した〈ME:I〉で侵攻を始めていた「ヨシモト帝国」も揺らぎ始めています。マスに作用する「(テレビ)芸能界」の風通しが好くなると「日本」の閉塞感も少しは晴れる気分になるんじゃないのかな。


リンクしてあるのは、Bring Me The Horizonの『Kingslayer』ft. BABYMETAL。

ようやく公開された『Kingslayer』のライブMV。今現在の男女合わせた日本型アイドルのトップで代表の座にいるのはSU-METALこと中元すず香なのは明らかですね。
Rage Against The Machine〉のTom Morelloにギターを弾かせた『メタり!!』を聴くと美空ひばりポジションを狙っている? とも。
そういえば、〈Bring Me The Horizon〉のOliが参加したYUNGBLUDの『Happier』MVは日本の女性ライブアイドルMV感があって面白かったな。