D&D5e<水晶宮を求めて>「カー砦の災い魔」・上 | アナログゲーおじさん

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名も知られぬ次元界に、人間の帝国があった。

 
あまたの国家は滅び、焼け落ちた灰塵から新しい国々が再興した。件の帝国も、うたかたの栄光を拠り所にしているにすぎぬ。
 
 
都の下層街に四人の若者がいた。彼らは未熟ではあるが、抜きん出た可能性を秘めている。富と名声を求めてうずうずしているが、さりとてこれといった仕事もなく、場末の居酒屋に燻っていた。
 
左からウッドエルフのメリエレ、イルメイターの女クレリックだ。彼女は、信仰こそ全てだと考えている。隣はハーフリングのローグ、リード。浮浪児上がりの彼は豚のように食べ、犬のように風呂には入らぬ。だが、仲間思いの男でもある。そして、ティーフリングのアモン。ケチなペテン師ではあり、グレートオールドワンの力を借りるウォーロックだ。彼は混沌にして中立という狂人めいた心情を掲げてるにも関わらず、浮世離れした一行においてはまとめ役を担う。
 
彼らがたむろするのは「踵炎のヤギ」亭だ。悪臭プンプンたるリードは他の客や店主からは煙たがられているが…。
 
食事を楽しんでいると、戸口が勢い良く開き、若い騎士が入ってくる。彼こそがヒューマンのパラディン、ジェロームだ。鍛冶屋であったジェロームは石橋を修繕し、河の氾濫から人々を守った民間英雄でもある。
 
慌てた様子のジェロームは、仲間に話す。
「俺のおじさんに頼まれたんだ。おじさんはバーネット商会ってところで働いてるんだけどよぉ。何でも北の都への積み荷に、漏れがあったらしいんだ。そいつを届けるだけで、ひとり金貨80枚だそうだ!」
 
途端に、アモンが怪訝な顔がする。「破格すぎないか?契約書を見せてみろ」。書状を改めたメリエレも呆れる。「ジェローム、ひとり金貨20枚、合計80枚と書いてあるわ」「お、そうだったか?」ジェロームに反省した様子はない。卑しいリードは、会話もそこそこに食事に精一杯だ。
 
 
 
都より北に赴き、凍れる都に行商したヘイデンという若者に積み荷を引き渡せば任務は完了だ。地図の1マスがおおよその半日なのだという。ただし、やかまし沼は迂回した方が良いと忠告を受けた。その沼には奇妙な噂があるのだという。
 
7日かかる旅程に対し、ゆとりを持った10日という期限を与えられ、さらに早期到着でボーナスも付くという、駆け出し冒険者には願ってもない条件だ。糧食を買い込み、借りたラバを引き連れて一行は北へと向かう。
 
北に続く苔むした石畳の街道は、「王の道」と呼ばれている。新緑のさわやかな風が一行の頬を撫ぜる。人通りは少なく、街道巡視や農夫とすれ違う程度だ。
 
初日の夕暮れ、一行はグロスター村に到着する。ごく小さな農村で、旅人向けの宿が軒を連ねる。鼻に大きなほくろのある、足りなさそうな門番はあくびをしながら「ささやく待ち人」亭なる宿屋を紹介する。
 
 
戸口を開けると、鶏肉の焼ける芳ばしい香りが鼻をくすぐる。そして、愛想の良いドワーフの店主が挨拶をする。「ようこそ、旅のお方!美味しいチキンがありますよ。井戸で冷やしたワインもあります。銀貨一枚で腹いっぱい、銀貨六枚で部屋もとれるよ。わっ、くさい!小さい人は風呂に行ってくれ。裏手にあるから」嫌がるリードを無理やり風呂に入れる。汗を流し、さっぱりしたところでテーブルに着く。それから、おやじから供された、焼き立ての鳥の丸焼きで舌鼓を打つ。程よい塩加減で、地元の野菜もさっぱりしていて美味しい。

腹も満たされ、改めて店内を見渡すと、仕事帰りの農夫がカードゲームに興じていた。ペテン師のアモンは色めき立つ。「あんたたち、俺とも勝負をしないか?」ぐでんぐでんに酔った農夫は二つ返事だ。
 
銀貨三枚をかけてのカードゲームは…アモンの勝利。酔も冷めた農夫は、妻に怒られるとすっかりうなだれ、帰途につく。
 
さらに夜も更け、客もまばらとなる。閉店だ。部屋に引っ込む間際、店の親父に付近の様子を尋ねる。
 
「北に行くなら、やかまし沼に行ってはいけませんよ。性悪妖精が旅人をばかすんでさぁ」
 
翌朝、一行は荷物をまとめて旅立つ。本日は拒み森に分け入り、野営する予定だ。
 
だが、森に入る直前、メリエレは自分たちを追っている影に気づく。「誰かいるわ」さり気なくジェロームが盾をかざし、金属面に後ろの様子を写す。すると、4体の山賊が物陰に潜んでいると判明する。「こっちだ!」冒険者らも物陰に散開し、迎撃の姿勢を取る。
 
 
リードの矢と、アモンの魔術が山賊を焼く。
ジェロームがひきつけ、メリエレが援護をする。山賊たちも負けてはおらぬ。射手は射掛けては伏せ、身を守る。
 
 
とはいえ、正規の訓練を受けたわけでもない山賊たちは瞬く間に制圧されてしまう。最後の一人は逃げ出そうとするが、ジェロームは締め上げる。「こんなことをするんじゃない!武器は置いていけ。まっとうな冒険者になることだな」「俺たちは、ただの農民だ…。あんたらみたいにはなれないよ。また畑を耕すことにするさ」
 
一行は山賊に別れを告げ、森に入る。日も暮れ始め、野営の準備を始めると、数名が奇妙な犬を見つける。犬は体を明滅させると姿を消し、森の茂みに現れる。自然の知識に乏しい一行は、犬の正体に思い当たらぬが、アモンは「ブリンクドッグとかいう生き物だったような…」と、自信なく呟く。
 
犬は森の広場に向かう。広場では鬼火が行き交い、その周辺を、小さなジョッキを持った妖精たちが楽しげに歌い踊っている。アモンは「妖精か。関わらんほうが身のためだぞ」と警告する。不思議なものに目がないジェロームは、パラディンの異能「神性知覚」で彼らを観察する。すると、妖精たちは善良なフェイであると判明する。「妖精たちだ!俺たちも宴に混ぜてもらおう」
 
森語で歌う妖精たちにあわせて、ジェロームも見様見真似で歌う。妖精たちはジェロームらを気に入り、宴に招待する。リードは「うまいものではないが」と携行食を妖精たちに振る舞う。「ニンゲンの食べ物はあまり口にしないからな。嬉しいよ。オイラたちのクルミ酒を飲めよ。森の精髄がこめられているんだ(あんたはブリンクドッグよりも臭いが」
 
やかまし沼の性悪妖精についても、何か知らないかと尋ねる。「アイツらはあの場所に縛られているんだ。あそこには、プライモーディアルの古い社がある。炎と水、雷のプライモーディアルが住んでいたんだ。アイツらはあの陰気な沼で暮らしているうちに、心まで捻くれていったんだ」
 
プライモーディアル…彼らはかつて、原初の混沌としてこの世を支配していた超常的な存在である。神々はプライモーディアルを葬り、物質界を構築したと伝えられている。
 
妖精たちが結界を貼っているので、安全に一晩過ごせるという。提案に感謝し、体を休める一行であったが「妖精は好かん」とアモンは一人で過ごす。
 
 
翌朝、森道を急ぐ一行。だが、暗雲が立ち込め、空模様が荒れていると気付く。慌てて付近を調べ、避難にはうってつけの小さな洞穴を見つける。穴倉に身を隠すと、間もなく土砂降りに見舞われる。ジェロームが見つけた食料のおかげで、この日は難なく過ごす。
 
翌日も翌々日も豪雨は続く。アモンとメリエレは不安と苛立ちを隠せない。ジェロームはやることも無いからと呑気に寝て過ごし、リードは相変わらず豚のように食べ散らかすので、床一面ゴミだらけだ。その様子に更なる苛立ちを感じずにはいられない。
 
三日目にして、ようやく日が差し旅を再開する。大幅な遅延が生じている為、沼の迂回をしていては期限を守れない。忠告が耳に蘇るが、背に腹は代えられるぬと陰気臭いやかまし沼に足を踏み入れる。
 
 
豪雨の影響ですっかり増水していたものの、桟橋は高く、交通に支障はなさそうだ。
 
桟橋を進むと、あたりは霧に包まれる。霧の中から、クスクスと何かの笑い声が聞こえる。辺りを見回しても人影はないが、アモンの首筋を生暖かい風がなめる。「誰だ!」返事はない。メリノアの背中にも、軟体めいた不気味な物質がぴたりと張り付くような感触がある。「もう、なんなのよ」

そんな怪異に見舞われる中、一人だけ目を輝かせるものがいる…ジェロームだ。

「俺には!?俺には何かないのかよ!」

すると、ぼんやりと輝く球体がジェロームの眼前に現れる。しかし、それは性悪妖精どもの罠だ!とっさの判断力で罠に気付いたジェロームは踏みとどまる。あと一歩でも踏み出せば、ごうごうと流れる沼地に落下し、無事ではすまなかったろう。

妖精の幻影を見破ると霧は晴れ、桟橋を進む。途中、水没した遺跡を発見する。遺跡の天井部分には「炎・水・雷が融合し、渦を巻くようなシンボル」が描かれている。「あの妖精たちのために、俺たちができることはないのだろうか」ジェロームはため息交じりに言う。「あなたの気持ちはわかるわ。でも、今の私たちには手立てもない。この仕事が終われば、考えてみましょう」とエリノアが優しく諭す。

沼を抜けた当たりで野営を始める一行。順番に歩哨を立て、各自くつろぐ。ジェロームは巨石の上に毛布を広げ、大の字でいびきをかき始める。「体を冷やさないのか?」アモンやリードも呆れている。
 

深夜、夜目の利くメリノアが歩哨をしているころ、茂みがガサゴソと動き出す。「怪物よ、みんな、起きて!」

ウルフを引き連れたゴブリンの野盗どもだ。「オオカミに気を付けろ!奴らの噛みつきで引き倒されちまうぞ!」旅慣れたアモンは仲間たちに警告をする。

警告が功を奏し、集中砲火を浴びたウルフたちは瞬く間に倒される。ウルフを失ったゴブリンたちもそう長くはもたぬ。あっという間に怪物たちは制圧された。

ゴブリンの一体は、不相応な、上質な戦斧を所有していた。リードは持ち上げようとするが「おいらにゃ持てねぇよ」と悲鳴を上げる。ドワーフ語で何かが刻まれている。ドワーフ語に明るい者はいないため、解読はできぬ。

休息を再開し、夜明けとともに旅立つ。

街道を進むにつれ、前方には雪のかぶった大山脈が眼前に広がる。標高4500メートルを誇る「霜ふり山脈」である。その中腹の峠に見える城塞こそ、一行の目的地「凍れる都」だ。

街道の周辺には灌木がまばらに茂る低木林と荘園、それから草原が続く。

道の傍ら、打ち捨てられたドワーフの亡骸と、白骨化した馬を発見する。すぐそばにキャンプの痕跡もある。恐らく、昨夜のゴブリンが
襲って平らげたのであろう。あの精巧な戦斧も、このドワーフのものであったのやもしれぬ。簡単に弔うが、ドワーフが書状を持っていることに気づく。

「オズウィンより伝令。謎の襲撃者あり。至急増援求む~エドガー~」

襲撃者…とは?一行はなお歩調を早める。
 
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本来、オズウィンは「凍れる都」へ向かう旅人が羽を休める宿場町である。住民は陽気で、親切だと噂される。だが、一行を出迎えたのは緊張と不安の入り混じった表情を浮かべる若い番兵であった。

番兵によると、小型の人型生物が「凍れる都」への山道を掌握し、近づくものを襲撃しているのだという。討伐に向かった衛兵たちも落石の罠に引っ掛かり、寺院に運ばれている。この豪雨で助けも呼べず、町を閉塞感が支配している。

「俺たちに任せろ!」とジェロームは即答する。

一行は襲撃者を退け、無事に荷運びを完了できるのだろうか?

-続く-