9月17日ニューヨーク爆弾テロ事件に対する米国内の反応 | GII REPORT

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政策コンサルタント事務所GIIのブログです。米国の首都ワシントンDCに10年ほど拠点を構えた時期は日本安全保障・危機管理学会ワシントン事務所その後は同学会防災・テロ対策研究会の業務を受託しています。連絡を頂ければメディア出演や講演の依頼にも応じます。

 表題の件に関し新著関係の講演会等の関係で少し遅れてしまったが今からでも出来るだけの報告を米国のシンクタンク等からの情報に基づいて行ってみたいと思う。だが米国でも当該事件に関しては戸惑いが多いように思われる。なぜなら今回の事件の犯人は、頻繁に中東に行ってはいるものの、そこでテロ集団と接触したのか、それとも直接の接触はなくインターネット等で影響されただけなのかが、ハッキリしないことにあるように思われる。

 例えば超保守派のForeign Policy Initiative は、9月22日に行われた“THE EXPANSION OF HOMEGROWN TERRORISM”というセミナーの内容を、9月24日にメール・マガジン等で公開しているが、その中で“FBIが国内情報組織ではないことが問題ではないか?”ということが指摘されている。つまり警察組織であるから、プライバシー的な個人の思想に立ち入るのが難しく、インターネット等で影響されただけの人を見つけたり関ししたりし難いのである。

 また同セミナー報告では、2009年に行われた調査に基づき、その過去1年間でFBIは、480万の外国語ホームページを翻訳したが、ほぼ同じ期間に入手した4600万の電子ファイルの内1420万を、FBIはチェックしなかったことも問題視している。そしてFBIと他の法執行機関との連携の重要性も指摘している。

 それはヘリテージ財団が9月21日にリリースした“What’s Next for Arrested Ahmad Khan Rahami”という報告の中でも触れられている。また同報告書はテロを国内法的な犯罪か国際法的な戦闘行為かという難しい問題にも言及し、今回は犯罪として処理されたことが妥当だったとしている。

 なお同財団が今年の3月17日にリリースした“Top Four Homeland Security Priorities for the Next Administration”という報告書の中では以下の4つの問題が指摘されている。

 第一は、テロ対策の中枢的な役割を果たすために作られた国土安全保障省(DHS)への批判である。本部ビルを建てたりすることに莫大な予算を使いながら、肝心の仕事は、どれくらい力を入れて行われているのか?そもそもDHSは組織が未熟なままで、法律、財務、情報等の問題の最高責任者が誰なのかもハッキリとしていないという。

 第二は、そのDHSを中心とした出入国管理の弛緩化である。国外退去は2010年には230000人だったのが、2015年には70000人と70%減。特に犯罪に関係した国外退去は、2011年には1500000人だったのが2015年には63000人と60%減。件数では約46万件で、これは1971年以降で最低だそうである。

 第三に、サイバー・セキュリティに関し政府と民間が協力するためのシステムである“アインシュタイン”が、十分に機能していないことが批判されている。

 そして第四に、難民や移民の身元確認が、最近の予算削減やスノーデン事件による情報機関の弱体化のために十分に行われていないことが批判されている。

 以上の諸問題の解決は、次期政権の最重要の課題である。特に最後のものは、シリア等への渡航歴等を調べる上でも重要になるだろう。

 リベラル系ブルッキングス研究所が9月20日に配信した“A convenient terrorism threat”という報告の中でも、シリアだけでなく、エジプト、トルコ、パキスタンそしてイランからロシアまでが、テロ集団の重要な拠点化していて、これらの国々と米国の関係は今は絶対的に悪いとは言えないものの、彼らなりの戦略で意図的にテロ集団の取り締まりに力を入れていないか、その能力がないということが問題にされている。これらの国々の政府や場合によっては反体制派を後押しすることで、アメリカは国際テロを沈静化させて行くべきである。しかし、それは国ごとの利害関係が余りに複雑なので、高度なパズルのように難しいだろうと同報告書は結んでいる。

 このように今回のニューヨークの爆弾テロ事件を契機に出て来た議論等を見ても、テロ対策は極めて難しい状況なのである。それは他人事ではない。欧米と同じ価値観や生活スタイルを共有し東京オリンピックを控えている我が日本で何時テロは起こるかは分からないと思う。以上の諸件も参考にしながら、今後の日本のテロ対策政策等に関して、いろいろなことを考えなければいけないと思う。