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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

 私たちは黙々と作業をこなした。生えかけた雑草を引っこ抜き、形の崩れた植木を整え、墓石を磨く。

「毎年毎年ありがとうね」

祖母が鈴子さんに頭を下げる。

「いいんですよ。私たちもきっかけがないと盆ぐらいにしか来なくなっちゃうから。真野家のご先祖様の喜んでますよ」

 千歳と彼の父親は少し離れた真野家之墓にいるはずだ。我が一族の墓は周りと比べてなぜか大きく、手入れが大変なため、毎年この墓参りは鈴子さんが手伝ってくれている。

「春海ちゃん、これを捨てに行きましょう」

刈り取った雑草やら落ち葉やらをゴミ袋に入れてゴミ捨て場に二人で向かう。今まで「生き物」だったものが土から離れた瞬間にゴミになってしまうのは、なんて理不尽なことだろう。

「春海ちゃんの袋、重くない?代わろうか?」

「大丈夫です。かさはあっても草だから重くはないし」

「そう。ならいいんだけど」

この人が母親だったらどんな気持ちだろうとちらっと思った。「お母さん」になる以前の姿なんて想像がつかなくて、セックスとか、そういうものとは無縁に見える、恰幅の良いこの女性。この人が母親だということは、とても精神を安定させてくれるような気がした。

「千春ちゃんは、」

丁度、その点ママは、と考え始めるところだった私はびくりとしてその思考を中断した。今自分は一体何を考えようとしたのだろう。

「桜が好きだったわよね」

鈴子さんの見ている方に視線をやると、そこには既に葉だらけになった桜の樹があった。

「私はあまり好きじゃないんです」

「そうなの?」

「なんかね、肩透かしを食らった気分になるんです。ずっと楽しみにしてて、ようやく春になってみると、思ったよりインパクト小さいなって。桜の花びらって意外と白いじゃないですか。晴れてる時ならともかく、曇り空だとどこから花でどこから空の色なのかも分からないぐらい」

本当に、夢みたいに曖昧な色。

「裏切られたような気持なのね」

「そうなんです。もう何回も騙されて、もう同じ手には乗らないぞって」

鈴子さんは苦笑した。

「千春ちゃんより春海ちゃんの方が桜生まれなのにね」

私はびっくりして口をつぐんだ。確かにママよりも私の誕生日の方が桜の季節にふさわしい時期だ。桜生まれ。けれど私はこの人からそういう類の詩的な言葉が出てきたことに驚いた。

「あまり似ていないね、あなたたちは」

それは自分でも分かっていたけれど、どうしようもなく胸が痛んだ。


次話



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