4月のクラス替えでは、江実とも早苗とも別のクラスになり、その代わり瞳と同じクラスになった。そして、友人の多い彼女がわざわざ私と一緒に行動したがることに驚いた。
「だって春海は嫌いな人とはつるまないじゃない」
瞳は言う。
「私の周りには、私を嫌いなのに私と仲良くしたがる人が割と沢山いるの。そういうのって本当にくだらないと思わない?」
「でも、私、そもそもそんなに嫌いな人っていないし」
下らないと思いながらもその人たちと親しくして見せる瞳に、ただ自分のしたいようにしているだけではないのだと少し驚きながら返す。思っていたよりは彼女は分別のある人だったらしい。
瞳は嬉しそうに首をかしげた。
「そういうところも好きよ。基本的に人に無関心なところ」
全然そんなつもりはないので憤慨したが、かといって周りに興味津々に関わっているかと言われると黙るほかないので、その異論はそっと胸にしまった。
そのようなわけで、私たちは二年生になってから一緒にいることが多くなったのだが、今は一人で部室に向かっていた。瞳は今日は掃除当番だ。
部室に着くと、一人の一年生の男の子がいた。窓際に椅子を寄せて外を眺めている黄色い頭。
「こんにちは」
彼はドアの音に振り向いて、にいっと笑って挨拶をした。
「こんにちは」
私は少しどぎまぎして答える。香篠柊と1対1になるのは初めてだった。瞳を待っていればよかった。ついそんなことを思ってしまう。まだ学園祭に向けて動き始めていないこの時期、他に早くやってくる人もいないだろう。
長机に着いて意味もなく携帯を取り出した。もちろん、メールなんてきていなかった。一度閉じてもう一回開く。信じてもいない星占いのページにとんでみる。牡牛座、交友関係を広げるチャンスです。なるほどね。皮肉な気持ちで画面を眺めていると、彼が正面の席にどさりと腰かけたので思わず目をあげた。
「彼氏?」
「え?」
「メール」
私は手元の画面を見て苦笑した。
「違うよ、おうし座、交友関係を広げるチャンスだって」
「星占い?ふうん。ね、いて座は?」
「いて座なの?」
「そう。12月17日生まれ。覚えておいてね、先輩」
図々しくて、でもなぜか全然不快ではないこの後輩を、嫌いではないなと認識を改めた。
「いて座、不用意な一言が災難の元です」
「まじっすか。やばいな、黙っとこ」
そう言ったきり口をつぐんでじっと見つめてきたので、少しいたたまれなくなってわざと乱暴に携帯を閉じた。
香篠君はふうっと目元を和らげた。そしてポケットからゲーム機を取り出す。
「あ、たまごっち」
私が思わずつぶやくと、彼はその小さい機械から目を離さないまま笑った。
「しかもこれ、元祖っすよ。姉貴のおさがり」
「うそ、だってあれ、小学生の頃じゃない」
「俺、こう見えて意外と物持ちいいから。電池取り換えたら使えるの」
「へえ、意外」
ようやく彼は画面から目を離して、ニヤッと笑った。
「なんて。ギャップを狙ってみました」
私は顔をしかめた。
「嘘だったの?」
「いや、本当だよ」
そういって再び視線をゲーム機に落とした。そのまなざしは真剣というにはほど遠かったけれど、ある種の集中力のようなものが感じられて私はそれ以上話しかけるのをやめた。
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