「まあ、そろそろちゃんと考え始めなさい。すぐに三年生になっちゃうんだから」
そう言う担任の教師に頭を下げて教室を出た。廊下で待っていた次の人に声をかけると、彼はガラガラと扉を開けて中へ入っていく。椅子を引く音。聞こえだす話し声。
冬休みが明けてすぐの面談は居心地の悪いものだった。進学をするということだけを告げると、様々な選択肢が示される。志望校は?志望学科は?成績はどののくらいに持っていけばいいと考えている?まだ決めていないの?もう併願校決めている人もいるんだよ…。
そして千歳の言葉を思い出し、こぼれるため息を止めることもできずにその場を離れた。
未来のことなんて上手く考えられない。周りだけがテンポよく進んでいて、いつの間にかその背中が小さくなっている。
「終わった?」
下駄箱にもたれていた香篠君が右手を挙げる。軽く頷いて駆け寄った。
「お待たせ」
ローファーに履き替えて二人で自転車を引きながら学校を出る。1月の風は冷たくて、思わず首を竦めた。
「結構面談短かったね」
そう言う香篠君に苦笑して答える。
「私がまだほとんど何も決められていないから、ほとんど話すことがなかったの」
「ふうん。進学するんだよね?」
「そのつもり」
香篠君はそれ以上何も聞いてこなかった。そのことにほっとしている自分に気が付いて自己嫌悪する。上京を勧められたことなんて、言えない。
「るみも受験生か。そうしたら俺のことなんて構ってくれなくなるんだ」
わざとらしく拗ねるので笑ってしまう。
「香篠君こそ、構ってあげられないからって浮気しないでよ」
「じゃあちゃんと構ってよ」
戯れのような会話をしているうちに、大通りまで出た。ここからは反対方向なのでいつもここで別れる。
「じゃあね。面談が終わるの、待っててくれてありがとう」
そう言って自転車にまたがると、ちょっと待って、と呼び止められる。
「なに?」
振り向くと、香篠君はちょっと怖い顔をして立っていた。
「あのさ、来週の金曜日、あいてる?」
「来週?」
頭の中でスケジュールを思い出す。
「部活は無かったよね。どうして?」
ただのデートのお誘いにしては切羽詰まったようなその表情に気が付かないふりをして尋ね返す。
「親が旅行に行くって言ってさ。それで、」
じっと見つめられて一瞬息を止める。
「うち、来ない?」
その意味が分からないほど馬鹿ではなかった。
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