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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

決戦は金曜日、か。一日中この有名なメロディーが頭から離れずに、少し疲れてしまった。面談の日とは逆に、下駄箱で香篠君を待つ。
「お待たせ」
鞄をリュックのようにしょった香篠君が小走りにやってくる。
「帰ろうか」
ぎこちなく頷く。
「まあまあ距離あるからさ、チャリで俺の後、着いて来て」
自転車の鍵を外す彼の背中に向かって、分かったと返事をした。
 大通りを走る。たぶんゆっくり漕いでくれいている香篠君の後姿を見つめながらこっそりと深呼吸をする。
 今から自分たちが何をするのか、分からないふりをするほど図々しくはなれない。けれどあけすけに振る舞えるほどの経験も度胸もなくて一人でこの息苦しさを持て余している。

 「ここ」
彼が自転車を止めたのは、綺麗な二階建ての一軒家の前だった。小さな庭が丁寧に手入れされている。植木鉢もいくつか置いてあって、春には花を咲かせるのだろうな、とぼんやり思った。
 鍵を回して扉を開いた香篠君に続いて家の中に入る。お邪魔します、と小声で言うと彼は笑った。
「誰もいないのに」
出されたスリッパを履いていると、突然廊下の奥の扉が勢いよく開いた。
「あら、柊帰ってたの?え、ていうか、その子誰?彼女?」
「なんで姉貴いるんだよっ」
矢継ぎ早に質問をした綺麗な女の人に香篠君が慌てたように食って掛かる。
「忘れ物しちゃったから取りに来てたのよ。へえ、彼女なんだ」
そして私の方を見てにっこり笑う。つややかな唇がきゅっと弧を描いた。
「柊の姉です」
「遠影春海です」
慌てて頭を下げる。
「可愛いじゃない。なに、学校の子?同級生?」
「関係ないだろ!さっさと行けよ、どうせまた彼氏待たせてるんだろ」
「やだー、生意気。心配しないでも今日は帰らないわよ」
香篠君の頭に拳をごつんとぶつけると、お姉さんは華奢なヒールを履きながら私に言った。
「じゃあね、春海ちゃん。我儘な子だけど、柊をよろしく」
「え、あの、はい」
コツコツと足音を響かせて出て行く彼女を見送って、香篠君はため息を零しながら肩を落とした。
「ごめん。あいつ、今日朝から彼氏の家泊まるって言ってたから、だれも家にいないと思ってた」
「大丈夫だよ。すごい綺麗な人だね」
そう言うと彼は顔をしかめた。
「化粧がめちゃくちゃ濃いんだよ。ビフォーアフターで比べたら、テレビに出られるレベル」
「ちょっと目元が香篠君に似てた」
「げえっ」
香篠君は乱暴に言うと、首を横に振った。
「いや、そうじゃなくて。えっと、飲み物持っていくから俺の部屋行ってて。2階上がって右側の部屋だから」
急に私もドキドキしてきて黙ったまま肯いた。


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