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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

香篠君の部屋はきちんと片付いていた。とてもきれいと言うほどではないけれど、あるべきところのあるべきものがすべて収まっている状態。本棚に収められた少年漫画の単行本を見て、男の子だなあ、と微笑ましく思った。
「オレンジジュースで良かった?」
コップを二つ持った香篠君が部屋に入ってくる。
「うん。オレンジジュース、好き」
「でしょ?ちゃんと覚えてるからさ」
ちょっと得意げに言って、小さなテーブルの前に座る。立ったままだった私も、その向かいに腰を下ろした。
 少しの沈黙の後、香篠君がきまり悪そうに笑った。
「こんな時何すればいいのか分からないや。るみ、なんとかしてよ」
冗談めかして言われたけれど、緊張しているので思わず言い返してしまう。
「無理だよ。こんなの初めてだもん」
言ってしまった後で恥ずかしくなる。
「香篠君は初めてじゃないでしょ」
悔しくてそう思わず責めるように言うと、彼は一瞬口ごもった。
「彼女は、いたことあるけど。でも、家に呼んだのは初めてだよ」
そうして真剣な目で見つめられ、たじろいでしまう。
「そうだ、卒業アルバムとか、ないの?見たいな」
わざと本棚の方を振り向いてそう言うと、彼が立ち上がったのが視界の端に映った。
「そんな面白いものでもないよ」
そう言いつつも私の横を通って、本棚の一番下の段からアルバムを取り出す。そしてもといた位置に戻ると、自分の横をぽんぽんと叩いた。
「そこからじゃ見づらいでしょ。こっち座りなよ」
「う、うん」
彼の後ろに見えるベッドをなるべく視界に入れないようにしながら彼の隣に座る。
「何組だった?」
「C組」
そのページを開いて彼を探す。
「あ、これでしょ。髪、金髪じゃないんだね」
写真の中で無邪気にピースサインをする香篠君の髪型は、周りの写真の男の子たちに比べれば反抗的に跳ねてはいたけれど、今のようなどこにいても目立つ黄色い頭ではなく大人しい黒色だった。
「そりゃ、俺だって生まれたときから金髪なわけじゃないよ」
私は写真を見ながらくすくす笑った。ページをめくっていく。クラスの中心人物だったのだろう、スナップ写真にも香篠君は沢山写っていた。
「あ、」
思わず目を止めてしまった。小さな写真。香篠君と、目のくりくりとした可愛らしい女の子が顔を寄せ合って楽しそうに写っている写真。
「この子が、元カノ?」
私が指さしたそれを見て、香篠君は一瞬言葉に詰まったけれど、頷いた。
「ていうかこんな写真アルバムに載ってたんだ。今まで知らなかった。卒業するころには別れてたのに、これ写真選んだ奴の嫌がらせだろ」
ぶつぶつ言う彼の声を聞きながら写真の彼女をじっと見つめる。
「…可愛い子だね」
私の知らない、黒髪の香篠君と一緒に時間を過ごした人。
「ヤキモチ?」
その言葉に反応して彼の顔を見ると、にやにやしていたのでいらっとしてしまう。
「違うもん」
そうかそうか、と言って香篠君は私の肩に腕を回した。首筋に感じる、肌の熱。
「こんなにるみのこと好きなのに、信じてくれていないんだ?」
耳元で甘えるようにささやかれて、思わず首を竦める。
「こっち向いてよ」
その熱っぽい声のまま囁かれて、操り人形のように首を回す。
 唇が重なって、そのまま甘く噛まれる。息苦しさに薄く口を開くと、そのまま舌がさしこまれた。私を味わう、可愛い獣。
 このまま食べられるのだな、とおぼろげに感じる。彼はライオンだから。私の身体が彼の血肉となるのならば、それもかまわないかもしれない。
 丁寧にベッドへと沈められていく身体を感じながら、彼のたてがみをそっと撫でた。





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