【訳者注—Greatchain

 

(Kaiser Health News) For Many People, Delirium Is a Surprising Side Effect of Being in the Hospital

 

「せん妄」と訳されている(私も経験し、幸い比較的に軽く済んだ)Delirium が、かなり深刻で広範囲なものでありながら、ほとんど解決できないものである現状が、かなり多くの論文で論じられていることを知った。これはその翻訳(の一部)である。私の「脳出血始末記・後日記――解けない謎」を読んで下さった方には、私の直感がほぼ正しかったこが証明されるとともに、事態の大きさが人々の想像する以上のものであることを、わかっていただけると思う。(そもそも「脳出血」という言い方自体が、不正確だった。)

 

たとえば、これとは別に、(AHRQMismanagement of Delirium(せん妄の誤った管理)という論文があるが、これなどは悲惨といってもよいだろう。原爆症やイタイイタイ病にも匹敵するかもしれない。体験者から言えば、これは夢や幻想などでなく、不思議な、ある悪意をもった現実である。そしてこれは、もし私が、私のかかったある医者に反抗せず、言われる通りにさらなる治療を受けていたら、結果はどうなるかわからないものだった。

 

 

By Sandra G. Boodman, June 2, 2015

 

B. Paul Turpin1月に、あるテネシー州の病院に入れられたとき、最大の心配事は、この69歳の内分泌学者が、生き残れるかどうかだった。しかし彼が、ある命を脅かす病気と闘っていたとき、ターピンは恐ろしい錯覚症状を発症した。その一つは、彼が血に染まって舞台上で演技をしているものだった。

 

医者たちは彼の妄想を、鎮静剤をさらに増やすことで沈静させようとした。しかしこれはさらに深刻な混濁状態を引き起こした。

 

ほぼ半月後、ターピンの症状は治まっているが、彼の生命は危険状態にある。せん妄が続き、退院はしたが、その後、気弱になって自宅に帰れなくなり、リハビリ・センターで数か月過ごした。そこで彼は2度転倒し、一度は頭を打った。最近まで彼は、自分がどこにいたのか記憶がなく、自動車の廃車の中にいると信じていた。「むしろこれは廃列車のようだ、と私は言うんですよ」と、彼の妻メアリールー・ターピンは言った。

 

「皆さんは、〈ちゃんと病院だと言いなさい、誰でもそうするのよ、それで混乱もなくなるんだから〉と言うんですが…」と、彼女は言った。ところが、彼女のかつて明敏だった夫にとって、〈この困難を乗り越える〉のは大変むつかしいことだった。

 

ターピンの経験は、せん妄でどんなことが起こるかを例証するものだ――突然、意識が断絶し、生き生きした幻想がはっきり認識される。いろんな妄想が患者の焦点を狂わせ、不能にするということが、年に700万の患者に起こっている。確かに意識混濁はどんな年齢でも起こる。それは学校年齢でも起こったことがある。しかし、けたはずれにそれが起こるのは、65歳以上の人々で、しばしば痴呆症と誤診されることがある。せん妄と痴呆症は混在することがあるが、この二つは明らかに異なった病気だ。痴呆症は徐々に発症し、急速に悪化するが、せん妄は突然起こり、1日のうちにも浮き沈みがあるのが特徴である。せん妄の患者のある者は、いらいらして戦闘的だが、痴呆症の患者は忘れっぽく、注意散漫である。

 

せん妄が引き起こすもの

 

「集中強化治療室」で、強度の鎮静薬を投与され、換気装置を使って治療されて患者は、特に、せん妄にかかり易い。ある研究では、85パーセントという高い率を指摘している。しかしこの条件は、手術から回復している患者の場合でも、同じであり、泌尿器疾患のように容易く治療できる場合でも、同様である。その原因とは関係なく、せん妄は、退院後も何か月も持続することがある。

 

連邦保健機関の権威者で、病院でかかった諸々の疾病を削減しようとしている人々は、せん妄の罹病率を小さくするために、どんな行動を取るべきかを考えている。なぜなら、さまざまな病気の場合、医療健康保険制度が、支払いを保留してくれないか、または、これを病院の過失とみなすような、場合があるからである。せん妄は、年間、143億円以上かかると推定されており、そのほとんどは、長期間の病院生活に、看護ホームケアが合体している。

 

「せん妄は非常に認知度が低く、そう診断される件数も少ないのです」と、「老年医学」専門家(geriatrician)のハーバード医学校医学教授シャロン・イノウエは言った。1980年代、彼女は若い医者として、この状態を診断し、予防に努力する医者の先駆者となった。その頃それは “ICU精紳異常” と呼ばれていたが、その根底にある生理学的原因は、現在でも謎のままである。

 

「医師や看護師はしばしば、それを知らないでいます」と、イノウエはつけ加えたが、彼女はハーバードの関連施設、ヘブライSeniorLifeの、エイジング・ブレイン・センター長を勤め、老人ケアと、老年医学を研究している。せん妄は、その防止が肝要なのは「それが一度起こると、良い治療法がいまだにないからです」と彼女は言った。

 

研究者たちの推計では、ほぼ40パーセントまで、せん妄の症例は、予防が可能だという。多くの症例は、患者が受けるケアによって引き起こされる。特に、高齢者は、対不安ドラッグや麻酔(睡眠)剤に敏感で、病院の環境自体にも敏感になる。また雑踏、騒音、照明の強い場所で、睡眠がたえず妨げられ、スタッフが頻繁に出入りしている。

 

最近の研究は、せん妄を、より長期の病院生活に結び付けている。「最大の考え違いは、せん妄を避けられないものと考え、それでも別に問題ないと考えることだ」と、ヴァンダービルト医科大学のE. Wesley Ely教授は言っている。

 

だんだんわかってきたこと

 

せん妄は重大な問題であり、一時的な困りごとではないという認識は、新しいもので、比較的新しい救急医療ケアという分野の、成長する知識から、派生したものである。

 

せん妄は「今では、この国のあらゆる医学、また看護学校で教えられ、少なくともその病名を教えられています。これは10年前から見ると、とても大きな変化です」と、イノウエは言い、その研究も、指数関数的に増えているとつけ加えた。

 

イノウエは「混乱度査定方法」(CAMスケール)というものを開発し、いま世界中で、せん妄を査定するのに使われているが、せん妄を防止するのに重大な妨げになるものが、依然として存在すると言っている。

 

「我々は老齢の患者を介護するときに、あらゆる小さな症状を、錠剤で治療するようなことを避けるべきです」と、彼女は言った。時には、手でさすったり、会話をしたり、ハーブ・ティーを一杯上げるだけで、安定剤くらいの効果があるのです。」

 

2か月前に、50代になったイノウエ博士が、一晩だけ急に入院したことがある。より年上の弱い患者たち直面する苦しみとは、比較にならないものだったと彼女は言い、1つの機械が狂っていたために、彼女の部屋の目覚ましが、一斉に鳴り出したと言った。

 

「医療が進化して、年寄りに対しては、完全に非人間的になったのよ」と彼女は言った。

 

HELP

 

せん妄を防止し、軽減する努力の過程で、イノウエは、HELPと呼ばれるプログラムを考案した。これはHospital Elder Life Programの頭文字で、現在、世界中の200の病院で活躍している。このプログラムのコアの部分は変わっていないが、あらゆる病院が、いろんなやり方でこのプログラムを利用している。ICU(集中治療)の患者にこれを用いることもあるが、これを排除する者たちもいる。2000年の研究によると、HELPは、ピッツバーグのUPMC Shadyside病院で、1年間に、700万ドル以上の無駄を省いたという。

 

ポートランドの「メイン医療センター」では、HELPは、70歳以上で、48時間以上病院にいて、せん妄の兆候を示さない患者たちに開かれた、無償のプログラムになっている。ここではICUと精神科学の患者は排除されている。このプログラムは、50人の訓練されたボランティアの幹部に依存しており、彼らは毎日、3回まで、半時間交替で患者を訪問して援助し、友情を育て、その方向になじむ支援をしている。

 

このCAMスケール(混乱尺度)は病院の電子医療記録に組み込まれている、と老年医学者のHeidi Wiemanは言った。彼女はこのプログラムを監督し、患者たちを規則的に面会する医療チームを率いている。HELPは、昨年の実績で、せん妄患者の96パーセントまでを防止することができた。彼女はつけ加えて、この13年越しのプログラムに対する、医師や看護師の抵抗は、最小限のものになっていると言い、その理由は、「私たちは転倒の事故率を、せん妄の防止に結び付けたからだ」と語った。

 

メアリールー・ターピンの(せん妄の)夫は、最近、ナッシュビル近郊の自宅に戻っており、彼をできるだけ早く、ヴァンダービルトのICU回復センターに入れようと計画している。「私は、きっと必ず二人で、今後の人生をもつことができると思っています」と、彼女は語った。

 

                           ——以上

 

PDF: http://www.dcsociety.org/2012/info2012/200121-1.pdf