【ミッドナイトサンパウロ】







深夜サンパウロの町を車で走っていた。

オレは助手席、ブラジルの友人が運転席と後部座席に座る。

ブボボボボボボ~!

夜の暑い空気を切り裂きながら車は飛ばす。

真っ暗だ、光はヘッドライトと、車の中の計器のみ。

メインストリートからちょっと外れただけなのに、外灯なんてありゃしない。

しかもこのスピード、良く飛ばすゼ。

すると「ウオっ!」

突然、光に子供!

叫ぶ車内と、瞬間急ブレーキ。

子供の目が窓ガラスに大きく見開いて、完全にはねた!

っと思いきや、まるで輪ゴムのように左にビュンと跳ね、

走り高跳びのように、腰を間髪ギリギリで抜いて車の左に抜けていった。

車はすぐにアクセルを戻しまたぶっ飛ばす。

光に一瞬照らされた恐怖の目が頭に張り付く。

白いランニングを着た黒人の子供だった。

真っ暗なこんな時間に、いったい何やってんだ?

だがあの目、一瞬の恐怖の中に、あきらめない、次の事態に向かう

反射の気持ちが入っていた。




サンパウロはでかい。

東京よりでかい。

実際はどうなのかはわからないが、都市部に立つとそう感じる。

遠くをずっと、でかいビルが果てまで続く。

180度見回してもでかいビルが果てを囲む。

危うく過呼吸で胸が詰まりそうになった。

所々、白っぽい変わった建屋が並ぶ一角が点在する。

ハイウェイを走っているときも見えるし、メインのストリートを

歩いている時も割合近くにあったりする。

スラム街だと聞かされた。

そこだけ不思議な雰囲気で、裸足の子供達が遊んでいる。

フラっと覗きたくなって足を止めると

「あそこに行ったら死ぬゾ」とブラジルの友人に釘を刺された。

遊ぶ子供達を見て、本当にそうなのだろうか?そう思ったが、

事実なのだろう、世界最悪の殺人件数がそれを証明している。

しかし、国自体はいたって陽気だ。

かつて、どんよりしたアルゼンチンを出て、ブラジルに入った瞬間、

印象があまりにもガラっと変わったのに驚いた。

太陽はサンサンと輝き、

ボニータと呼ばれるブラジル美女がまぶしかった。

彼女達がうごめくだけで、空気に甘い蜜が注がれ、

景色は艶めき「ヤッホー!」という気分になるのもブラジルの魅力だ。

ギリギリ、いろんな事がギリギリの国、オレはブラジルをそう感じる。




あの刹那の出会いは今から10年くらい前だった。

猛スピードの車の前に現れたあの子供はどうしているだろうか?

ギリギリの青春の結末はどうなったのだろう?

生きているだろうか?

サッカー選手にでもなっていたらすごい。

あの反射神経、ただ者ではなかった。