【スコットランドハリケーン】






つい先月、イギリスのツアーから帰り、成田空港の両替所で

ポンドを円に換えた。

すると窓口のおじさんが申し訳なさそうに紙幣を差し出した。

「すみませんがこの紙幣は両替出来ません」

えっ、ニセ札!?

かつてブラジルでニセ札をつかまされたことがある。

返された札をよく見ると、エリザベス女王ではなく、

バッハみたいなおじさんや、中世の甲冑を被ったおっさんが

印刷されている。

そう言えば見慣れない。

でも引き下がる訳にはいかない、これはツアーのギャラの一部だ。

いつもは振り込みだが、今回ショートツアーでギャラを現金でもらった。

だが、何度言っても窓口の答えは同じだ。

その代わり一つ提案をしてくれる。

「地下に世界の通貨を両替する場所があります」

大事なギャラだ、何としても円に換えなければ、教えられた場所へ

その現金を持ち込んだ。

だがそこでも言われた。

「この紙幣を替えてくれる両替所は、日本にありません」

そんな~、同じポンドだろう!

それがスコットランド紙幣であった。

後で調べるとイギリス国内ですら、使えない場所があるという。

おいおい、そんな紙幣、発行すんなよ!

スコットランドと言っても日本人には、よくわからない。

今回、スコットランドのグラスゴウでライブをした。

その事を日本に住んでいるイギリス人に話をすると、

「スコットランドでライブをしたのか!?」と少し驚くので、

その反応に興味を持った。

さらに話をすると、自分はスコットランドに一度も行ったことが無いと言う。

その上、気性が荒くなかったか?と逆に質問するので、

同じイギリスなのに、ここまで溝があるのかと驚いた。

もちろん、気性も荒くなく、荒いどころがみんないい人達ばかりだ。

しかもカウンターのお姉ちゃんは、イギリスで見た中で一番の美人だった。

ただ、時折、スコットランドの民族衣装キルトを着て歩く男性に会う。

その堂々と誇らしげな様子が、何かに対抗しているようで、

ちょっぴり奇異に感じた事は確かだ。

そして今回の独立騒動だ。

オレは違いを肌で感じ始めたばかりだったので、興味を持った。

選挙当日まで、世界中に嵐のような話題を振りまいた

この独立運動だったが、結果は知っての通りだ。

かつてスコットランドのエジンバラ出身のバンドが、その民族衣装の柄の

タータンチェックを身にまとい世界に旋風を起こした。

ベイシティローラーズだ。

タータンハリケーンと呼ばれ、コンサートで女の子が次々と

失神するニュースが流れた。

オレは中学の頃で、ほとんどの女の子が下敷きに彼らのシールを貼って

いて、それを見ながら、キャアキャア盛り上がっていたのを憶えている。

あの頃は知るよしもなかったが、彼らが身にまとっていたタータンチェック

には、スコットランドの強烈なプライドがあったのだと、今回初めて知った。

まあでもよかった。

日本でも北海道が独立するってなったら大変だろう。

両替出来なかったお金は、またいつかスコットランドに行った時、

メンバー3人で分けて、カウンターでお酒でも飲もう。




余談だが、ギターウルフのアメリカツアーの初期の頃、

小さいクラブのスケジュールに、ベイシティローラーズと書いてあった。

驚いて聞くと、やはりあのベイシティローラーズだった。

タータンハリケーンは、まだ消えてなく、

こんな小さなところでまだ吹いていたのかと、ロックへの執念の

凄まじさを感じた。

そのハリケーンの余波を、その時自分も受けていると、今感じている。