【目に虫】





幼い日の秋の夕暮れ、友達が目をこすっていた。

どうしたと駆け寄ると、友達は目をぐりんぐりんさせている。

自分の方に顔を向けたのでよく見ると「ウワッ」と思った。

片方の目の眼球にべったり虫が付いていて、それが、閉じられたり、

裏側に入ったりしていた。

田舎ではよく虫が目に入る。

しかしその日、友人の目に張り付いていた虫を見てから、

少し神経質になった。

入った時、なかなか取れず目の奥がゴリゴリすると、

虫が目の裏に住み着くのではないかと思い、怖かった。




中高と住んだアパートの前には駐車場があり、よく弟とキャッチボールや

サッカー、バトミントンなどをして遊んだ。

時折ブヨの大群が顔の前に現れて「ウワッ」と顔をよけた。

目を透かしてよく見ると、空中のある部分に小さい虫が集合して、

そこだけ楕円形に薄暗くなっている。

まるで、空中を浮遊する島の様だった。

大群が来たと思ったが、知らずにその虫の浮遊島に顔をつっこんだに

違いなかった。




先日昼間、家の近所を自転車で走っていると虫が目に入った。

久しぶりだった。

虫の浮遊島があるわけでもなく、たった一匹がかなりの確率で

自分の目に飛び込んで来たのだと思うと、

なぜか、人間何があるかわからんと思った。