【満員電車ラプソディ】
こう言っちゃなんだが、満員電車はあこがれだった。
田舎で思い描いていた東京が、満員電車にあった。
上京して初めて住んだのは西武線の駅で、
最初に経験した朝のラッシュのスプラッター感は半端じゃなかった。
ドアが開くといきなり満杯だ。
しかし田舎者の心のひるみは完全に無視され、いきなり後ろから押される。
あまりの予測を超えるなだれ込みように、倒れると思いきや、
人と人の固まりにオレの身体が止まった。
なんちゅう人道ナッシングの押し方!?
だがみんな無言で怒らない。
電車が動き、浮かない顔達が重い空気を吐き出す中、
一人キョロキョロした。
大きく揺れる車内で、小刻みに足を動かし、右に左にバランスを取る。
時には大きく揺れて人がなだれのようになったり、
気がつくと、電車の中で身体が浮いたままの状態があったり、
まるで、アミューズメントを楽しむような感覚があった。
静かだった田舎から、いきなり轟音の中に投げ込まれ、
ものすごいエネルギーの嵐の中で、翻弄されながらも、
必死に何かを注入しようとする感覚をあの頃は味わっていた。
十代のほれっぽい年頃だから、年上の女の人にもドキドキしていた。
横っちょで困っていたりすると、この人はオレが守るなんて勝手に思い、
なるべく空間を空けてやったりしていた。
また車内で、女の人を痴漢っぽいのから助けた事がある。
だがその人は、オレに一瞥もくれず、怒った顔で電車を出て行った。
オレと同い年だった東北出身の女の子の話も思い出す。
彼女も上京したばっかりの頃、西武線を利用していて、
高田馬場で乗り換えていた。
その乗り換えの階段で偶然、親戚のおばちゃんに会った。
するとその子はその場でわけもなく号泣してしまい、
おばちゃんを困らせてしまったっと言っていた。
お酒を飲んだ後、終電近くの満員電車に乗る事がある。
混んでいるが、もちろん朝程ではない。
もちろんアミューズメント感覚なんて消え失せている。
そんな時、オレは曲を考える。
ごくたまに何かが、自分のインスピレーションにヒットする時がある。
そうなるといきなり身体が熱くなり、一人高揚する。
こぶしをグッと握り、身体の芯から何かがズズズっと上がってきそうになる
が、そこでハッとする。
「やばし!」
ドキッとして周りに目をやる。
今の雄叫びでもあげそうなオレに、気がついた奴はいるか!?
だが、心配ご無用だ。
今はほとんどの人が、自分の手元をジッと見つめている。
よかったと安心して、隣でかすかに雄叫びをあげる。
アウ――――――!