【アルコールジェット】




頭の上からいきなり声が降ってきた。

「うわっアンノさん」

見上げるとそいつの頭の上には、冬の新宿の空があった。





冬のこの時期に、新宿の歌舞伎町でつるの君と飲んだ事がある。

FM東京の仕事の帰りだった。

くだらなすぎる話の応酬で、一緒にいた仕事の仲間は

あきれて帰ってしまった。

つるの君と飲むといつもこうなる。

だが、くだらない話こそ小学生の時のように永遠に面白く、

なんでこんなに面白いのに、あいつは帰るのだろうと思ったが、

二人は相当酔っ払っていて、同じたわごとの繰り返しだ。

脇で聞いていたら、間違いなく苦痛以外の何物でもなく、

奴はなかなかがんばってつきあった方かもしれない。

二人とも意地っ張りで、こんこんとお酒を飲んでいく。

だが、店の中では決してつぶれない。

店を出る時は、朝方だったがまだ暗かった。

「じゃあな!」激しくお互い手を挙げて、それから記憶がない。

気がつけば、アルタに向かう路地脇の植え込みに寝ていたところを、

起こされた。

原宿時代の後輩だった。

偶然、仕事で通りかかったらしい。

すっかり朝で、周りは人の往来が激しかった。

だが後で聞くと、その後輩は起こす前に、昨晩先に帰った彼に

電話をかけたらしい。

「どうすればいいかな?」

「タクシーに乗せて!」

でもここでオレはちょっと思う。

オイオイ、電話なんかかけずに黙ってタクシーに乗せてくれ!

だが、それは虫がいいかもしれない。

たまに見る事があるが、真っ昼間に泥酔して路上で寝ているやからは、

ちょっと異様な光景だ。

きっとそれに違いなく、躊躇する気持ちもわからずではない。

植え込みから助けられ、タクシーに突っ込まれた。

やがてうちに着き、タクシー運転手に起こされると財布がない。

必ず戻ってくるからと部屋からお金を取って来て支払い、

後は昼過ぎまで寝た。

再び夜、車で昨晩の飲み屋に行き、財布の事を尋ねた。

店の人に心当たりはなかったが、もしかすると!?と思い、

店のトイレに行くと、水を流すタンクの上に財布はあった。

なぜそこにあるのかわからなかったが、

誰にも取られず残っている事にちょっぴり感動した。

つるの君は全然ましで、帰りの記憶はないが、

気がついたら家のベッドだったらしい。

あの時、運良く後輩が通ってくれたからよかったものの、

もし通らなかったらと思うとヒヤヒヤものだ。

ありがとう、ホントに助かったよ。

この季節、飲み過ぎに注意だ!
オレに言われたくないか。