【ロック味噌】










オレの本能はパンクロックのビートで目覚めた。

東京に出てきて、ギョッと目をむいた連中がいる。

田舎には絶対にいなかったカラスの様な奴ら。

黒衣装に身をつつみ、アイシャドウが黒く悪魔的で、

不敵にニヤっと笑う。

まさにコンクリートに棲息する都会的な不良、

それがパンクスだった。

しかしガキは、反抗的な匂いに敏感だ。

最初は恐れいぶかしんだが、次第に興味を持つ。

その興味が決定的になったのが、

裏地がタータンチェックのゴム付き革ジャンで乗り込んだ

新宿ツバキハウスだった。

毎週火曜日におこなわれるツバキハウスロンドンナイト!

知る人だけが知るパンクロックが爆発する夜会。

そこに田舎者が勢いをつけて突っ込んだ。

するとフロアー中、黒カラスの群れ、おまけにニワトリ、

孔雀の様な奴らまで、

こいつらいったいどこから這い出てきたのだ!?

ディスコ全盛の時代だった。

とにかくいろんなディスコに行きまくった。

しかしツバキハウスのロンドンナイトを知ってから、

他のディスコでは物足りなくなる。

フロアーで爆音のシャワーがオレの脳味噌に浴びせられ、

上下のビートが心臓に直撃して、骨関節がパンクになった時、

オレも黒カラスの一員になっていた、かな。

髪の毛なんて真っ白に染めちゃったよ。






味噌酵母にロックを聞かせた味噌が発売と言うニュースを見た。

おもしろい!

こんな発想オレ好きだ。

人間がなるのだから、酵母も間違いなくロックになるだろう。

オレもかつて、自分がやっていた番組で、ビール酵母に

オレのロックを聞かせて熟成させたことがある。

横浜の地ビールを作る会社の社長の申し出を受け、

ギターをひっさげて乗り込んだ。

その建物の中は、レストランと工場が透明のガラスで仕切られていた。

ガラスの向こうのレストランでは、外国人の金髪の美人のお姉さんが

アルバイトで働いている。

さすが横浜!

あんぐりと、そのガラス越しに見えるそのお姉さんに気を取られながらも、

オレはマーシャルから発せられるオレのギターの爆音を

ビール酵母に浴びせ続けた。

「ロッキンロ――ル!」

エッそれで、味はどう変わったって?

フフ、それはどうだろう。

なんちゃって、もちろんロックだ!

その時間に出来たビールだから、限定で数十本。

半分くらいはオレが飲んだが、残りはすべて番組抽選で

応募してくれたKIDSに送った。

それを飲んだ連中は、ことごとくロックになったと聞く。

めでたし、めでたし。