【神魂神社】



子供の頃から初詣は三社参っている。

しかし島根では意外と三社参らない人も多く、

聞くとこの風習は、九州、山口に多いと聞いた。

うちの両親は二人とも山口出身だ。

毎年紅白が終わり、行く年来る年が流れ出したら「さて行くか!」と

暗闇の道をヘッドライトの車で飛び出すか、

三が日のお雑煮の後、ゆっくり参るかのどちらかだが、

今年は元旦の昼間に家族総出で出かけた。

最初は必ず八重垣さんに行く。

中学高校のチャリ通の田んぼの向こうにこの神社はいつも見えていた。

「今日、誰それがA子を八重垣さんに呼び出して告白するとや!」

とか、部活で先輩に八重垣さんまで走らされた事など、

まさに青春の記憶の一部に、この神社はある。

到着すると、「最近、観光客がえらい事になっちょります」

と松江の友人が言うように、今年は今までで一番長い列が、

駐車場から神社の外側に沿って鳥居まで繋がっていた。

とは言っても、明治神宮などに比べればどうって事はなく、

10分くらい列を進んだ辺りで鳥居をくぐれた。

列から外れ手と口を清め列に戻りゆっくり進むとすぐに神殿だ。

お賽銭を入れ、手を合わせ、宇宙の平和を願う。

そしておみくじを引き、木に結び、駐車場に戻り、

さてと、次の神社に向かった。

神魂神社だ。



神魂神社、カモスと読む。

八重垣さんのすぐ近くにあるが、ちょっと大回りして奥まった場所

で、地元の人間でもわかりにくい。

中学高校の時には、毎日近くをチャリで通りながらも、

神社の存在すら知らなかった。

母親がいつも言う「日本最古の神社だけん」

と言う言葉に惹かれ、いつの間にか三社参りルートに入っていた。

正月だから参拝客も多少いるが、八重垣さんほどでは全然なく、

小さい駐車場も2,3台の空きがあった。

鴨居をくぐりゆるやかな階段を登っていく。

階段右脇には石垣が反り立ち、本殿はその石垣の上にある。

中腹辺りで、石垣に男道と言われるハシゴの様な急な石の階段が現れ

るが、母親の足が悪いため、家族はそのままゆるやかな女道を迂回し

境内に入った。

八重垣さんより空気がひんやりしている。

日本最古という肩書きは、やはり特別で、そんな場所に毎年参る事が

できるのは、実家がこの辺りだという特権素直にうれしい。

祭神はイザナギとイザナミだ。

考えてみれば子供のスサノオの八重垣神社を参った後、

親の神社に参っているのだと、遅ればせながら今年初めて意識した。

古事記に登場する最初の二人が祭られているのに、このひっそりさは

どうしたことだろう。

でも物語の始まりは、こうした場所から産まれるのかもしれないと

うがった考えをしてみたが、

たまたまスポットが当たってないだけで関係ない。

でもそれでいい気もする。



イザナギイザナミは日本のアダムとイブと呼んでもいい二人だが、

物語はなかなかグロい。

子供の頃に初めて読んだ時、戸惑った。

神話のファンタジーな展開から、

イザナミが死んで黄泉の国に行った辺りから物語は不気味な展開に

変わり、子供の頭に素直に収まらず、オオクニヌシノミコトの出現で

ホッとした。

たまたま去年、新聞で古事記の興味深い解説を読んだ。

今年の初詣で、あらためてイザナギイザナミを意識したのは

そのせいだ。

なかなかエロい表現も出てくる過激な愛の物語だった事を知る。

二人は結局最後、愛の名残を深く持ちながら、お互いを激しく

憎悪した。

社務所の前には、神魂神社の案内板がある。

そこには御祭神、伊弉冉大臣、伊弉諾大臣と並んで書いてあり、

二人はこのひっそりとした神社に仲良く祭られている。

長年、見慣れた案内板だった。

だが、今年は凄まじく奇妙さを感じ、看板の前でわずかに

立ちすくむ。

すると静けさが迫力を帯びてきて、

少しだけ恐怖に似た気持ちが胸の辺りにモゾモゾっと顔をだし、

ピョンっと本殿の屋根の向こうの空に飛んでいった。



神魂神社を出て、最後は小学校の頃よく遊んだ天神さんに参り

境内で、名物のたこ焼きを食べて家に帰った。



ちょっと遅くなったけど、あけましておめでとう!

今年もヨロシク。