帰ってきたヒトラー感想 ☆4.5 | 辻明佳のナイフとフォーク

辻明佳のナイフとフォーク

旅、お料理、ときどき女優。


観なきゃ観なきゃと思いつつなかなか勇気が出なかった

帰ってきたヒトラー

やっと観ました。


ものすごい映画だった……

もっとどコメディーなのかなーと思ってたら

後半はまさかのバッドエンド…………

しかもTo Be Continued的バッドエンド……

悪夢はまだ、始まったばかりなのだ(そして現在に至る!)


ヒトラーを擁立して少しずつ狂っていくテレビ局が

ヒトラーが率いたドイツそのもののようで。

スティーブ・ジョブズ似の副局長が

会議室で視聴率の低迷に追い詰められるシーンは

まんま、ヒトラーが自殺を決める総統地下壕のようだったよね。


でも映画としてとにかく緻密でおもしろすぎて

一瞬たりとも目を離せなかった!

生々しいカメラワークとか、一般市民のリアルな演技とか

今目の前で起きていることかのようなリアリティ。


ヒトラーと行動を共にするさえない監督志望のテレビマンが

バック・トゥ・ザ・フューチャーのマーティみたいなかっこしてるのは

タイムスリップものつながりのオマージュなのかな。


なによりヒトラー役の俳優さんの芝居……

根っこの思想までほんとにそう思ってるようにしか見えないよ……すご……

もちろん、ヒトラーと言えば的な、激昂したり、声高に演説するシーンもあるんだけど

ベースは非常に理性的で魅力ある人物なので

これはうっかり、だまされる。

それがこわい。


今まさに、画面の前の自分が試されているかのような

緊張感がありました。

おもしろいなー!


私の好きな映画・ドラマ評論YouTuberシネコトさん

今作のヒトラーと、『ジョジョ・ラビット』のコミカルでまぬけなヒトラーとを対比して語ってらして。

というか、そもそも私が『帰ってきたヒトラー』を観なきゃと思ったきっかけが、

このシネコトさんの『ジョジョ・ラビット』評だったのでした。


ジョジョ…でのヒトラーは、明らかに間違ったことを言っている、差別的な人物として描かれているので、

観客は「ヒトラーの歴史的評価をし終えた分別ある現代人」として、

ある意味では安心して観ていられる。

「なんて愚かな!」

と、わかったふうに言ってられる。


でも、『帰ってきた…』のヒトラーの前では、私たちは

当時のドイツ人と同じ立場に立たされてしまう。

「ヒトラーの言うこと、一理あるのかもしれない……」

とぐらつかせられてしまう。

もちろん最終的には

「でも、それでもやっぱり、それは恐ろしい考えなんだ」

と思えるようになってるんだけど、

この揺さぶり。


ちょっと、映画にこんな体験をさせられるとは思ってませんでした。

こわいね。