侍タイムスリッパー(2024)
①低予算で少館上映ながら、口コミで面白さが広がり、拡大上映され大ヒット。
②批評家たちからの評判も良く、多数の映画賞を受賞。
③タイムスリップもの
以上3点の情報は早くから得ていましたが、劇場観賞は叶わず、配信で観賞いたしました。
①に関して、同様のムーヴを起こした『カメラを止めるな』と比較して論じる方も多い。
しかし個人的に『カメ止め』は感心できるほどの作品ではないと思っているので、「へ~そうなんですね」という程度しか興味が湧かなかった。
②に関して、僕の作品批評は、ひねくれものの逆張り体質であるため、これも興味が湧くほどではない。
③に関して、大体タイムスリップものって、ひょんなことから主人公が未来、あるいは過去に飛んで、その世界の文化や慣習に戸惑いながら、ちょいと恋愛を挟み込んでの展開は、大概ありきたりとなり、感心できる作品はわずか。
「他人と入れ替わり」ものと並んで、安直設定の2大巨頭といってもいいジャンルである。
前置きが長くなりましたが、さて本作。
面白かった。
脚本が実によく書けていると思いました。
そして溢れる映画愛、時代劇愛。
隅々に感じる先人の映画人へのオマージュ。
監督・脚本の安田淳一は、私より年下だがほぼ同世代。
あんな映画、こんな映画と同じ時代の空気を感じていたんだなあと感慨深くなるほど。
映画人を描く映画は、大概映画ファンの心の襞をくすぐってくるのでちょっとズルいなとも思いましたが、それも微笑ましく思え、安田監督の語り口に、まるでお腹を見せて寝転がる犬状態になってしまう。
京都太秦映画村全面協力。
大部屋俳優の役者魂を描いた「蒲田行進曲」を思い起こしました。
香港のカンフー映画の格闘シーンみたいに、たっぷりと詰め込んだ活劇シーン。
カット割りがよくできてるんですよ。
しっかりとした絵コンテがあるんでしょうね。
なにがなんでもいい作品を撮りたいという作り手たちの情熱は、ボクダノヴィッチの「ニッケルオデオン」や、タヴィアーニ兄弟の「グットモーニング・バビロン」、あるいは園子温の「地獄でなぜ悪い」のように、映画ファンが持つ同志的共鳴を呼ぶ。
事情があって決着をつけられなかった相手と、長い年月の後に再び相まみえるというのは、ジョージ・ロイ・ヒル監督の「華麗なるヒコーキ野郎」と同じ展開で、クライマックスを否応なく盛り上げのだが、演出力がないと先が読めすぎて尻すぼみになってしまいそうなところ、安田監督は流石で、一瞬たりとも退屈させることがない。
侍たちの殺陣もまた見事だが、ここは黒澤を意識したか。なんだかうれしくなるね。
役者勢もそろって好演で、悪目立ちする者もおらず、互いの魅力を引き出し合っている。
関西弁や会津弁など、方言に違和感がないのもいい。
オチのワンカットも見事に決まり、思わず唸ってしまう。
本作を観て、
手垢がついていると思われたタイムスリップものも、作り手次第でまだまだ面白くなるんだなあと感じ入った次第です。
『侍タイムスリッパー』(2024)
安田淳一監督 131分
2024年(令和5年)8月17日公開