「閉じる」幸せ~恋を終わらせるタイミング | HappyWomanのすすめ。

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――人生にはいくつもの「閉じどき」がある。
評論家でありコメンテーターの残間里江子(ざんまりえこ)さんの言葉に、ハッとさせられました。
最新の著書『閉じる幸せ』(岩波新書)についての対談記事を担当させていただいたときのことです。

ネイティブアメリカンには、「a little death」という世界観があるそうですが、これは、「人間は小さな死を繰り返しながら生きていく」という思想です。
残間さんの言う「閉じる」も、「ジ・エンド」ではなく、一度立ち止まってまた新たなスタートを切る、という意味です。

しかし、この「閉じる」という作業には、相当な勇気が必要だと残間さんは話します。
本当にこの窓を閉めていいのだろうか。まだ可能性があるのではないか、と考える。未練もある。本当は閉めたくない、と思うと心が痛む。
頑張ってきたことならなおさら、あっさり閉めるわけにはいかない。
だから、その未練を断ち切るために、「可能性はもうないよ」と自分に言い聞かせるために、自分のプライドを捨てたり、恥をかいたり、痛い思いをしながら「閉じる」ための儀式を繰り返し、閉じていくのです。

――「閉じどき」を逸してはならない。
『閉じる幸せ』にはそう書かれています。

残間さんの「閉じる」という思想に触れて私が思い浮かべたのは、男女の「閉じどき」でした。

時に、進むにも退くにも苦しい恋がある。
傷つき傷つけ合い、疲弊しきってもなお、離れることができない。
「きっともう、うまくいかない」と心のどこかで分かっていても、好きな気持ちを断ち切ることができず、関係を続けてしまう。
私も、そんな恋に苦しんだひとりです。

もみ合ってお気に入りの服に赤ワインが飛び散ったり、泣きすぎて付けたばかりのまつ毛が全部落ちてしまったり!
ダメ押しの儀式はたくさんありました。

思えば、最後の夜も1つの「閉じる」儀式でした。
愛とも憎しみとも哀しみとも判別できない感情がもつれ合った夜。
ふたりとも終わりが分かっているからこそ、仲良く付き合っていた時には決して味わえなかった快楽がそこにはありました。
このもつれた感情とそれ故の快楽を、彼と共有できるのはこの世で私ひとりだけ。
それは、この上ない恍惚。
「この人とはこの先、これ以上のセックスはできないだろうな」と思ったら、またひとつ、諦めがついた。

男女の関係を「閉じる」タイミングは、本当に難しい。
でも、だからこそ「閉じどき」を見極めなければならない。

まだギリギリ良い思い出として終われる最後のタイミングを逃さないこと。
苦しい期間が続くと、その記憶が幸せだった記憶を侵食してしまいます。
彼のおかげで乗り越えられた夜があったのに、彼のことで涙した夜の記憶の方が強くなる。
それが完全に逆転する前に、離れた方がいい。

友達や家族など自分の大事な人たちに過度に心配や迷惑をかけるようになるのも、ひとつの潮時です。
それ以上続けると、大切な人たちを失うことになりかねない。

また、自分が苦しめば苦しむほど、周囲は相手を「ろくでもない男だ」「ひどい男だ」と貶める。結果的に好きな人の価値を自分自身が下げてしまうことは、本意ではない。

閉じる儀式を繰り返すうちに、自然と「じゅうぶん頑張ったから、もうラクになっていい」と思えるようになりました。
離れた場所で、この先お互いに幸せに生きることもまた愛なのだと。


閉じる作業の真っ最中に、たまたま美容室で手渡されたファッション誌『GINGER』(幻冬舎)に掲載されていた山田詠美さんのエッセイが目に留まりました。

「男と女の間には、いつどんなハプニングとケミストリーが待ち受けているかは誰にも解らないもの。そして、甘い地獄に落ちてこその快楽というのも確かにあると思うから。
でも、そういう経験が、その先のすさんだ人生の始まりになってしまうか、美しい傷として、面ざしを引き立てていくかは、あなた次第だ」


閉じることで得られるエネルギーがある。
未来にはまた、新たなハプニングが待っているのだから。



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