2、森の番人
森に着く頃にはもう日は高く昇っていた。
しかし、朝に来たときとはうってかわって、アイとシコンは警戒しながら森へと入る。
「全っ然気づかなかったけど、ここって猛植(もうしょく)の森なのよね?」
どうにかアイの機嫌も直ったらしく、普通にシコンに話しかけた。
一方のシコンは、またアイを怒らせるんじゃないかとびくつきながら慎重に返事をする。
「う、うん。ヨマさんはそう言ってたけど、どれが猛植なんだろ…」
猛植というのは人を食べたり人に寄生する植物のことだ。
人間以外の種族を襲うことはないが、人間に対してだけは容赦なく攻撃行動をしかけてくる。
アイはきょろきょろと辺りを見渡しながら森を進んだ。
徐々に甘い香りが漂ってくる。
「何のにおいかな?でも、本当に猛植があるならちょっと見てみたいよね。街には生えてないしさ」
「うぅ…私は嫌だよぉ…。怖いよぉ…」
そのとき、頭上で軽やかな足音が響いた。
2人が顔をあげると、白い髪の少年が木の上からこちらを見下ろしているのが見える。
「あ!ヨマさん!」
アイは目を輝かせて叫んだが、ヨマと呼ばれた少年はむすっとした顔で2人を睨み付けた。
「あのなぁ、俺が朝にした話、ちゃんと聞いてたか?」
ヨマはアイより少し小さいくらいだったが、成人のようなすごみを見せた。
しかしアイはまったく動じずあっけらかんと言った。
「わぁー!ヨマさん大人みたい!」
「だから大人だってさっきも言っただろ!人間とパルミクは違うんだ」
ヨマの気迫に圧されて、なぜか怒鳴られていないシコンがすっかり縮こまる。
「す、すみません…」
一方のアイは叱られているのにも関わらず、嬉しそうに言った。
「わかってるよぉ。でもさ、本物のパルミク見るの初めてなんだもん!小人って聞いてたからもっと小さいのかと思ってたのに、それだけがちょっと残念」
「ざ、残念って…。勝手に期待するなよな…」
ヨマは呆れきってしまったらしく、覇気のない声で言った。
「なぁ、朝も言っただろ?森を観光したいなら入り口はあっちだ。こっちは猛植がわんさかいるんだぞ。それに、ポルクなら村の土産屋に売ってる。この森の奥にあるやつとは違って小さいけど、十分願い事を叶える力はあるんだ。危険だからこっちの森には近づかないでくれよ」
「私たち、観光もポルクももうどうでもいいの。ほら、ちゃんと買ったしね」
アイが誇らしげに首からさげたポルクを見せると、シコンも自分のポルクを大事そうに握った。
「ふーん、じゃあ今度はなんでここに来たんだよ?やっぱり大きいポルクがいいとか言うなよ?」
「言わないよ!ヨマさんを助けに来たの!」
アイは憤慨して言ったが、シコンはヨマの機嫌が悪くなってきているのを察知し怯える。
「助けるってなんだよ?」
「変な人たちが森の奥のポルクを狙ってるの!もうこっちに向かって来てると思うよ!」
アイの必死な様子にようやくヨマも重い腰をあげ、幹をするすると降りてきた。
アイとシコンの前に立つと、吸い込まれそうなほど美しい青い瞳を2人に向ける。
「男ってどんな男?」
「なんか強そうで…あと武器とかもいっぱい持ってるよ」
「で、その証拠は?」
「え?」
「俺はどうやっておまえらを信じればいいの?」
「そう言われても…」
まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったので困り果ててしまった。
「証拠はないけど、さっきカフェで聞いたんだよ。この森のポルクを取りに来るって…」
アイの悲しそうな表情を見てヨマはさすがに良心が痛んだのか、少し声を和らげた。
「その話が本当ならなおさらここに近づいちゃいけないよ。俺は大丈夫だから2人は早く帰るんだ」
「でも人間の大人の男3人だよ?パルミクは小さいし、1人じゃ絶対無理だよ」
「大丈夫。いざとなったらこれを使うよ」
ヨマは少し体を傾け、背中に負っている細い銃を見せた。
「パルミクの最終兵器だ。ただ、これは猛植の種をたくさん使う武器だから、アイとシコンがいたら使えないん…」
ヨマはそこまで言うと急に黙った。
警戒するようにじっと耳をすませる。
シコンは不安そうにヨマを見た。
「ど、どうしたんですか…?」
ヨマは黙ってアイとシコンの後ろを指さした。
恐る恐る振り返ると、毒々しい紅色の花がたっぷりと蜜を出している。
どうやら先ほどの甘い香りはこれだったようだ。
ヨマは低い声で言った。
「これは人間が近くに来ると蜜を出すんだ。アイとシコン以外の人間がこっちに近づいて来てるよ」
「そ、そうなの!?」
アイは驚いて叫んだ。
「も、もう来ちゃったんだ…」
シコンは身を震わせる。
ヨマは落ち着いて2人を見た。
「大丈夫。俺から絶対に離れないで。とにかく奥へ行こう。このままだと見つかる」
先に歩き出すヨマを見てアイは慌てて後を追った。
しかし、シコンは煮えきらない態度で戸惑っている。
「どうしたの、シコン?早く行かないとあの男たちに見つかるよ」
「う、うん…でも…」
シコンは先ほどの紅色の花を見た。
「この先ってああいうのがいっぱいいるんだよね…?」
「ん?うーん…たぶん…」
「人間が近づくと蜜を出すってことは猛植なんでしょ…?」
「あ、そうかもね。おびきよせてるんだろうし…」
虫などのように蜜を採る人間こそいないが、興味を持って近づく者はいるだろう。
猛植はそういった人の心理を理解しているのかもしれない。
シコンはいつものようにうるうると目に涙をためた。
「こ、怖いよぉ…。私、奥には行きたくないよぉ…」
「もー」
アイはしっかりとシコンの手を握った。
「大丈夫だからね。見慣れない植物には近づかなければいいだけだから。私も一緒に見て歩くからね」
「アイちゃん…」
シコンはアイに励まされなんとか歩き出した。
自分の震えは伝わっているはずなのにまったく恐れないアイがかっこいいと思った。
そして同時に、自分のはっきりしない性格にもつくづく嫌気が差すのだった。
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☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この話は「幼神の決意」と世界観を同じくしていますが、「幼神の決意」より数百年後のお話です。
もしお時間があれば、前作も読んでいただけると嬉しいです(*´ω`*)
さてさて、今日は大家さんからご立腹の電話があり、「ごみの出し方間違ってますよ」との話が旦那いったそうです。
大家さんの奥さんが旦那に電話したのですが、受話器の後ろで大家さんが大声で罵声を浴びせてきたとのこと(笑)
私たちの駐車場がヤンキーの方々にとられたときは戦ってくれなかったくせに(今もとられっぱなし)、私たちの間違いは強気で指摘してくるんですね。
人を選んで態度を変える人って嫌だなーと思いました(*_*)
引っ越して間もないとはいえもちろんこちらが悪いので旦那はすぐ謝ったそうなのですが、「こっちにはあなたたちが間違っているという証拠もあるんですよ」と強気の大家さん。
そして続く罵声。
いやだから、わかってるってばw
容疑を否認してないってばw
用事があると休みの日の朝早くから訪ねてきたりするし、ヤンキーさんと離れるためにもできれば引っ越したいものです(*_*)