:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-
零れた砂 3
梅雨も明けてここ数日は晴天が続いていたのに、今日はちょうど帰るタイミングで雷雨に見舞われてしまった。
事務所の駐車場に止めたままの自転車はそのまま預かってもらうことにして、雨足が弱まるのを待つことにする。
地下にある駐車場で守衛さんに一言告げ挨拶をしていると、エレベーターが開いた。
「あ…っ」
「っ…!」
「あっキョーコちゃんっ!」
突然のことに言葉を失う私。
驚いた顔の敦賀さん。
沈黙を破ったのは、社さんだった。
「あ…敦賀さん、社さん、お疲れ様です」
「今から帰るの?外はすごい雨だよ?」
社さんは私の右手に傘傘が握られているのを見つけて、驚いた様子だった。
「あ、はい。少し雨足が弱まるまで部室で待ってから帰ろうかと…」
その後も何かと世間話が続く社さんと会話をしながらも、後ろで黙ったままも敦賀さんお様子に居心地の悪さが拭えない。
早くこの場を去りたい。
「そうだ蓮。お前も今日はこれで終わりだし、キョーコちゃんを送ってあげなよ」
「えっ…!?」
社さんの提案に敦賀さんは、ため息をついた。
不本意さを隠そうともしない敦賀さんを目の当たりにして、今までの敦賀さんとの関係はすっかり変わってしまったことを実感した。
「だ、大丈夫です私っ!もうすぐ雨も収まるでしょうし、お疲れの敦賀さんにそんなご迷惑…」
ここで敦賀さんに拒絶の言葉を告げられたら、もうどう足掻いても二度と立ち上がれない。
「え~、これから暗くなるし、女の子一人じゃ危ないよ?」
「で、でも…」
「………最上さんは俺に送られるの迷惑?」
なかなか折れてくれない社さんに必死で食い下がっていると、敦賀さんの口から信じられない言葉が零れた。
咄嗟に見上げた敦賀さんの顔。
久しぶりに正面からはっきりと見た敦賀さんは、不機嫌そうに私を見下ろしていた。
「そ、そんな訳は…」
いたたまれなすぎて、視線を足元に固定した。
「よい決まり!じゃあ俺、車回してくるから!蓮とキョーコちゃんははそこで待っていて」
言うが早いか、社さんはいそいそと車を取りに行ってしまい、必然的に私と敦賀さんは二人でその場に残された。
気まずい時間は過ぎるのが遅い。
所在なく肩に掛けたトートバッグの持ち手を握りしめていると、鞄が震え出した。
中に入れていた携帯電話が鳴ったのだ。
重い沈黙を破るきっかけは、私の携帯電話の着信だった。
「は、はいっ最上ですっ」
まるで救いの神に縋るかのようにその着信に飛びついて通話をはじめる。
『あ、京子ちゃん?お疲れ~』
「長谷川さん!?」
着信の相手は、今撮影中のドラマの共演者である長谷川さんだった。
先日の中打ち上げの際、若手共演者みんなで番号の交換をしようということになって、その場に居合わせた私と長谷川さんも電話番号を交換し合った。
『今から現場のみんなでご飯に行くんだけど、京子ちゃんも一緒にどうかな?』
今日の撮影に私の出番はないため休みだったが、他の共演者の方々との食事に私も誘ってくれた。
「あ、今からですか…その……きゃあっ」
『えっ、京子ちゃ…』
突然手元から取り上げられた携帯電話。
見上げた先で私の携帯電話を高く掲げた敦賀さん。
敦賀さんが携帯電話を操作すると、画面が暗くなった。
「おまたせ…って、おい、蓮!?」
敦賀さんは私を流れるような速さであっという間に助手席に座らせ、運転手交代のため車から降りた社さんに代わり運転席に乗り込むとエンジンをかけた。
「社さん、お先に失礼します」
「はぁ!?ちょっ…蓮!」
あまりに素早い動作に、状況が掴めないまま狼狽える社さんを気にも留めず、私を乗せたまま敦賀さんは車を発進させた。