こんばんは。

おかげさまで我が家も3周年を迎えました。

 

久しぶりの更新は、先日(と言いましても、すでに3か月も前ですが…( ̄□ ̄;))拍手のキリ番を申し出てくださったお方に、リクエストしてくださいっとおねだりしたところ、「プライマリーの続きか、それっぽいモノ」とのお返事をいただいた件でございます。

遅すぎて最早、お忘れになってしまっているかもしれませんが、本日どうにかUPにこぎつけることがことができました|д・)チラッ

S様、リクエストくださってありがとうございます。

久しぶりの小学生蓮くん。楽しんで書かせていただきました。

 

それでは皆様、よいゴールデンウィークを(^-^)ノ~~ ←遅い

 

 

 

 

 

 

 

☆.。.†:*・゜☆.。†.:*・゜

 
 
 
 

初夏の陽気が漂い始めた5月。

爽やかな晴天に恵まれた本日は…

 

 

 

 

運動会です。

 

 

 

【プライマリーな彼ら  ~春の大運動会~】

 

 

 

ポンポンと軽快な音を鳴らして花火が上がり、

校庭を囲むように並べられた色とりどりのレジャーシートからご父兄方が見守る中、入場門より校庭に入ってきた児童たちが整列する。

 

「選手宣誓。紅組代表、上杉飛鷹。白組代表、貴島秀人」

 

名前を呼ばれ壇上に上がった両応援団長。

小学生とは思えない落ち着いた雰囲気と早熟な体躯。同学年の女の子達はもちろん、お母さんたちからの覚えもいい貴島秀人。

そして6年生にしては小柄な体格と幼い顔立ちにぶっきらぼうな態度ながら、育ちと品の良さが際立つ上杉飛鷹。

どちらも俺のクラスの児童だ。

少しだけ幼さの残る低い貴島の声と、変声期前の高く通る上杉の声。

二人の声が重なって述べられる選手宣誓は、観覧のご父兄方からの大きな歓声と拍手をもって恙なく進行された。

 

開会式も無事に終わり、運動会は滞りなく進んでいく。

今は各学年の徒競走の時間だ。 

まだ小学校に上がったばかりの1年生の徒競走は、大きな歓声の中で最後まで走り切ることができるのか、転ばずにコールできるのか心配する中、教師もご父兄の方々も大きな声援を送りつつ我が子の成長した姿に感動し声援を送った。

高学年になると児童たちの身体つきもぐっと大人に近づき、走るときもフォームも様になってくる。

人気のある男子児童には女の子からの黄色い声援が飛び交うし、父兄席からも自分の子供そっちのけで応援するお母さんたちまでいるほどだ。

 

「社先生のクラスは目立つ児童が多いから盛り上がるわね」

 

隣に立ったのは養護教諭の琴南先生だ。

今日は怪我人の応急処置のためにテントで待機しているはずだが、暇になったのかグラウンドまで出てきたようだ。

 

「どのクラスもみんな頑張ってるよ」

 

今日のために一生懸命練習した子も、走るのが苦手で朝から憂鬱な顔をしていた子も、走り終えた子供たちはどこか安心したようにリラックスした様子で他の児童たちを応援している。

 

全校児童が走り終えると、次は高学年の目玉競技である騎馬戦だ。

 

「よっしゃ~!俺がハチマキ取って取って取りまくってやるぜ!!」

 

赤いハチマキを靡かせながら騎上で元気に気合を入れているのは、俺のクラスの不破だ。

 

「キャーッ!尚ちゃぁぁぁんっ!頑張って~!!」

 

応援席からぴょんぴょん跳ねながら熱い声援を送っているのは、七倉美森。

 

(美森…敵チームだろ…)

 

半ば呆れながら応援席を眺めていると、隣に立っていた琴南先生が立ち去るところだった。

 

「見て行かれないんですか?」

 

「毎年この競技は何人か怪我をするのよ」

 

なるほど。

俺は納得して琴南先生を見送った後、不測の事態に構えて競技を見守った。

 

騎馬戦は白熱の接戦を繰り広げた末、紅組が勝利した。

 

「やったぜ!!」

 

左手を高く上がてガッツポーズをする不破。

普段はクールを気取っていても、まだまだ小学生だな。

帰ってきた児童たちを労おうと退場門に向かうと、なにやら険しい顔をしたキョーコちゃんが不破の左腕を掴んでいた。

 

「ちょっとこっちに来なさいよ」

 

「…なにすんだよっ」

 

抵抗する不破をものともせずに、キョーコちゃんは引っ張っていく。

そして向かった先は琴南先生のいるテントだった。

 

「なに?怪我?」

 

「はい。この馬鹿、右腕を痛めているみたいで…」

 

そう言って問答無用で不破の体操服を捲るキョーコちゃん。

 

「あら本当。よく気付いたわね。ほら、手当するから座りなさい」

 

誰も不破がけがをしているなんて気づかなかったのに。

少しの異変にさえ気づくなんて…

 

(さすが幼馴染……)

 

関心して見ていると、一筋の冷たい風が背中から頬を撫でた。

 

(ん?風が出てきたかな?雨が降らないといいけど…)

 

児童たちのもとに戻ろうと踵を返したところ、目の前に蓮がいた。

 

「うっ…わぁっ……蓮、どうした?どこか怪我したのか?」

 

「いえ…」

 

それだけ言うと蓮は応援席へと戻っていってしまった。

なんだったんだ?

蓮にしては珍しく、表情が見えなかったことに少しひっかっかたが、俺の気のせいかな。

 

 

☆☆

 

 

幸いなことにその後天候が崩れることもなく、次は6年生男子による綱引きだ。

どちらのチームも、勝つために一生懸命知恵を出し合って作戦を立てた。

白組は体の大きい児童を後ろに配置するなど、並びかたを工夫していた。

対する紅組は綱の握り方にこだわったらしい。

 

開始の合図とともに、大きな掛け声が響く。

そして場外からは女子児童とお母さん方の声援。

 

「不破くーん!がんばって!」

「貴島君っもう一息っ!」

「キャー上杉君、かわいいっ!」

「敦賀くーん、かっこいい!!」

 

人気男子には個別に声援が飛び交う。

 

 

ピーッ!

笛の合図で綱が降ろされた。

白組に軍配が上がり、貴島と蓮がハイタッチする。

長身イケメン同士の爽やかなハイタッチに会場は今日一番の盛り上がりを見せた。

 

 

 

「おつかれ。よく頑張ったな」

 

俺は応援席へと戻ってきた児童一人一人に声をかけた。

 

「あ、蓮…よくがんばっ…」

 

「最上さん、見ててくれた?」

 

俺の前を素通りした蓮は、一直線に応援席にから駆け寄るキョーコちゃんに笑顔を向けた。

 

「敦賀君、足擦りむいたんじゃない?」

 

小首をかしげて心配そうに蓮を見上げるキョーコちゃん。

 

「っ!?……気づいて…くれたの?」

 

「え?うん」

 

嬉しそうな漣の眩しい笑顔。

あれ、なんだろ。

蓮の後ろにおおきなしっぽが見えた気が…?

ふっさふさのもっふもふがブンブンと…

 

「敦賀君、一緒に救護テント行こう?」

 

「うんっ……あっ…」

 

キョーコちゃんが蓮を促して歩き出そうとするが、蓮は立ち止ったままだ。

 

「どうしたの?」

 

「あの…傷があるって気が付いたら、急に痛くなって…」

 

「ぶふぅっっ…!!」

 

失礼。今のは俺が噴出してしまった…

はぁぁぁ!?

おいおい蓮くん、おまえいくつだよ!?

なんだよその捨てられた仔犬さんのような瞳は!?

 

「そうなの??じゃあ、ゆっくり歩くね」

 

しれっとキョーコちゃんに手を引いてもらいながら、蓮は嬉々として救護テントまで歩いていく。

キョーコちゃん、俺は君の将来が心配だよ。

頭もよくて素直。

気が利くし頭の回転も速い。

勘も鋭いししっかりしていて委員長としても頼もしい。

なのに……

なんでそんなにチョロいんだ!?

今この瞬間のキョーコちゃんを含め、この先将来の彼女が心配でたまらなくなった俺も急いで救護テントへと向かった。

 

 

 

 

「あら怪我人?」

 

テントに入ると、琴南先生が先客の手当てをしていた。

 

「先生、敦賀君が足を擦りむいちゃって…」

 

「じゃあそこに座って待っててね」

 

手際よく包帯を巻きながら、琴南線は蓮に指示をした。

 

「先生、私消毒だけ先にしておきましょうか?」

 

忙しそうに動き回る琴南先生にキョーコちゃんが声をかけている。

普段から琴南先生とは仲が良く、保健室にも出入りしているキョーコちゃんは軽い擦り傷の処置くらいなら手伝えるようだ。

 

「助かるわ。よろしくね」

 

「はい。えっと…消毒液…」

 

キョロキョロとあたりを探すが、忙しさのあまり煩雑になっているテント内でなかなか見つからない。

 

「最上さん、最上さん」

 

「ん?敦賀君痛い?ちょっと待っててね」

 

振り返ったキョーコちゃんに蓮は満面の笑みを向ける。

テント内にいた児童や他の先生方までもが顔を赤らめて蓮に見とれ、凝視している。

けど、肝心のキョーコちゃんは平然として蓮に「待て」を言い渡す。

 

「あの、さ…。日本では擦り傷って舐めたら治るんでしょう?だったら最上さんが」

「あぁぁぁ~~!こぉ~んな所にマキ〇ンがぁぁ!!!」

 

「………チッ」

 

蓮が言わんとすることは、何としても全部言わせてはいけない!!俺は必至で奇跡的に近くにあった消毒液を高く掲げて蓮の言葉を遮った。

んで蓮君、君いま舌打ちしなかった!?

俺先生なんだけどっ

 

「蓮、蓮、ちょっとこっちに来なさいっ!舐めたら治る治らないは日本とかアメリカとか関係ないから!世界共通だからっ!」

 

「注意はソコですか。じゃあ俺、最上さんに手当てしてもらわないといけなので」

 

「あっ…ちょっ……」

 

蓮の肩を掴む寸前で躱されてしまった。

本当にアイツは…

 

「うぅ…いただ……」

 

チクンと痛む意を摩りながらため息を吐く。

項垂れた俺の目の前に、スッと細くてきれいな指先。

その人差し指と中指に挟まれたPTPシート。

 

「はい社先生」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「おつかれさま」

 

小さな声で力なくお礼を言って受け取ると、ひとつため息を吐いた琴南先生は俺に一言だけ言って児童たちの元へと戻って行った。

怪我人の処置がほとんどの運動会特設救護テント。

こんなところにまで胃薬を用意しておいてくれるのは、きっと常連の俺のためだ。

琴南先生の優しさが胸にしみて、掌の中で握りしめたら、PTPシートがチクチクと手に刺さった。

 

 

 

 


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