忘れたころに。
上記タイトルは
『いつか書いてみたいお話』シリーズ。
の、「いつか」。






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なにがどうしてこうなったかわからない

ただ、一つ言えるのは、昨夜はいつもとかわらない夜だったということ。
特に変わったことといえば、収録の合間に意外な客が来たことくらい。


交際発覚から一年。
どうにかこうにか入籍までこぎつけたのがひと月前。
キョーコとの関係を隠さなくてよくなった俺に、愛妻家の二つ名がつくのに時間はいらなかった。

昨日、番組は違えど同じ局での収録だったため、時間を合わせて昼食の約束をした。
約束の時間までもう少し。
いつもより楽屋の扉をたたく音が力強かったことに、浮かれた俺は気づくのが一瞬遅れた。

「げぇ」

俺の代わりに扉を開けた社さんから、顔に似合わない潰れた声。

「あんた、担当俳優と同じくらい失礼なマネージャーだな」

不機嫌そうにぼやく声が聞こえてきた。
振り返るまでもない。
今やその声は街中で聞かない日はないくらいに溢れ、日本のみならず海外にまで届くものだから。

「やあ不破君」

俺は大人。俺は大人。
キョーコと不破はただの幼馴染。
俺とキョーコは夫婦。
キョーコと不破はなんの変哲もないただの幼馴染。
俺とキョーコは仲良し新婚夫婦。
胸の内で呪文を唱え、彼を迎え入れた。

「海外に行ってたんじゃなかった?」

「ああ。さっき帰ってきたところ」 

進めてもいないのに備え付けられたソファにどっかりと座る不破。
もうすぐキョーコが来てしまう。

「それじゃあ疲れているんじゃないか?

早く帰……
俺は大人。俺は大人。
俺とキョーコはラブラブ新婚熱愛夫婦。

「結婚祝い、持ってきてやったんだよ」

そう言ってテーブルに滑らされたのは分厚い祝儀袋と…

「これは?」

「ウチの親から」

渡されたのは古いアルバム。

「アイツ、京都を出る時に全部置いて行っちまったからな。いや、そもそもコレの存在すら知らないのかも。冴菜さんはこういうことする人じゃなかったし」

表紙をめくると、幼いころのキョーコの写真。
まだ歩き始めたばかりのような赤ん坊の写真。
先をめくると、昔京都で出会った頃のキョーコの姿があった。
来ているワンピースには見覚えがある。
懐かしさに目を細め、あの頃の思い出に触れるように写真を撫でた。

「ちっ。幼女のキョーコまでエロい目で見やがって。変態か」

そんな不破の悪態も耳に入らないくらい写真に見入っていた。
しばらくして、かすかに聞こえた音に意識が浮上した。

「あぁ来たか」

「そうみたいだね」

気づいた不破が、のっそりと座っていたソファから立ち上がった。
コイツも気づくのか。
不思議そうにキョロキョロする社さん。

「あんな浮かれ色ボケた足音たてんの、アイツしかいねえ」

そういって扉を開けると、今まさにノックしようと拳を作ったキョーコが、驚いた顔で立っていた。

「あ、あ、あ、あ、あんた、何しに来てるのよぉっ!!!」

その大声さえも予期していた不破は、既に両耳を塞いでいたためノーダメージでため息を吐いた。

「おい、大人しくしてねぇと旦那の評判下げるぜ。オクサマ」

慌ててキョーコが口を閉じた隙に、不破は帰って行った。





夜になって、マンションに帰った俺はキョーコが作った遅めの夕食を堪能した後、メインディッシュのキョーコを堪能するべく早々にベッドルームに連れ込んだ。
そんな俺の思惑に気づかないキョーコは、昼間不破が持ってきたアルバムを懐かしそうに眺めている。
決していい思い出ばかりではなかったはずの幼少期。
それでもポツリポツリと俺に思い出を話してくれるキョーコ。
ページを捲る手が止まった。
見れば俺と初めて出会った頃のキョーコの姿があった。

「このワンピース、一番のお気に入りだったの。コーンは妖精の王子様だったから、私も少しでも可愛くして会いたくて…」

当時から俺とのことを特別なものとして考えてくれていたキョーコが愛しくて堪らなくなった。
肩を抱き寄せ顔を近づけると、照れたように目を伏せて、それでも可愛らしく応えてくれるキョーコ。
小ぶりな唇を角度を変えながら触れ合わせ、舌先でなぞると小さく開いて俺を迎え入れてくれる。
そのまま舌を侵入させて彼女のそれに絡ませた。
なんでキョーコはこんなにどこもかしこも甘いんだろう。
夢中で堪能していると、息が上がってきたキョーコから艶のある吐息がこぼれ始めた。
薄く小さな掌はアルバムから離れ、俺のパジャマを緩く握るばかり。
キョーコの膝の上からアルバムを取り上げてサイドテーブルに置き、そのまま二人でベッドへと身体を沈めた。






そんなわけで、昨夜はいつもと変わらない夜だった。
だからいつもと変わらない朝を迎えるはずだった。

朝の光が微かに差し込む寝室。
少し肌寒くなってきた季節は、隣に寄り添うぬくもりが最高に心地いい。
幸せすぎて起きたくないなんて、キョーコと恋人になるまで思ったことなかった。
柔らかなキョーコの肌を求めて腕を伸ばす。
抱き寄せた手に触れたのは肌触りのいいパジャマの生地。
昨夜はなかなか解放してやれず、過ぎた快楽に意識を飛ばしたキョーコを素肌のまま抱きしめて眠りについたはずなのに、いつの間に着込んだのか。
残念な気持ちと、寒がらせてしまった申し訳なさを混ぜながら、小さな背中を撫でる。
小さな…ん?
小さすぎないか??

違和感を感じて瞼を上げると、視線の少し先には素肌の肩を少しだけ出したキョーコの姿。
では、俺の腕の中にあるモノは…?
視線を落としてシーツをめくった。

「うわぁっ!」

「ふぇっ?な、なになに!?」

珍しく慌てた俺の声に、キョーコも驚いて飛び起きた。

「…な、なんだこれは?」

シーツの中で丸まるように眠っていたのは、白地にピンクの星が散りばめられたパイル地のパジャマ。
真っ黒な髪は肩まで伸びていて、隙間から除くピンク色のほっぺはふっくら柔らかそうな子どものそれ。

「キョーコちゃん…」

そう、まさに昨夜アルバムで見た、幼いころのキョーコそのものだった。




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★から下、幼キョーコちゃんVer、 幼クオンくんVer、 幼ショーちゃんVer(笑)
どれにしようかなぁ





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