こんにちは。
ご無沙汰しております。
久しぶりに書きました。
指がつりそうです。
仕事でもPCは使用するんですけど、なんか違うところに力が入ってるんですかね。指の。
さて、随分と前になってしまいましたが、我が家の拍手3923(サンキューニーサン)なナイスキリ番を押してくださった方からもぎ取ったリクエストにお応えさせていただきました。
お待たせして申し訳ありません。
以前我が家で書きました 『それは何の……』 の続きです。
久しぶりの文章で拙さ激増ですが、お読みいただけると幸いです(`・ω・´)ゞ
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「ごちそうさまのキスなら、もう貰いましたけど」
その言葉を声に乗せることはなかった。
そのまま何度も口づけられて、言葉を発するタイミングなんてなかったから。
啄むように繰り返し触れ合う唇。
少しづつ長くなるそれに、いつもと違う敦賀さんの瞳に戸惑って口を開いたら、その隙間から入ってきたものに思考が止まった。
少しだけ香るのはほろ苦いコーヒーなのに、私の舌を優しく撫でるあまい……
何度も撫でられる柔らかい感触。
身体中から力が抜けて、ズルズルとソファの背もたれから背中が崩れ落ちた。
力の入らない手で必死で敦賀さんの服に掴まったら、覆いかぶさるように私を支えてくれる敦賀さんから香る甘い香り。
いつもの爽やかな香水の香りのはずなのに、なぜか今日はひどく甘く感じた。
ちゅっ…っと小さな水音を立てて、敦賀さんと私の間に隙間ができた。
「っ…はぁ…ぁ…」
急に解放された呼吸。
息が上がり目に涙が滲む。
頬を包む敦賀さんの手に自分のそれを重ねて見上げると、敦賀さんの瞳にも熱が宿っている。
「これは、なんのキスですか…?」
震える声。
恥ずかしさと戸惑いで顔を上げることが出来ず、俯いたまま訪ねた。
「なんだと思う…?」
答えを聞いたら、すべてが終わると思った。
先輩後輩としての関係も。
尊敬する雲の上の目標としての関係も。
食育係としての特権も。
怖くて、敦賀さんのシャツを握る指に力が籠る。
指先が白くなるほど握りしめた手を、敦賀さんの指が外していく。
その行為に無言の拒絶を察知して、反射的に顔を上げた。
「これは何のキスだったと思う?」
そっと頬に添えられた大きな手。
その親指で私の唇を撫でるのはいつしかのそれで。
でもその目は違っていた。
夜の帝王のそれではなく、なんて心細そうな…。
熱のこもった、なのに不安に揺れる瞳。
その瞳から目を離せなくて、吸い寄せられるように私の手も、敦賀さんの頬に触れた。
「勘違い…しても…いいんですか……?」
驚いたように見開かれた瞳。
そんな顔まで完璧に整ってるなんて。
「都合のいいように…勘違い、しますよ?」
繰り返しそう言ったら、ソファに横たわるような体制だった私の肩に顔を埋めるように敦賀さんがまた覆いかぶさってきた。
大きな身体に包み込まれる心地良さ。
心臓は破裂しそうなに鳴り響いて、手だって小刻みにずっと震えてるのに。
怖くて仕方ないのに、体中が熱くてたまらない。
「うん。して」
敦賀さんの長い腕が私の背中へと回る。
「俺も勘違い、するから」
そう言ってまた敦賀さんの唇が私のそれに重なった。
繰り返されるキスの合間に、小さく好きと呟いたら、目元をほんのり染めた敦賀さんが「俺も」と返してくれる。
そうして私たちのキスに理由はいらなくなった。
☆☆☆☆
「……へぇ~~~」
スマホに視線を落としたまま答える俺に、不満そうな顔を覗かせる蓮。
念願の交際報告にこの塩な反応はさぞかしご不満であろう。
思った以上に愛情が重量級だった担当俳優は、周囲に秘密にしている分、惚気話を聞かせる相手が限られている。
そんな状況じゃ、俺のこの態度はご不満だろう。
だがしかし。
俺にも俺の事情がある。
ことの発端は数か月前。
時期は若干あやふやだが、忘れもしない数か月前。
蓮が休憩する楽屋へキョーコちゃんが訪ねてきた。
ここまでは、いつものことだ。
食事に対して究極に不精な蓮のため、お弁当を届けてくれた。
なんていい子なんだ。
ここまでは、良い。
後はお若いお二人で…とばかりに、そっと席を外して雑務を熟した俺は、移動時間も考えて1時間程で蓮の楽屋へともどった。
そしたらなんとっ
ふ、ふ、二人がキスしてるじゃないかぁ!!
一体いつの間に!?なになに付き合ってんの!??
担当俳優の機微は小さなことでも見逃さない敏腕マネージャーの俺が、まさかこんな一大事を見逃していたというのか??
マネージャーとしてのプライドは大きく傷ついたけれど、難攻不落のキョーコちゃんに長く片思いしていた蓮の恋が実ったと思えば、それはそれは嬉しいことで。
辺りをキョロキョロ見回して誰もいないことを確認してからそっと扉を閉めて、喜びを噛み締めた。
よかったな蓮!報告をうけた暁には目いっぱい応援するぞ!でもその前にイジリ倒すけどなっ!
なんて考えながら制限時間ギリギリまで二人きりにさせてみた。
その後、いつまでたっても蓮からキョーコちゃんとの関係について報告はない。
そして最近蓮の様子がおかしい。
普段の仕事ぶりはいつもと変わらないし、共演者スタッフへの愛想の良さも平常運転。
いや、いつも以上に色気と笑顔を振りまいて、キョーコちゃんなら顔面蒼白レベルのキラキラ度合いだ。
テレビ局の楽屋の扉を閉めた途端、大きく息を吐いた蓮。
「蓮?どうした?」
「え?」
「最近様子がおかしいぞ。その……キョーコちゃんと何か、あったの…か?」
蓮にこんな顔をさせるのはキョーコちゃん絡みしかない。
「何もないですよ」
「いやでも…」
「ないんです。…何も」
そう言って蓮はソファに深く体を沈めて、目を伏せてしまった。
蓮の様子から、無理に聞き出してはいけないと悟った俺は、しばらく様子を見ることにした。
それから数日。
いよいよ煮詰まってきた蓮の色気は強力な破壊兵器の様相を呈してきた。
すれ違う人たちを男女問わず骨抜きにして、俺への被害報告と苦情が過去最高に達した。
「蓮!どうしたっていうんだ」
「すみません」
しょんぼりした大型犬の垂れたしっぽが見えた気がした。
そうして聞き出した事情に、俺は開いた口が塞がらなかった。
そりゃ俺に報告もないわけだ。
だって付き合ってないんだから。
「とにかく、キョーコちゃんは何とも思っていない奴とキスなんかする子じゃないだろう」
「はい…」
「ちゃんと告白して、はっきりさせてこい」
「はい」
そう言って楽屋から蓮をたたき出したのが昨日のこと。
そして今日、蓮からの報告に対する俺の返事がさっきのそれだ。
朝迎えに行った俺に向けられた蓮の満面の笑顔。
なんの憂いも残されていない純粋なそれは、昨日までとは違った意味で周囲に多大な影響を及ぼしている。
結局俺に寄せられる被害報告と苦情の数は全く減っていない。
今だってスマホの画面から目が離せないのは、そんな各所への対応に追われているからだ。
「社さん、聞いてます?」
「はいはい聞いてるよ」
スマホから視線を移して、正面から蓮を見上げる。
「蓮、おめでとう。よかったな」
「社さん」
「これからのことは社長と相談するとして、俺にできる限りのことは協力するから」
「ありがとうございます」
はにかんだ蓮の表情は、今まで見た中で一番幼く純粋な笑顔だった。
きっとこれが蓮の素直な表情なんだろう。
新しい彼の一面に仕事の幅が広がることを確信した。
何はともあれ、お兄ちゃんは可愛い弟と妹を全力で応援しますよ。
まぁ、イジるのも忘れないけどね。