こんばんは。
暑い日が続いております。
さて、夏休みですね。
職場の私のPCには「なつやすみ」っていうフォルダがあります。
要は夏休み中の出勤表ですが‥
そんなわけで「なつやすみ」をテーマに書いてみました。
<彼と私>のなつやすみ
地下駐車場に停めた愛車から降りて、手元のキーでロックする。
関東地方が少し遅めの梅雨明けを宣言してから1週間。
紺碧の空には大きな入道雲。日中の気温はぐんぐん上昇して、その熱は日が沈んで夜になった今ももその名残を残している。
外よりは幾分ひんやりとした地下の通路を、心持ち急ぎ足で進みエレベーターに乗って最上階を目指す。
上昇するエレベーターと同じくらいの速度で気分も上がる。
そんな浮かれた自分に少し呆れるが、決して嫌なものではない。
軽い到着音と同時にエレベーターの扉が開き、一直線に伸びた廊下の先。恋人の待つ部屋へと帰宅する。
時刻はとっくに日付が変わった時間を示している。
(もう寝ているよな…)
そっと玄関を開け中に入ると、フットライトだけがついた廊下と真っ暗なリビング。
一人で暮らしていたころの静かで冷たい部屋に帰ってきたみたいだ。
あの頃はただ寝るために帰るだけの場所だった。広いリビングも立派なキッチンも。快適ではあっても一人で暮らすには大きすぎて、かえって自分の孤独を実感させるだけだった。
でも今は…。
足元を見下ろせば、玄関の端にきちんとそろえられた小さなパンプス。
それは彼女が。キョーコがこの部屋いて、俺を待ってくれているという証拠。
そして自分の帰りが遅くなったら、明りを消して先に休んでくれるくらいに、この家での生活を当然のものとして思ってくれている証。
明りの消えたリビングも、そう思えば逆に嬉しいものに思えるから不思議だ。
リビングを通り過ぎ、自室へと向かう途中、ふと人の動く気配を感じた。
廊下の先、キョーコの自室から光が漏れている。
(まだ起きていたのか?)
起きていれば必ず出迎えてくれるはずなのに、珍しい。
そんな何気ない気持ちで彼女の部屋へと近づいた。
「はぁどうしよう」
少し開いていた部屋の扉を軽くノックをしたが返事がない。
なにか困っている様子のキョーコは、ノックの音にも気付かなかったようだ。
そっと扉を開けると、ビタミンカラーのビスチェタイプの水着を着たキョーコ。手にはフレアタイプの白と水色のビキニを握りしめている。
「どっち?どっちがいいの?」
あまりに真剣に悩みすぎて涙目になっているキョーコの姿に、思わず顔が緩んでしまう。
明日から1週間。
二人のマネージャーである社さんに頼んで確保してもらった夏休み。
二人で旅行に行こうと計画を立てた。
提案をした時のキョーコの嬉しそうな顔。どこに行こうかとガイドブックを見ながら相談するのは本当に楽しかった。
「そのオレンジと黄色のビスチェ、元気なキョーコのイメージにぴったりで好きだな」
「ひぃっ…つ、敦賀さんっ……おかえりなさい」
「ただいま」
部屋に入ってキョーコの白く透き通った肌を抱き寄せる。
こめかみにキスを落とすと、ほんのりと目元が赤く色づいた。
「まだ寝なくていいの?」
「だ、だって楽しみで…」
恥ずかしそうに小さな声で言い訳をするキョーコ。
「俺も楽しみ」
「水着、どっちを持って行こうか悩み始めたら止まらなくなっちゃって」
「どっちもかわいい。両方持って行ったら?休みは一週間もあるんだから」
「そっか…両方…」
「キョーコと出かけるのも楽しみ。一週間ずっと二人きりで過ごせるのも楽しみ。キョーコのかわいい水着姿を堪能できるのも楽しみ」
「なっ…」
慌てて腕の中で暴れるキョーコをぎゅっと抱きしめた。
「明日は早いし一緒に寝よう」
着替えを済ませ、キョーコと一緒にベッドへ入る。
適温に空調の管理された部屋で、二人でベッドにもぐりこむ。
キョーコの甘い香りと温かな体温が、疲れた体を眠りに誘う。
「敦賀さん」
「うん?」
半分夢心地で返事をする。
「私も、すごく楽しみです」
「うん、たくさん遊ぼうね」
「はいっ」
「おやすみキョーコ」
「おやすみなさい敦賀さん」
明日から、たのしい夏休み。