私は北条早雲(ほうじょうそううん)の子・幻庵(げんあん)です。
(早雲は最初は伊勢新九郎盛時(いせしんくろうもりとき)と名乗っています。)
今川氏(いまがわし)の家督争いを調停した盛時は妹・桃のいる小川の館に戻ってきました。
小川の館って今の静岡県焼津市なんだ。ここに今川氏の家臣・長谷川政宣(はせがわまさのぶ)さんの館があって桃たちはそこに身を寄せていたんだよ。
桃「兄上、ご無事でしたか?」
盛時「わしは何ともない。家督は龍王丸(たつおうまる)のものになったぞ。」
桃「ありがとうございます。亡き夫もお喜びのことでしょう。」
盛時「龍王丸が成人するまでは小鹿範満(おしかのりみつ)が代行致す。それまで龍王丸を立派な武将に育てるのが桃の役目ぞ。」
桃「先日作った書状は役に立ちましたか?」
盛時「これか、大いに役に立ったぞ。」
それは家督争いの調停会談の時に見せた前将軍・足利義政(あしかがよしまさ)様の御内書でした。
小太郎「盛時様、まさか御内書を偽装したと?」
盛時「まぁな。わしの父・盛定(もりさだ)は義政様の申次をしておるから義政様の書いたものを見る機会があったのだ。その文字を真似して書いたのだよ。」
桃「私も兄上の策には驚きました。」
盛時「京に帰れば、いずれ本物の御内書は出る。もしかしたら父がすでにもらっておるかも知れんがの。」
盛時も桃も小太郎(こたろう)も笑いに包まれました。
盛時「しかし、小太郎。会談の時に出した野盗の太刀、よく持っていたな。あれを見せたら小鹿一派は黙りこんでしまったからの。」
小太郎「盛時様が襲われた時に野盗が落としたものを拾っておいたんだ。いつか役に立つんじゃないかって思ってね。」
盛時「大いに役に立ったぞ!」
小太郎「でも、あれであの野盗が小鹿の配下だってハッキリしたね。」
盛時「うむ。桃、家督争いは一旦は治まったが、油断はならんぞ。」
桃「心得ました。」
小太郎「盛時様、桃様と龍王丸様には我が弟の新次郎(しんじろう)を付けておくよ。俺たちの配下の忍びも一緒にね。」
盛時「おぉ、それは心強いの。わしは京へ帰るが小太郎はどうする?」
小太郎「俺は盛時様に従って京に行くよ。」
盛時「そうか。では、しばらく様子を見てから京に帰るとしよう。」
盛時は年が明けた翌1477年に京へ向かいました。
その頃、京では1467年から続いた応仁の乱がようやく終息したのでした…。
つづく…
次回をお楽しみに〜